メルセデス・ベンツのブースに展示されていた1台のアグスタ

ついに開幕した東京モーターショー。国内外を問わず、多くの自動車メーカー、二輪メーカー、パーツメーカーらが一堂に会し、それぞれのテクノロジーとプロダクトを展示し、おおいにアピールをしている。

メルセデス AMGの展示

早速プレスとして取材に赴いた我々だったが、メルセデスのブースの一角に、まるで人目を避けるかのように置かれた、1台のMVアグスタ F3に目がいった。

ご存じの方も多いかと思うが、MVアグスタは、メルセデス、それもAMG部門からの資本を受け入れており、ボディにも本家以上に大きなペイントで、AMGの文字が目立つように書き込まれている。

知らない人がみたら、AMGというバイクメーカーかと思うだろう

タンクに刻まれた MVのロゴはあまり自己主張しないが、それでも愛好家の心をつかむ

秘すれば花

「秘すれば花」とは、現在の能の基本形を作ったとされる、非常に重要な文献『風姿花伝』で紹介されている言葉だ。『風姿花伝』は、室町時代初期の猿楽師 世阿弥が、父であり師である観阿弥の教えをまとめた書物である。

世阿弥がいう花とは「花と面白きとめづらしきと、これ三つは同じ心なり」、つまり面白い、珍しいと感じさせることである。

「秘すれば花」とは、隠しておくからこそ、目立たせないからこそ、その”花”が引き立つ。秘密にするからこそ、花があるのだ、という意味になる。

このMVアグスタ F3が、華々しいモーターショーの、メルセデスのブースのほんの一角にひっそりと置かれた理由は、大人の事情というやつだからあえて説明はしない。

しかし、アグスタという、オートバイ好きにならば必ず知っているブランド、そしてかつて無敵を誇ったレースの名門の矜持を、かえってこの秘された展示に感じたのは、僕だけだったろうか。

2015年の東京モーターサイクルショーのアグスタのブースにも実は同じことを感じたことを、いま思い出すのである。