車を女性にたとえて話す男は多い。
一台の車に入れ込んで、一生乗り続けようと思う男もいるし、新しい車が出るたびに、チェンジチェンジと気持ちを切り替えていくタイプの男もいる。


しかし、どういう男であろうと、この車だけは手放せない、もしくは何をおいても手に入れたいと思わせるような車もまた存在する。そう、ちょうどあなたの隣のその素晴らしい女性に感じる想いと同じ重さで、あなたの心を揺さぶるような車だ。

トヨタ2000GT。この車はまさしくそういう抗いがたい魅力を持った車の一つだろう。

トヨタとヤマハの間に生まれた異端児

販売こそトヨタだが、テクノロジーの多くはヤマハによるものだ。
トヨタ自動車と共同開発・生産した日本のスポーツカーを代表する1台。エンジンは高級セダン、クラウンに搭載されていたOHC・直列6気筒エンジンをDOHC化、最高出力150馬力を誇った。足まわりにもレーシングカーの多くも採用するダブルウィッシュボーン式サスペンション、4輪ディスクブレーキ、マグネシウム製ホイールなどを採用、車体の一部にはFRP 成形技術を用いるなど、当時の最先端技術を総動員。1966 年にはスピードトライアルの国際記録に挑戦、3 種目で世界記録、13 種目で国際新記録を樹立、卓越した走行性能と流麗なフォルムで後世にその名を残した。月産8 台のペースで職人たちがハンドメイド、337 台(うち115 台を輸出)が世に送り出された。
● 全長 × 全幅 × 全高: 4,175mm × 1,600mm × 1,160mm
● 重量: 1,120kg
● エンジン型式: 水冷, 4ストローク, DOHC, 2バルブ, 直列6気筒, 1,988cm3
● 最高出力: 110.3kW(150.0PS)/ 6,600r/min
● 最大トルク: 176.5N・m(18.0kgf・m)/ 5,000r/min
● 販売価格(当時): ¥2,380,000
※各モデルの説明や諸元で表記している数値などはすべて販売当時のものです。(ヤマハ発動機HPより)

global.yamaha-motor.com

この写真は、トヨタではなく、ヤマハ発動機のHPから拝借したものだ。


なぜヤマハが関係あるのか?と訝る諸兄も多いだろう。
実はトヨタ2000GT とは、トヨタとヤマハのコラボレーションによる傑作である。当時自社にスポーツカーを持っていなかったトヨタと、二輪車では世界市場を席巻していたものの四輪への色気を見せはじめていたヤマハの思惑が重なり、2000GTは生まれた。


一説には、トヨタは数名の技術者をヤマハに派遣したものの、ほとんどの設計から開発はヤマハが行ったともいう。真実はわからない。また、それはどちらでもよい、という気がする。

大事なことは、1960年代に、世界中から賞賛を受けるようなスポーツカーを日本が生産できたこと、その過程には四輪のトヨタと二輪のヤマハという、日本が誇る二大メーカーが関わっていた、ということだけだ。

ボンドカーとして映画に登場

トヨタ2000GTが日本のみならず、世界中で知られることになった背景には、1967年公開のジェームズ・ボンド映画『007は二度死ぬ』に登場したことがある。

”ただしボンドの愛車ではなく、丹波哲郎演じるタイガー・田中率いる日本の諜報部の所有車なので(運転したのは若林映子演じるアキ)、厳密に言えばボンドカーではない。この作品以降、2013年現在日本車は登場していない。ちなみに2013年現在のボンド役であるダニエル・クレイグは、歴代のボンドカーの中で最も好きな車にこの2000GTを挙げている(Wikipediaより)”

また、1970年代に起きたスーパーカーブームでは、火付け役である漫画『サーキットの狼』(集英社:少年ジャンプ連載)に登場し、主人公風吹裕矢の宿敵 隼人ピーターソンの愛車として、ストーリーを盛り上げた。

ただ、隼人ピーターソンがアメリカ人とのハーフという設定と、勝つためには手段を選ばないという悪役(ヒール)的存在であったため、当時のスーパーカー好き少年たちの人気は今ひとつだったらしいのは残念だ。

日本車史上最高値でオークション落札

トヨタ2000GTを日本車史上最高の車であると推す人は多い。
そのスタイリングの斬新さ、絶対性能の高さに加えて、わずか337台しか生産されていないという希少性もあるだろう。


もちろん、日本にも多くの名車があり、フェアレディZやスカイラインGT-Rなどの日産車や、ラリーで実績を残したランサーエボリューションなどを挙げる人も多いかと思うが、世界中の車ファンの意見まで汲み取れば、やはりトヨタ2000GT、ということになるはずだ。
その証拠に、トヨタ2000GTは、2014年、日本車としては史上最高値でオークションで取引されている。その価格、なんと1億1300万円。価格だけが評価の全てではないが、一つの大きな指標といえるだろう。


男として生まれたからには、こういうクラシックな名車を手に入れてみたいと思うのは、当然のことだろう。もちろん、そう簡単にいかないのはわかっている。だが、それを望む気分は自由なはずだ。
ただし、くれぐれも隣に座ってくれるパートナーの曲線と比べるようなことはしてはならない。それだけは固く心に刻んでおこう。

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