詐欺師を狙う詐欺師=クロサギ
詐欺師によって家族を失った青年 黒崎。彼は親の仇を討つために、自ら詐欺師になります。この世にはびこる詐欺師という詐欺師を追い詰める、詐欺師を食らう詐欺師、クロサギとして。
本作は、世の中のありとあらゆるタイプの詐欺師が登場し、無知で人が良い人たちや、欲の皮が突っ張ってしまっているがゆえに騙されやすい人たちから金をむしり取る様が描かれます。そして、そんな詐欺師たちを狙って、容赦なく彼らをハメるのが主人公 黒崎。人を騙すものは、まさか自分が騙される側にいるとは案外気がつかないものです。そんな傲りを利用して、黒崎は詐欺師たちから金を巻き上げていくのです。
黒崎に情報を渡して詐欺師たちを追い込ませるフィクサー桂木は、普段は普通のカフェのマスターとして生活していますが、どうにも強面で、一見して悪そうですw。マジシャンがダイナミックなマジックのタネやしかけを作るように、詐欺にも そのしかけや脚本が必要です。例えばいわゆる振り込み詐欺・オレオレ詐欺などにも脚本があるわけです。
多くの詐欺のしかけや脚本を作り上げてきた黒幕こそ、フィクサー桂木で、自分が作ったさまざまな仕組みを台無しにしそうな下手を打つ詐欺師を、黒崎に命じて始末させているのです。
しかもこの桂木が作ったしかけのひとつによって、黒崎は家族を失っており、黒崎にとっては桂木もまた討つべき仇の一人、なのですが、詐欺師たちに関する情報を持つ桂木との関係を、黒崎は簡単には切ることができない。そういう、愛憎入り混じる、複雑な設定が、この作品の魅力の一つです。
大人向けの上質なエンターテインメント
本作には、さまざまな立場のキャラクターが登場します。前述のように、複雑な緊張関係にある桂木と黒崎もそうですし、詐欺師を追い詰めるためとはいえ黒崎がやっている行為は私的制裁(リンチ)であり、反社会的であると考える 女子大生 氷柱は、同時に黒崎を愛してしまっています。
また、キャリアでありながら現場で詐欺師の検挙に情熱を傾ける刑事も登場しますが、彼は実父が詐欺師であったことを隠すために、出生の真実を捏造して 父親の兄弟(つまり叔父)の子供として育てられたという過去があり、その秘密を知ってしまったがゆえの苦悩に苛まれています。
それらすべての設定が巧みに作られており、無理がありません。大人のストーリーとして、本作は上質なエンターテインメントに仕上がっているのです。
黒崎はやがて、自分の家族を無理心中に追い込んだ詐欺師の張本人を突き止め、彼らへの復讐へと駆り立てられますが、彼らを潰すことが桂木の不利益になるため、ついには桂木とも袂を別つのです。
文字どおり徒手空拳になった黒崎は、果たして警察でも捉えられない巨悪を倒せるのか。そして、自分の腹心の部下を狙い始めた黒崎に対して、フィクサー桂木はどのような態度をみせるのか。
本編と、完結編すべてを合わせて40巻を超える大作ですが、必ずや一気に読んでしまうはずです。黒崎の無謀な挑戦に手に汗を握るのもよし、詐欺に遭わないように詐欺の手口を勉強するのもよし。
楽しみ方は、あなた次第です。
ここで問題です。
実はトーマスの本名は黒崎である。本当でしょうか?