モーターサイクルと彼女を見た者は、抗いようのない力で魅入られていく。
・・・・中学生 山本司(14)の場合。

僕がそのお姉さんと知り合ったのは偶然だった。
塾に通う僕は、来年に迫った受験のことで頭がいっぱいで、歩きスマホで予備試験の英語の問題を解くのにに夢中になっていて、狭い道を塞ぐように停車していた大きなオートバイにはまったく気がついていなかったのだ。

長い指、長い髪、大きな瞳と大きなバイク

ガツンという音に驚いたけど、そのバイクはビクともせず、弾かれたように転んだのは僕の方だった。運転していたのは背の高い女の人で、電話をするために一時停車をしていたのだ。
だいじょうぶ?、とそのお姉さんは僕に手を差し伸べてくれた。長い指の手を握って立ち上がりながら、恥ずかしさと若干の怒りもって見上げた僕の前に、長い髪を大きな瞳があった。
・・・わ、きれいなひとだ。
僕はドギマギしながら、一生懸命平静を装って答えた。「だいじょうぶです」
そう?強いね、とお姉さんは微笑んだ。

僕に小さな擦り傷を与えたそのオートバイは大きく、渋い色。とても男っぽいバイクで、若い女の人には似つかわしくないように思えたんだけど、よく見ると、彼女の美しい肢体とよくマッチしていて、なんか艶かしかった。
なんで艶かしいなんて古臭い言葉が出てきたのかはわからなかったけど、簡単にセクシーだなんて言って終わりにできる感じじゃなかったんだ。

早く大人になって、彼女を追い抜きたい

僕はそのとき恋に落ちた。
お姉さんに?YES、その通りだ。でもそれだけじゃない。お姉さんの大きなオートバイにも恋に落ちてしまったのだ。
そのお姉さんとはそれ以来、話す機会はないが、週に2,3度、あのバイクで僕の横をすり抜けていくたびに軽く手をあげたり、小さくクラクションを鳴らしたりして、僕のことを覚えているよと合図してくれるのだ。その背を見送りながら、リズミカルに響く低いサウンドに心を鷲掴みされていく。


お姉さんは僕より10こは上だろうと思う。年上の人を好きになったのは、これが初めてだ。
そして、バイクが欲しいと思い始めたのもこれが最初だ。
僕は、あのお姉さんにつりあう男になりたい、そしてあの人と同じバイクを手に入れたい。
それには一刻も早く大人にならなければならない。受験なんて、とっとと済ませて、大人になるんだ。
僕にはもう彼女と、バイクを手にいれることしか考えられない。いつかじゃない、いますぐなんだ。

この物語はフィクションです。登場する一切の人物・設定は架空のものです。

撮影協力:BADLAND
モデル:EREA