80年代の若者たちのバイブル 片岡義男作品を脚色して映画化
オートバイを主題にした多くの作品を手がけ、80年代の若者の間に熱狂的な信者を生んだ作家といえば、ハードとバイオレンスの大藪春彦先生と、そしてこの映画の原作者であり アメリカのペーパーバックのような乾いているけれど叙情的なストーリーを次から次へと生み出していった片岡義男先生の二人、となると思います。
本作「スローなブギにしてくれ」は、片岡先生の原作を大胆にリミックスしてあって、小説版とはだいぶ異なる仕上がりになっていますが、それでも多くの片岡ファンに愛された映画だそうです。
主人公のさち乃は仔猫を溺愛する美少女(浅野温子)。彼女は、ふとしたきっかけで知り合った中年男(山崎努)が運転する、白いムスタングに拾った子猫と共に同乗しますが、口喧嘩をした挙句に第三京浜の車寄せで猫と共に降ろされてしまいます。そこにオートバイで通りかかった青年ゴローに助けられ、さち乃はそのままゴローと同棲を始めるのです。
青春映画のはずが、なぜかトラウマを抱えた不良中年のほうが目立つ
同棲を始めたさち乃とゴローですが、若さゆえの衝突が多く(と、いうよりゴローがどうやらロクデナシなのです・・・w)、さち乃は 都度深く傷つきます。
そして、彼女が癒しを求めて逢瀬を重ねてしまうのは、なんとあのムスタングの男。ゴローと違ってお金もあってオトナではあるのですが、どこか儚く脆そうで壊れてしまいそうな危うさを持つ中年男に、さち乃は身を任せてしまうのです(くぅ〜泣)。
実はこのムスタングの男はある会社の役員のようなのですが、ろくに会社にはいかない不良中年です。しかも離婚寸前の妻子がいて、そのことに深く傷ついているのにもかかわらず、他の女性と一緒に暮らしていて、子供まで作ってしまっています。さらに、その女性には別の男(原田芳雄さんなんです!)がいて、子供はどちらの子かわからない始末。この三人は一緒に暮らしていたのですが、原田芳雄演ずる男はジョギングの最中に心臓発作で死んでしまうのです・・・。
このようなワケのわからないエピソードを抱え持つムスタングの男に、惹かれはするものの、さち乃はゴローのことも忘れることができません。なのですが、さち乃は愛する仔猫同様に、ふらふらと男たちの間を行き来して、気ままな小悪魔状態でいようとするのです。
20代で観るよりも40代以上になってから観た方が良い??
本作は、本来オートバイ好きの少年と仔猫好きの少女の、あっさりとした恋愛模様を描いた短編であるはずなのですが、なぜか猛烈に中年男の心情というか、心象というか、どういうわけか色濃く宿している深い心の闇を描くほうに一生懸命になっているような気がします。
山崎努さん演ずるムスタングの男は、ある意味「キリン」にも似た感じで、そこそこお金もあるけど妻子に逃げられていて、若い女に入れこんじゃって、いいクルマ(キリンの場合はもちろんカタナ)を乗り回している不良中年です。
彼は明らかに中年の危機を抱えているのですが、若い女の子の母性本能をくすぐるのもわかるし、とにかくお金があるという安心感から、同世代の男の子と比べて魅力を感じさせているのもわかる気がします。なにしろ完全にゴローから主役の座を奪ってますからw
ただ、やっぱり片岡義男作品、というのとは違うような???という気がしました。
でも、片岡義男原作、というのを関係なくみれば、若くて小悪魔的な魅力を持つ女の子に惚れてしまった中年男性の恋と挫折みたいな視点でみると、この映画の見方が変わり、感情移入できるようになる気がします。
少なくとも、浅野温子さんの美しさ可憐さは半端なく、誰だって惚れちゃうでしょ!というヒロインぶりだし、山崎努さんのムスタングの男の 破綻した精神の危険な香りは危うくて心惹かれるはずですから。
唯一言えるのは、ムスタングの男はなぜかしょっちゅう上半身裸になるのですが、あまり鍛えた体じゃないのが残念。貧相なほうがリアリティがあるんでしょうけど、これが米国映画なら胸筋ムキっとしてて、かっこいいはず。どうせ見せてくれるならそういう方がいいと思うのはぼくだけでしょうか?w