広島・呉にて『昴珈琲』を営む細野修平さん。細野さんは十代の頃からのバイカーで、愛車は30年を共にしているカタナ。
RIDE誌に細野さんが「呉までコーヒー飲みに来てください」と一通の手紙を送ったことがきっかけで、RIDEと昴珈琲は、今ではさまざまなコラボを行うまでの仲になりました。
そんな素敵な出会いをつくってくれたバイクと細野さんの関係に迫ります。
(2016年6月号オートバイ別冊付録RIDEに収録された「TALK with OWNER SUZUKI GSX1100S KATANA modified」より)

「俺のVFは、ゼロヨン、12秒フラットで走り抜けられる。」

細野さんがバイクに興味を持ったきっかけは、一冊の小説だったといいます。
それは、『サイコキネシス大戦争』。

※『サイコキネシス大戦争』(角川書店・豊田有恒):交通事故でサイコキネシス能力を得た、バイクフリークでアニメ番組のメカデザイナー霧生哲夫が主人公の超能力SFバイクアクション。
ちなみに著者自身バイク乗りで、『四十歳からのバイクライフ』(小学館)も出版、アフリカツイン(750)との写真も掲載されている。

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僕はスーパーカーブームの影響を色濃く受けていた世代。
当時は「カウンタック最強!300kmオーバー!」「フェラーリ・512BB!ベルリネッタ・ボクサー!」、この2台が世界最高速で、それが真実なのだと刷り込まれていました。
そんな中で目にした「俺のVFは、ゼロヨン、12秒フラットで走り抜けられる。」という台詞。

バイクがクルマの牙城の一角を崩したというのがものすごくショックだった。
オヤジが帰るなり「ゼロヨンで12秒フラットって速いの?」って聞くと、「めちゃめちゃ速いよ。なんだそれ、F1か?」と。
「バイクだよ」と言うと「バイクか、バイクの発進加速にはかなわねーよ」と。
それまでカウンタックとBBが最強で、いついかなる状況でも車のほうが速いと思っていただけに、車が勝てない部分があるっていうのがすごいショックだった。
(細野さん談)

バイク部への入部、そしてカタナとの出会い

高校を卒業し、大学へ進学した細野さんは、高校にはない部活に入ってみたいとの思いから、バイク部に入部したそうです。初めての相棒は、VFR400初期型だったとか。

そして、先輩たちとともに走る中で技術が足りないと感じ、授業にも出ずに峠を走りまわり、さらにバイクにのめりこんでゆき、夜な夜な第三京浜を走る毎日を送りました。

そんなある日、以前から気になっていたカタナが生産中止になると耳にすると、限定解除の試験を受け、9回目にして見事合格。

そこで運命の輪が回り出したのか、たまたま呉にスズキの販売店、SBSがオープンした。
お店が展示用に1台だけカタナを持っていたんですが、広告を見ると『最後の1台』と書いてある。
オヤジと「見に行こうぜ」っていって見に行って。オレは(当時バイクで事故って脱臼していた)手を吊った状態だったのに、それを買っちゃったんですよ。
(細野さん談)

細野さんの特別仕様カタナがこちら。各パーツの詳しい紹介は、ぜひRIDE本誌でご確認ください!©モーターマガジン社

あの頃はバイクブームで、山へ行ってもTZRとかNSRとか2ストレプリカ全盛時代。
カタナは最初のころは年配ライダーのツーリングバイクみたいなイメージも持っていたんですが、カタナだから速いだろう、ってイメージもあるわけで。
でも走ってみると山では圧倒的にVFRのほうが速い。カタナはいろんなところをガリガリ擦るわ、リアが浮いてきちゃうわ、振動でミラーがぐるんぐるんしちゃうわ、オイルはにじんでくるわ。「なんなんだこのバイクは!」という印象。
(中略)
でもカタナってカッコいいじゃない。カタナで速くないとイヤなんですよ。
ZZRで300km/h出すより、カタナで240km/h出すほうがカッコいい。大いなる勘違いだと思いますけど、そう思うんですよ(笑)
(細野さん談)

キリンの年齢は越えたけど

細野修平さんと相棒・カタナ。©モーターマガジン社

「いま50歳手前。キリンの年はとっくに越えちゃってるけど、自分の半生、いろんなものを見せてくれたこのカタナには感謝しかない。
これからもいろんなことを見せてくれると思うし、その期待はある。乗っているからこその出会いもある。結局はこのカタナじゃないとだめなんだと思う。」
そう語る細野さんは、今日もバイクとコーヒーに、情熱を注いでいることでしょう。