バイク乗りの神々は、少なくともオリンポス十二神以上はおられますが、その中でも男の切ない情感や、オートバイに乗り続けることの難しさと貴重さを正面から作品にし続けている神といえば、そう、東本昌平先生。

その東本先生の『CAROLAWAY』を紹介します。
Kindleでは手に入らないので、単行本を買いました。新品ではもう手に入らなかったので、中古で買ったところが、この作品への愛着がかえって深まったというか。

舞台は1970年代。社会人になったヒロシとジョージの今と、高校時代の思い出が交錯する甘酸っぱい青春物語

1970年代の若者に大人気だったロックバンド「キャロル」。矢沢永吉(ベース・ボーカル)、ジョニー大倉(サイドギター・ボーカル)、内海利勝(リードギター・ボーカル)、ユウ岡崎(ドラムス)の四人は、ビートルズ並み、いやそれ以上に当時の若者の心をつかんでいましたが、1975年に解散。
その解散ライブを見届けようと、日比谷の会場に向かったのは、湘南育ちのヒロシとジョージの二人。あいにくヒロシの愛車ホンダCB750FOURは調子を崩しており動かない。そこでジョージのナナハンのニケツで、二人は都内へと向かうのです。

この時代は暴走族全盛で、粋がった彼らのバイクはとっても目立ち、通り道で他のチーム達のちょっかいを受けるのですが、かわしながら二人は目的地へと急ぐのです。
その道程でヒロシの脳裏には、なぜか高校時代から続く淡い恋や友情の思い出がよぎります。そして、その思い出を彩るように、キャロルの名曲がかぶさっていきます・・。

©東本昌平先生/モーターマガジン社

キャロルの解散コンサートに向かう二人。©東本昌平先生/モーターマガジン社

高校生の頃の二人。RSとは、そう、カワサキのZ2ですな! ©東本昌平先生/モーターマガジン社

誰にでも覚えがある、甘くダサい青春の恋(笑)・・©東本昌平先生/モーターマガジン社

どんな方法でもいい、手に入れて読むべし。バイク乗りならば。

東本先生の代表作「キリン」からしてそうなのですが、本作もストーリーそのものを語ってもあまり意味はありません。本作は、力強いロックンロールで少年たちのやるせなく吐き口のない閉塞感を吹き飛ばし、若い魂を勇気付けた「キャロル」と、どんな遠くにでも一瞬で辿り着けるパワーをくれた、CB750FOURに代表される当時の最強バイク「ナナハン」。この二つに対するオマージュなのです。また、キャロルはオートバイとロックを結びつける媒体であったとも言えるでしょう。

オートバイとロックンロール(ロックではなくロックンロール)は、70年代の少年達の心のよりどころであり、共に心を揺さぶる激しいビートの象徴でした。

ロックンロール(音楽全般に言えるかも)も、オートバイも、その神通力を失ってしまって久しいですね。しかし、オートバイに関して言えば、少しずつ力を取り戻しているような気がします。

本作は単なる回想ではなく、いまのぼくたちに力を取り戻させてくれるきっかけになる、そう思います。読んでいない方は、ぜひ どうにか手に入れて読んでください。後悔はさせませんから。

©東本昌平先生/モーターマガジン社