もう、今どきのアドベンチャーのスゴさにはタマげましたよ。
これまで私はロレンスで、アドベンチャーモデルをたびたび取り上げてきたが、中でもオンロード寄りに設計された車種は、スーパーアドベンチャーとよんで特に注目してきた。そしてようやくその代表モデルといえる「ドゥカティ ムルティストラーダ1200」に乗る機会をえた。
過去にアドベンチャーは、古いBMW R100GS パリダカールに乗っていたし、ドゥカティは2000年頃のSS900に乗っていたことがある。乱暴に考えると、この2台を足したり掛けたりしたようなものかな、とも思えるのだが、当然のことながらそんな次元の話ではないのだ。

独特のフロントマスクはまるで地上に舞い降りた怪鳥のよう。

まるで地上に舞い降りた怪鳥のような、押し出しの強いフロントマスク。多くのアドベンチャーモデルと同じように、車体はかなり大きく車高も全体的に高い。車両重量は232kgとのことだが、車高があるためか見ため通りずっしりと重量を感じる。
アドベンチャーは少し乗ったくらいでは、その実力を知ることはできない。やはり長距離を走ってなんぼである。なので、東京を出発して東名高速道路を浜名湖あたりまで、足を伸ばしてみることにした。

大きく見えるがフレームとエンジンはドゥカティらしくとてもスリムだ。

平日の混雑した朝の都内を抜けて、高速道路の入り口を目指す。大きな車体は、渋滞しているクルマの間をスイスイという訳にはやはりいかない。それでも足付き性は見た目よりかなりいい。シート高自体はそれなりに高いが、シートが前方に向けてグッと細くなっているからだ。カウルとタンクで大柄となっているが、車体はLツインを搭載したドゥカティそのもので、足下はとてもスリムなのだ。

アドベンチャーらしいボリュームがありながら洗練されたたたずまいが美しい。

高速道路に上がると、ムルティストラーダはまさに水を得た魚のよう、いや怪鳥が大きな翼を広げたかのようだ。見た目は怪鳥だが、その心臓はお行儀のいいLツインエンジンだ。規則正しいパルスを心地よく感じさせながら加速してゆく。振動らしいものはほとんど感じることがない。1200ccという余裕のある排気量で、低回転からでも力強く加速する。高回転域まで回してみると、パワーバンドのような盛り上がるポイントは特になく、割とストレートにパワーがでる特性のようだ。もちろん強力なエンジンだから、スピードメーターはあっという間に跳ね上がる。

高速道路の追い越し車線を走っているとこの厳つい顔に驚くのか前の車がよく道を譲ってくれた。

ロングツーリングでは、そこまでのパワーを必要とするシーンはあまりないだろう。高速道路を走っていて気がついたのは、ミッションは6速までなのだけど、意識しないと5速で走っていたり、時には4速になっていたりしたことだ。6速はオーバードライブという訳ではないので、これはエンジンの振動が少ないからではないだろうか。エンジンがシフトアップしてくれって主張してこないのだ。強力なパワーを持ちながら、全体として穏やかなエンジン特性は、ツーリングを楽しむにはもってこいの性格といえるだろう。

また、ムルティストラーダはツーリングモデルらしく、クルーズコントロールを装備している。実はクルーズコントロールは初体験です。これは快適だね。高速道路のように一定速度で長時間走っていると、アクセルを握るのが意外と苦痛になってくるものだ。これから解放されるだけで、疲労がだいぶ軽減されるのだと実感した。まるで、最近はやりの自動操縦といったら言い過ぎだろうけど、初体験の私はとても感動した。

デザインとウインドプロテクションを両立させた秀逸なコクピット。

大きなフロントマスクからガソリンタンクへつながる、ボリュームのあるデザイン。アドベンチャーの条件ともいえる、ウインドプロテクションは申し分のないものだ。スリムなスクリーンは上半身を充分にカバーしてくれ、ウインカー内蔵のハンドルカバーと、空力デザインのバックミラーが、腕から肩への風圧も抑えている。そして、これらが機能優先とはならず、ドゥカティらしいシャープなデザインに仕上げられているのが、このマシンの大きな美点となっている。

ただ、大きく見えるガソリンタンクの容量は20リットルと一般的なものだ。大陸をわたるハードなアドベンチャーというより、スポーティな走りも楽しめるスーパーアドベンチャーなのだ。東京から青森まで、無給油で走るってわけにはいかないようだね。

専用設計のサイドバッグは違和感がなくマシン全体のデザインを損なわない。

容量は充分なもので二人乗りのツーリング荷物もすっぽり入るのではないだろうか。

その他の装備として試乗車には「Touringパック」として、サイドバッグとヒートグリップ、センタースタンドが装着されていた。使い勝手でいうと、リアシート後方に取り付ける、トップケースの方が使いやすいのだが、このサイドバッグはムルティストラーダの美しいスタイルを損なうことのないものだ。ホテルを利用するツーリングなら二人分の荷物を積むのにも充分だろう。

ヒートグリップもあるのとないのでは、快適さが雲泥の差となる。この日は3月初旬ながら、ぽかぽかとした陽気に恵まれたが、それでも長時間走っていると指先が冷たくなってくる。こうした快適装備は、安全面でも有効となるし、なにより寒い季節でも、バイクに乗る気にさせてくれるというのがいいね。

モードによって表示のスタイルが微妙に変わるのがお分かりだろうか(アーバンモードではエンジン回転数が表示されず、時刻表時が大きいとかね)

ムルティストラーダは最新鋭のバイクなので、フルライド・バイ・ワイヤによる電子制御でコントロールされる。走行モードは、「スポーツ」「ツーリング」「アーバン」「エンデューロ」と4種類。それぞれの特性は、専門誌に詳しいと思うのでそちらをご覧下さい (^_^;)
オールドライダーの私は、ライド・バイ・ワイヤも初体験。その感覚に最初はちょっととまどったのだけど、馴れてくるとやはり乗りやすい。面白いなと思ったのは、渋滞などの低速走行時に、2速や3速でアイドリング回転数になった時の反応だ。つまりアクセル前閉でも、エンジンがその回転数の速度を保とうとする。こんなところにライド・バイ・ワイヤの威力を感じたわけです(笑)

前方をしぼり足付き性を確保しながら幅広で座り心地のいいシートは長時間走行でも疲れることがない。

キーレスエントリーなので始動の際はキーをポケットにしまっておけばよい。ボタンを押すとキー部分がシュパっとでてくるのが、飛び出しナイフのようで小気味よい(笑)

ようやく乗ることができた、スーパーアドベンチャーの代表モデル「ドゥカティ ムルティストラーダ 1200」。アドベンチャーモデルに限らず最先端のテクノロジーは、現代のバイクをここまで快適で安全な乗り物に進化させているんだね。そしてスーパーアドベンチャーは、ロングツーリングからスポーツライディングまで、あらゆるシーンに応えてくれるという意味で、最強のスタイルのひとつだという持論を、実際に確認することができた。

近年は500kmくらいツーリングするライダーも珍しくない。1日に1000km走るというツワモノもいるだろう。ムルティストラーダでツーリングしてみると、1000kmという距離が実感を持って捉えられるのだ。それは自分の中にある日本地図の縮尺が、まるで小さくなったような感覚だ。ネットで世界が狭くなったとはよくいわれることだが、テクノロジーはリアルな距離感覚をも狭くしているのかもしれない。私はムルティストラーダに、地球がちょっと小さくなったような気にさせられたのだ。

※スポーツバイクとしてのムルティストラーダの実力は「その2」でレポートしています。