最先端の新世代水冷3気筒エンジンを搭載すると同時にレトロな風合いも漂わせるのがXSR 900だ。
でも、そのスタイルだけに惑わされることなかれ。ヤマハが求めたのはクラシック路線などではない。 その実態はオートバイとして正しく「本物のスポーツ」だ。

撮影 / 柴田直行
本文 / GOGGLE編集部(モーターマガジン)
デジタル編集 / Akiko Koda@ロレンス編集部

ヤマハが3気筒に求めた オートバイの本質とは?

ヤマハ3気筒スポーツのニューモデルXSR。

このオートバイのコンセプトとなる「 ネオレトロ・ ロードスポーツ 」という言葉を聞いた第一印象は、クラシックな潮流が盛り上がっているヨーロッパ 市場を意識した、流行りに乗ったオートバイなんだろうな、と思った。それにしても次世代ヤマハの 象徴となっているはずのMT-09をベースにして、クラシックを表現するのは、かなり無理があるん じゃないか......なんて、失礼ながら考えたものだ。

だから先に謝っておきたい気分。
XSRは、そんな中途半端なモノじゃなかったのだ。ひとつのオー トバイとして、ものすごい完成度を誇っている。これはお世辞じゃなくて、本当に、こんな楽しい大排気量のスポーツバイクには久しぶりに出会った、と言っていいと思っている。その楽しさの理由はなんと言っても「 軽さ 」だ。

ちなみに、軽さがスゴい!と言った直後になんだけれど、ボクはパワーのある大排気量車の場合、必要以上に軽いオートバイよりも、ちょっと重量があってコーナリング中も、どっしりと安定してくれるグランツーリスモ的なキャラクターのスポー ツバイクのほうが好きだったりする。そのほうが怖くないから、走りを自分なりに、思うままに楽しめるのだ。

それに対して、軽いバイクは上手いライダーが乗ればスゴく速いのだろうけれど、十人並みの腕前のボクにとっては、バンクしている最中に感じるフラフラ感のほうが気になって、ライディングに集中できない。だから、重いバイクの副産物でもあった走りの安定感が大好きだった訳だ。

XSRには、まずそこを見事にひっくり返された。900ccもの排気量なのに体感的な軽快感は600cc、言い過ぎでなければ400ccかと思うほどヒラヒラ。けれども、コーナリングはビシッと安定するのだ。この安定感は重量車がもたらす、どっしり感とは違うフィーリングだけれども、前後のタイヤが確実に路面を捉えている感じがライダーに伝わってくる。

でも、乗り手側の安心感という意味では同じだから、ヤマハ3気筒のエンジンの強力なパワーを思う存分に楽しめた。よく「軽さは正義」なんて言われるけれど、XSRは改めて、それを教えてくれた気がする。軽量自慢のハイパワー車に対する苦手意識、それが吹っ飛んだ。軽いって、スゴい! 安心感の中で、パワーを恐れず にアクセルを開ける歓びを味わえるXSR。このオートバイを走らせれば、きっとみんな「これぞヤマハだ!」と感動するに違いない。

走り出した瞬間に、目が覚める このオートバイは「本物」だ!

XSRは同じフレーム、同じ気筒エンジンをMT-09と共有している。2016年モデルではMT-09もXSR同様にトラクションコントロールをABS仕様では標準装備し、ABSの有無は選択が可能。XSRとの明確な違いと言えばアシスト&スリッパ―クラッチの存在だ。

そのうえで価格の話をすると、XSRがABS標準装備で104万2200円、同じ条件でABS搭載のMT-09が91万5840円。

ざっくりと12万5000円程度の価格差がある。スリッパ―クラッチの存在だけで、この差は高いんじゃないの?と思うかもしれない。でも、それは違う。

これはXSRに乗った後だから、はじめて言えることなのだろうけれども「この2台は完全に別のオートバイです」と言われたほうが、素直に納得できるほど、明らかに違うのだ。もちろんこれは優劣の問題じゃない。

ライディングポジションにもキャラが見える!

XSRは、MT-09と比較すると若干シ ートが高く感じられ、両足カカトがすこし浮くが、200kgを下回る軽さのおかげで完全に許容範囲。MT-09よりわずかに前傾姿勢となる。

跨ってみるとシートが沈み込むため、815mmという数値以上に足着き性が良好な MT-09。ライダー身長176cmの場合、両足カカトまでがベッタリ接地し、安心感は完璧。

ライダーがオートバイに求めるものの方向性のよる、選択肢だと考えるべきだと思う。そのうえでXSRの「ピュアに走りを楽しむ性能」は圧倒的だ。

間違えて欲しくないのは、これが「速く走れることが自慢」という訳じゃないところ。
当然、車両重量200kg以下という軽さで最高出力110馬力のスポーツバイクなのだから、手練れのライダーが操れば、XSRはとんでもなく速いオートバイに化けるだろう。でも、XSRのスゴいところは、大型二輪免許を取りたてのライダーにすら、走ることの楽しさを全身で感じさせてくれること。

そこにはXSRのみが搭載しているアシスト&スリッパ―クラッチの恩恵も大きくて、ブレーキングからラフにシフトダウンしても、このシステムのおかげで安定感が揺るがない。

そのうえで足周りのセッティングは、もっと安心して走りを楽しめる方向にアジャスト。出力特性を3段階に選択できるパワーモー ド(D MODE)から、自分にしっくりくるエンジンフィーリングを選べば、ライダーのスキルを問わずに最高にエキサイティングな時間を満喫できるという訳だ。

昨今、人気の小排気量車のような操る楽しみを、久しぶりに大排気量車で味わえた。オートバイはやっぱり走ってこそ、だ。その意味で、XSRの感動体験は無視できない!