”砂漠に不時着した飛行士と、小惑星からやって来た小さな王子との出会いと別れをつづったその物語”(映画公式HPより)の、その後を描くことで、数え切れないほど多いファンが心に抱く世界観を壊すことなく、素晴らしい原作と、新たな創作の融合を実現した、素晴らしいファンタジー。
知らない人にも自然に伝えられる原作のテイスト
実は僕は、原作を読んだことがない。しかし本作は原作を知らない人でもすぐに楽しめる工夫をしている。
主人公の少女は、大きな裏庭に飛行機を隠し持つ、不思議な老人と知り合う。老人は少女に「砂漠に不時着した飛行士と、小惑星からやって来た小さな王子との出会いと別れをつづったその物語」を教える。実はこの老人こそが、かつて星の王子さまと出会った飛行士である、というわけだ。
逆に言えば、原作を知らない人は幸運である。ヒロインの少女の気分で老人が告げる物語を楽しむことができるからだ。
星の王子さまは、ざっくりこういう話だ。
サハラ砂漠に不時着した飛行士はわずかな水しかない絶望的な状況で、不思議な少年に出会う。この少年こそが星の王子であり、彼は小さな家ほどの小惑星に愛するバラの花と共に住んでいたが、あるときささいなケンカをきっかけで王子は、他の星への旅に出た。つまりその旅の途中で地球を訪れていた王子と飛行士は出会った、というわけだ。
王子とともに井戸を見つけ、飛行機の修理にも成功した飛行士だが、王子もまたとても辛く悲しい方法で自分の星へと帰ろうとしていた・・・。
美しい原作を包み込むようなオリジナルな展開
ヒロインの少女は、教育熱心な母親の「人生設計」の通りに生きることを苦にせず生きてきた。しかし、老人と出会い、王子の話を聞いているうちに、つまらない大人になっていくだけの毎日に疑問を抱く。
そして、老人が病気で倒れたことをきっかけに、彼を救うために、そして自分自身の生きる意味を探すためにも、星の王子さまを探す冒険に出るのである。
果たして彼女は王子に会えるのか。そして老人の運命は?
隠されたメッセージを探すのはみている自分自身
大切なものは目に見えないんだよ、と王子はいう。
本作においても、本当に大切なメッセージは画面に描かれてはいない。
時間に追われ、誰が決めたかもわからないような規則に縛られる、くだらない大人になるな、というメッセージだけを受け取るのであれば、それも十分なのだが、それでは原作に対して失礼、ということになるだろう。
本作が与えてくれる数多くの示唆から、自分にだけ理解出来るメッセージとして受け止めればそれでいい。そういう”哲学的な”深みを持つ作品であると思う。