ジョーは退屈していた。
便利屋まがいの探偵稼業。金のためにねむたい1週間を過ごすと、週末の深夜は 愛機カタナで、首都高を狂ったように走り回る。スピードの中にしか本当の自分が目を覚ますことはない。
便利屋まがいの探偵稼業。金のためにねむたい1週間を過ごすと、週末の深夜は 愛機カタナで、首都高を狂ったように走り回る。スピードの中にしか本当の自分が目を覚ますことはない。
©東本昌平先生/モーターマガジン社
ねむたい1週間なんざあっというまだ。
その日もいつもと変わらず首都高を切り裂くように走っていた。
前を走るZX-12Rをあっさりぶち抜き、あっという間に置いていくと、ジョーは行きつけの店にたどり着く。酒の代わりに頼むのはミルク。酒などに頼らなくても十分スピードに酔っている。
そんな彼に、店の客が言う。
お前にそっくりなカタナが走り回っているぜと。
ゆきずりの女の依頼は「あなたに似た男を探して」だ。
どこのどいつかしらないが、首都高を走る速いカタナは自分だけで十分だ。後で探し出してやろう。
そんなことを考えながらカウンターに陣取り、醒めていくスピードの余韻を楽しんでいると、不意に背中越しに女の腕が絡みついた。見知らぬ女は「人まちがいをした」という。
視線を交わす二人は、十分に大人だった。
偶然を必然に変えるくらいは朝飯前だ。
女との逢瀬を楽しんだジョーだったが、女は彼の腕の中で「男を探してくれ」と頼んできた。
自分が仕込んだ若い男で、バイクに乗っているのだと言う。
抱いた相手の心が誰か他の男のものだったとしても、それは大した問題じゃない。それよりもいまは、自分を真似したコピー野郎を探しに首都高に出向きたい。それだけだ。
夜明けの首都高に一人向かうジョーの瞳に映ったものとは??
女を後にして、ジョーはカタナに跨り、首都高に向かう。すっかり空は明るみ、もはや競う相手もいないだろうが、それでも彼は首都高に向かう。
果たして彼は、自分に似ているというカタナを探し出せるのか。女の依頼に応える気にはなるのか。
それよりもいまは、集合管のサウンドを響かせて、風を切り裂いて走りたいだけだ。そうさ、バイクがなければ、はじまらないのだ。