こんなみずみずしくて、音を画にして ぼくたちに伝えてくれた、切なくて愛らしい傑作をしらなかったのはトーマス、ぬかっておりました・・・
『四月は君の嘘』(しがつはきみのうそ)は、新川直司による日本の漫画作品。『月刊少年マガジン』(講談社)にて2011年5月号から2015年3月号まで連載された。略称は君嘘(きみうそ)。単行本は全11巻。2012年度マンガ大賞ノミネート。2013年、講談社漫画賞少年部門受賞。
モチベーションを喪った天才ピアニストと 不治の病を抱えた天才バイオリニストの出会い
ピアニストの母の期待に応えるために、必死で鍛錬を続けた若きピアニスト、有馬公生 14歳。
幼少時より才能を発揮していた公生は、数々のコンクールで優勝を飾り、天才の名をほしいままにしてきましたが、3年前の母親の死をきっかけに自分のピアノの音が聞こえなくなるトラウマを抱えるようになり、ピアノの世界から遠ざかっていました。
そんなとき、中学三年生として新学期を迎えた四月。彼の前に一人の少女が現れます。
宮園かをり。公生と同じ中学三年生の14歳。彼女は自由奔放・闊達な演奏で聴衆を魅了するヴァイオリニストでした。
公生は、一目見てかをりに心を奪われます。さらに、かをりの演奏を目の当たりにして、その気持ちは確実な恋心と変わります。
しかし、かをりは公生の幼馴染である少年(渡亮太)に好意があると知り、公生は自分の気持ちを人知れず胸の内に収め、自分は「友人A」であろうとするのです。
公生をピアノに引き戻そうとするかをり
そんな公生の想いを知ってかしらずか、かをりは公生を自分の演奏のピアノ伴奏者に指名します。もちろん、かをりは、公生がピアノを弾くことができないトラウマを抱えていることを知っていました。だからこそ、公生を音楽の道に強引に引き戻そうと企んだのです。
やがて、公生はかをりの熱意と無邪気なまでの強引さに折れて、ピアノの練習を再開します。トラウマからくる、自分のピアノの音だけが聞こえなくなるという問題は解消されませんが、それでも彼は必死にかをりの役に立とうと努力します。
ところが、いざ 演奏の本番に、かをりは姿を現しません・・。彼女は実は幼少時から不治の病を患っており、演奏日の直前に緊急入院していたのです。公生はヴァイオリニスト本人がいないステージで、一人ピアノを弾きます。
ピアノの音が聞こえないトラウマと闘いながら、彼はピアノを弾き通します。かをりの気持ちは彼の闘志を蘇らせたのです。
病に倒れるかをりへの想いを募らせる公生
かをりの入院は長引きます。
公生は募る彼女への恋心を隠し通すことのつらさを感じ始めます。逢いたいけれど、友人Aとしてでしか彼女に会いに行けないことに、胸がつぶれるような想いを感じ始めるのです。
そして、ステージに立ちたくても立てないかをりの代わりに、公生はピアニストとして再び活動しはじめます。トラウマは解消されてはいませんが、それでも彼はピアノに向き合いつづけます。
東日本ピアノコンクールにエントリーした公生でしたが、本番近くになって、かをりの容体が急変します。母親を喪ったように、またも愛する人を失くしてしまうのか?公生は絶望に打ちひしがれて、再びピアノを弾けなくなってしまいます。
しかし、公生をピアノに向かわせたのは、やはりかをりでした。かをりは手術を決意したことを公生に伝えます。その日はまさしく東日本ピアノコンクールの当日。 「音楽家ならあがいてあがいてあがきまくろう」 公生は、かをりとともに戦うことを決意するのです。
公生は、彼女の願いを背に、ピアノに向かいます。
最悪の体調と精神状態ながら、かをりへの想いを鍵盤を通して表現する公生。彼の奏でる音色に聴衆は引き込まれていきます。
もう一度君とステージに立ちたい。がんばれ。
そのとき。ピアノを弾く公生の横に、ヴァイオリンを奏でる彼女の姿が。
そして公生は知るのです。彼女は力及ばず逝ってしまったのだと。
隠し通した彼女の嘘とは
ピアニストとして復活した公生。
コンクールでの演奏を終えた公生は、かをりからの一通の手紙を受け取ります。
そこには、彼女が実は昔から公生のことを好きだったという本音が綴られていました。
彼女が音楽を志した理由もまた、公生の演奏を聴いたからであり、そのときから公生に恋をしていたのだと。
彼女が公生の友人を好きだと言って近づいてきたのも、公生と仲良くなるための 嘘 であり、最初から公生と同じ時間を過ごすことを夢見ていたのだと。
彼はピアノの世界で生きていくことを決意します。志半ばで倒れたかをりの遺志を継いでいこうと決意するのです。
本作は、そのストーリーを知ればその良さをわかる、という作品ではありません。
冒頭で書いたように、みずみずしい少年少女の心の葛藤、音楽というものを二次元の絵の中に落とし込んだ素晴らしい画力。
主人公の二人と、彼らを取り巻く友人や支援者たちの温かい友情や愛情。それらすべてが、まるで一つの協奏曲のように成立している、最上級のエンターテインメントです。
全11巻。あっという間に読めてしまう長さですが、きっと切ない胸の締めつけや、逆に緩む涙腺に、なかなか読み続けられないかもしれません。
読めば青春時代のあのときの気分に戻ることができる、本当に素晴らしい作品です。
ぜひお読みください。