今年のモトGPはヤマハファクトリーの両雄の熾烈なタイトル争いで盛り上がりましたが(別の意味でも?)、ロードレースの世界選手権はモトGPだけではありません! SBK(世界スーパーバイク選手権)もございます。
アメリカ生まれのスーパーバイク。
SBKは、私たちが接することができる量産公道用スーパースポーツをベースにしたレーシングマシンで競われます。その興りはアメリカで、発案者はスティーブ・マクラフリンというライダーでした。
4輪のストックカー・レースのように、プライベーターやコンストラクター主体の市販車を使ったレース・・・という「スーパーバイク」のコンセプトはスティーブが発案したものです。
1970年代半ば以降のアメリカのロードレースは、ヤマハ製2ストローク4気筒市販レーサーのTZ750の独壇場という状況でした。フォーミュラ・ヤマハとも言える寡占状態に、観客の多くはウンザリ気味でロードレースに対する関心が薄れていく傾向にありました。4ストロークの量産公道車をベースマシンとすることで、もっと多くの機種・チームが参加できるレースを・・・という「スーパーバイク」のコンセプトは、そんな状況を打破するポテンシャルを有してました。
1976年度からAMAのイベントとなったスーパーバイクの黎明期には、カワサキ、スズキ、BMW、ドゥカティなどいろいろな車両が参戦。公道を走るバイクと同じシルエットを持つ車両が競い合うスーパーバイクの人気は次第に高まり、ヤマハばかりの最高峰クラスよりも観衆の視線を集めることになります。
1980年にはホンダがファクトリー参戦を開始。スーパーバイクの活躍は、市販車の宣伝効果がバツグンなので、この頃にはどこのメーカーもその存在を無視できなくなったのです。そしてついに1985年のデイトナでは、メインイベントの200マイルレースが「スーパーバイク」クラスで開催されることになりました。
欧州へ伝播したスーパーバイク・カルチャー。
アメリカでの成功に甘んじることなく、スティーブ・マクラフリンは欧州にもスーパーバイクを定着させるための活動に励みました。彼の願いは、世界選手権としてのスーパーバイクの成立でした。そして欧州FIMの理解を得て1988年からSBKがスタート。初代王者はアメリカンのフレッド・マーケル(ホンダRC30)でした。
1990年代は、イタリアのドゥカティの強さが光った時代でした。当時のSBKレギュレーションでは性能調整の意図で、2気筒は1000ccまでと、4気筒750ccより大きい排気量上限が認められてました。1990年はレイモン・ロッシュ(仏)、1991〜1992年はダグ・ポーレン(米)がドゥカティ888を駆りタイトルを獲得。この時代で最も活躍したドゥカティライダーは"キング・カール"、または"フォギー"の愛称で呼ばれたカール・フォガティ(英)でしょう。1990年代、ドゥカティ916と996で合計4度の王者になったフォガティの最多王者獲得記録は、未だ破られておりません。
日本人ライダー、"ナイトロ・ノリ"の活躍。
SBKの創設は、世界に挑戦する日本人ライダーへの門戸を広げることにもなりました。今まで16人の日本人ライダーがSBKにフル参戦しましたが、最も活躍したのは"Nitro Nori"の愛称で世界のSBKファンに愛された芳賀紀行でしょう。1998年からヤマハファクトリーでフル参戦を開始。ヤマハのほかアプリリア、ドゥカティに乗った芳賀は惜しくもタイトル獲得には届きませんでしたが、SBK歴代3位となる43勝の勝ち星をあげております。
1990年代の日本メーカーのタイトルは、1993年のスコット・ラッセル(カワサキ)、1997年のジョン・コシンスキー(ホンダ)の2度のみと、すっかりドゥカティに圧倒されましたが、2000年と2002年は、2気筒のドゥカティ打倒にはこちらも2気筒で・・・とホンダが開発したVTR1000SP2/RC51をライディングしたコリン・エドワーズがタイトルを獲得しています。
2003年からSBKは、気筒数問わず1000ccまで、とルールを改正します。これは4ストローク990ccが参戦可能なモトGPが世界ロードレースGPでスタートしたため、各メーカーの関心・リソースがSBKからモトGPへ移ってしまうことを恐れての改革でした。
来年度のSBKは、ヤマハ旋風が吹き荒れるのか!?
2008年からは再び2気筒と4気筒の性能調整が行われ、2気筒は1200ccまでOKとなりました(リストリクターで吸入量制限、最低重量アップなどで調整)。2010年と2012年はイタリアのマックス・ビアッジ(アプリリア)、2011年はスペインのカルロス・チェカ(ドゥカティ)と、モトGPからの転向組が王者を獲得。2013年からはカワサキファクトリーが強さを発揮。2013年はトム・サイクス、今年はジョナサン・レイがタイトルを獲得しております。
さて2016年度のSBKですが、ヤマハの2011年以来のファクトリー参戦に注目が集まっています。今年の全日本選手権と鈴鹿8時間耐久、そして米・英両国のスーパーバイク選手権を制覇したYZF-R1がSBKが旋風を巻き起こすのか? モトGP王者として初めてSBKに転向するニッキー・ヘイデン(米)を擁するホンダは? そして2011年を最後にタイトルから遠ざかっているSBKの盟主ドゥカティの復調は?
ドゥカティ・パニガーレR、ホンダCBR1000RR、カワサキZX-10R、ヤマハYZF-R1、アプリリアRSV4、BMW S1000RR、そしてMV アグスタ1000 F4・・・これら量産市販車が激しいバトルを繰り広げる2016年シーズンの開幕が、今から楽しみですね!