Ambleとは、ゆったりと歩く様をいう。主人公の男は、小さなバー(飲み屋と言ったほうが似合うかもしれない店)のマスター。
10年乗っている愛車はHONDA CB1000SF、いや BIG1だ。デカイ、ごつい、重い。その代名詞として生まれたバイク。
そのBIG1でも、特に異端児とされるCB1000SF T2を、マスターは10年間 変わらぬ思いで乗り続けている。

環境は変わっても愛するオートバイと変わらない習慣

マスターは10年前にCB1000SF T2を手に入れて以来、なにかにつれ、海を見に来るのが習慣になっている。特に何をするわけでもなく、ただバイクを走らせ、海を眺めに来るのだ。

©東本昌平先生/モーターマガジン社

©東本昌平先生/モーターマガジン社

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最初から愛していたわけではないからこそ、10年続いてみて分かる愛情

そんなマスターに、常連の若者がバイク選びを相談する。
「なんであのバイクに決めたの?」と問う若者に対して、マスターは「カッコイイ・・・からだろ」と答える。(マスターがBIG1に乗り始めたのは22歳というから、いま32歳。そのわりに渋くて貫禄がある笑)

結局若者には、なかなかバイクを選ぶことができない。ハヤブサがいいなと思っても、そんな高いバイクを買うお金は今の彼にはない。かといって諦めきれるわけでもないし、他のバイクも気になるのだ。

マスターのように長く乗り続けられるバイクがいいなと彼は思う。しかし、マスターから言わせれば、最初から10年乗ろうと思ったわけではなく、結果的に乗り続けてきただけだし、乗り続ける間に愛車への思い入れが膨らんできただけなのだ。

だけど、若者から「10年後もバイクに乗っていると思う?」と問われれば、今度は少し確信を持って、乗っているだろうなと答えられる。「たぶんな」と答えつつも、その横顔には他のバイクを選ばない、いや選べない自分を感じていることがわかるのだ。

バイク選びに悩む若者 ©東本昌平先生/モーターマガジン社

いまどきは、なかなかバイクを買いたいとい若者に会えない気がする・・・
©東本昌平先生/モーターマガジン社

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先のことなんて誰にもわからない。ただゆっくりと歩いていくだけ。

マスターがいつから今の仕事をしているのかはわからない。
10年は短いようで長い時間だ。特に20代から30代への変化は、人生の中でも一番大きく多くのことがめまぐるしく動くものだ。

その中で、マスターは今の仕事を選び、そして10年間CB1000SFに乗り続けてきた。最初に愛車を手に入れた夏に海を訪れて以来、何かにつれ、ふらりと海を見に来る。環境は変わっても、自分自身とオートバイは変わらない。いや、むしろ10年前の自分を思い出させてくれる、愛車こそ、10年たっても何も変わらず自分と共にある。

「10年後もバイクに乗っていると思う?」
若者の問いは、必ずしも”今と同じバイク”に乗っているかと思うか?という意味ではなかったかもしれない。マスターだっていつかはバイクを降りるかもしれないし、BIG1ではない別のバイクに乗り換えることがあるかもしれない。だけど今は、こいつがいい。

オートバイだって進歩している。10年前のバイクより今のバイクのほうがそれは速い。
しかし、バイクの良さは一律ではない。性能だけが全てではない。どんなに進歩しても良さが一律でないからこそ、オートバイは我々を魅了する。逆に言えば、単なる道具であるはずのオートバイが、乗り手を試してくる。だからこそ、このCB1000SFはマスターを10年前から今に至るまで、変わらず惹きつけてやまないのだ。

先のことなど誰にもわからないが、とにかくマスターはいままで自分と共にあったCB1000SFと、これからもゆっくりと、急がず慌てず、同じ道を走っていくつもりでいる。

そして、彼はまた、海へとでかけるのである。

10年連れ添った相棒を慈しむマスターの仕草は優しい。©東本昌平先生/モーターマガジン社

そして彼はまた海へとでかける。©東本昌平先生/モーターマガジン社