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バイクは面倒な乗り物だ。

誤解を恐れずにいうと、クルマはほぼメンテナンスフリーの乗り物となったのではないかと思う。今どきのクルマはボンネットをあけても、エンジンをのぞくことはできないくらいだし、ハイブリッドから電気自動車に移行するとなると、自動車というより家電の領域になってくるのではと思わされる。自動車はそのうち洗濯機などと一緒に、電気量販店で購入するようになるのかもしれない。

バイクも電気化は試みられているが、まだしばらくガソリンエンジンが主流となるだろう。あるいは、自動車の動力がすべて電気モーターや水素エンジンとなっても、バイクだけはガソリンエンジンを搭載し続けるのかもしれない。これは営業車をのぞくと、やはり多くのバイクが趣味の乗り物だということが、次世代エンジンへの移行を促進しない要因となっているんだろうな。

先日、取材でかなりの長距離を、バイクで走るというお仕事をする機会があった。スタッフは全員、自らの愛車で走ることになるので、事前のメンテナンスは入念にしてこのお仕事に臨んだ。初日は取材しながらおよそ450kmを走行。自走しながらの取材だから、なかなか過酷な状況も克服しつつ、順調に仕事をこなしていった。ところが、3日目にカメラマンのスポーツスターが不調をうったえだす。

キャブの不調からはじまり、ついにはセルが回らないというトラブルにまで発展していった。ふつうにツーリングなら、しかたがないと対処のしようもあるが、予定が組まれた取材ツアーなので、走行できないのはだいぶ不都合が生じる。幸いだったのは、カメラマンが年季の入ったハーレー乗りだったので、日本全国のハーレーショップの方たちと顔見知りだったことだ。

3日目の取材を終えた夕方に、このまま走り続けるのは難しいと思うと、その地方での知り合いらしいカスタムショップに電話するカメラマン。カメラマンがいなくてはこの後の仕事も続行できないので、私たちもそのカスタムショップに同行する。

そのハーレーショップは、ひと目でいい仕事をしていることがうかがえた。丹念に創っているいるであろう制作中のチョッパーや、ここで創られたと思われる、魅力的なトライアンフのチョッパーが整備台ににのっている。ツーリング途中、しかもお仕事中というのっぴきならない事情であらわれた私たちを、40歳代前後と思われるご主人は「しかたねえなぁ」と笑って迎えてくれる。

カメラマンから状況を聞き、キャブをバラし始めるメカニック(ご主人)。30年以上を走り続けてきたスポーツスターは、知らないうちに様々な問題を抱えながら、いまに至っていたようであることが、明らかになってゆく。このマシンを初めて手にするメカニックは、オーナーであるカメラマンにこれまでの乗り方なども聞き取りながら、対策を考えている様子。

私たちはといえば、このスポーツスターがこの先、無事に走ってくれることを祈るような気持ちで、見守っていた。仕事の途中で思いがけずおきたマシントラブル。なんとか走り続けたい。そのはやる気持ちとはうらはらに、メカニックは慎重に作業を進めてゆく。修理不能と思われるキャブをなんとか補修して、何度も調整しては試乗に走らせてゆく。ガレージにかかる大きな時計に目をやると、すでに23時をまわっている。

そうしてスポーツスターはことなきを得て、取材ツアーを続行することができたのだった。この頃のバイクショップは、メカニックが作業するガレージにオーナーが入れないようにしていることが多い。作業の能率や精度をかんがえるともっともだと思う。ただ、この時のカスタムショップの処置によるマシンの回復を考えると、この深夜にまでわたる濃密なメカニックとオーナーの関係は、そのマシンが走り続けるために重要な時間となったのではないかと思うのだ。

バイクは面倒な乗りものなのだ。泥だらけのままにしていると、不思議と不機嫌になりだす。修理不能なキャブレターを、なんとか走れるように深夜まで、知恵を絞って修復してくれたメカニックの気持ちは、そのままオーナーにそのマシンを大切にしようとする気持ちとなっていったのではないか。

バイクは買って乗り始めたあとが大切な工場製品なんだと思う。電化製品とは違い、面倒くさいことがいくらでもおきる。バイクショップのガレージでのメカニックとバイク乗りの関係も、バイクライフにはかかせない素晴らしいものだと、あらためて思わされた。こんな面倒くさいバイクに、いつまでも乗り続けてゆきたいね。