日本ではまだメディア業界の革新は始まっていない。 2014年に短期間に勃興したキュレーションメディア群が、DeNAやエニグモなどの先行する大手ネット企業に買収されたくらいで、その後はそれほど大きな話題を集めてはいない。

しかし海の向こうでは 、BuzzFeed、Vox、Vice、Quartz、RebelMouseなど、綺羅星のようにメディアテクノロジー企業が次々と大型調達を果たし、保守的マスメディアを大いに慌てさせている。

僕は、彼らを メディアテクノロジー企業 と書いた。日本の新興メディアの多くは「コンテンツの選択」と「カテゴリーの選択」という、半ば編集部的な要素が強く、テクノロジーの匂いがあまりしない。BuzzFeedに代表される、米国新興メディアはスタート当初はそうだったと言えるのだが、やがて彼らはコンテンツを生成し、ソーシャルで拡散し、その状況を分析し、さらにいまではコンテンツごとの拡散予測までもできるほど高度なテクノロジーを持ち始めている。
つまり、米国の新興メディアたちは、自分たちのメディアに最適化されたプラットフォーム(CMSと言ってもいい)を開発し、より効率的にオーディエンスを引きつけ、広げるためのメソッドを属人的な”勘”から、科学的な作業プロセスに置き換えることに成功しているのである。

そんな中で、シンプルなトンマナで質の良い長文を書かせ、集めることにフォーカスしている、次世代のブログサービス Mediumは他の新興メディアとは異なるアプローチをしている。プラットフォーム(CMS)を一般に公開し、広く良質な書き手を集めようとしている。この動きはTumblrと同じ(ただしTumblrは書き手というより、より ヴィジュアル的なクリエイター対象 )だが、さらにMediumはそれらのコンテンツをテーマごとに集めて、メディアを作るという試みをしている。つまり、パブリッシャーでありプラットフォームであろうとする。これをメディアの有識者たちはプラティシャーと呼ぶ。

プラティシャーは、ややわかりづらい概念であり、それがゆえにMediumはこれまで成長が鈍化しているように見られていた。しかし、今回Re:codeが報じたところによると、彼らは4億ドル(≒600億円@120円=US$1)という企業評価を受けて、5700万ドル(≒68億円@120円=US$1)の調達に成功したらしい。

苦戦が報じられていたはずのMediumだが、なぜいまここで大型調達に成功したのか??

BuzzFeedにしても、Voxにしても、最近プラットフォーム(CMS)そのものが他社を圧倒するテクノロジー優位性を持っており、それが有能な記者たちを魅了している、と言われている。使い勝手もいいし、彼らの創造力を刺激するよさがあるともいう。
RebelMouseに至っては、メディアではなく、メディアが使うプラットフォーム(CMS)の開発・提供専業ベンチャーである。つまり、 ソーシャルxモバイル時代に即した最新のCMSそのものに、注目が集まっている

Mediumもクールで使いやすいエディターで人気を博しているが、メディアとしてはもの足りないのがこれまでの印象だった。他の新興メディアとは逆で、プラットフォームからメディアに向かっている形のプラティシャーであるわけだが、他のBuzzFeedやVoxなどはメディアからプラットフォームによりそう形のプラティシャーになりつつあると言える。

要するに、Mediumに高い評価が着いたのは、プラティシャーモデルに対する理解が、米国VCの間が定まってきたからではないか?

そう考えるとスッキリするのである。