ライダーのフィーリングに“ちょうどいい”ツインエンジン

バイクにもっとも適したエンジンは何かと問われたら、私はツインエンジンだと答えると思う。機械的にはエンジンのパワーや性能を追求してゆけば、多気筒になってゆくのは必然なのでしょう。ただバイクに関していえばツインエンジンは、いまでも4気筒エンジンと並んで主流の形式となっているのだ。

これは、バイクは自動車と違って、ライディングするのにちょうどいいサイズというのがあって、大型化するにも限界があるし、何よりバイクは五感と身体を、総動員して走る乗り物なのだ。ツインエンジンは、そのライディングフィーリングという部分において、まさに“ちょうどいい”感覚を伝えてくれるエンジンなのではないだろうか。

そんなツインエンジン(L型ツイン)の代表的なバイクメーカーであるドゥカティ。そのラインナップでいまもっとも注目されているであろう、ドゥカティ スクランブラーに乗る機会をいただいた。

スクランブラーという独特のライディングポジション

そのユニークなスタイリングは、いまから半世紀近く前のドゥカティ社を代表する同名のスクランブラーをイメージしたものだ。そのコンセプトは、ロレンスはもちろん様々なメディアで、ご覧になっている方も多いかと思うのでここでは説明しない。

参考: バイクとのつき合い方を考えるライフスタイルブランド「DUCATI SCRAMBLER」

またがってみると、コンパクトな車体に大きく広がったハンドルと、シートのほぼ真下に位置するステップは、スリムな車幅に対してやや幅広で、そのライディングポジションはハーレーのスポーツスターを思い出させた。バイクのジャンルとしての「スクランブラー」は、過去のものとなって久しいので、いまの感覚として近いのは意外とスポーツスターあたりかもなぁ、などと思いながら走り始める。

いい意味でドゥカティらしからぬ違和感は楽しいかも!

クラッチをつなぐと、見た目の軽快さに油断してしていたのか、ドンとくるトルク感に驚かせられた。一般的な400ccバイクよりも軽い車体に、ドゥカティの800cc Lツインエンジンが搭載されているのだから、驚くところではないのだが、これにはいきなりニマニマとさせられてしまった。

しかもドゥカティらしからぬ、大きなハンドルと前寄りのステップによる開放感がいい意味で違和感があり、これは楽しいかも! というのが第一印象だった。

よく調教された馬に乗っているかのような

ドゥカティ スクランブラーを楽むべく、都心から高速道路に入り北上する。前述のようにどこかスポーツスターに近いライディングポジションは、イタリアン・スポーツバイクというより、アメリカンバイクに乗っているような感じだ。

とはいえ、それはドゥカティ。ハーレーのスポーツスターは、馬力というより牛力というような、ワイルドな加速感が持ち味だと思うが、スクランブラーのLツインエンジンは、繊細なトルクを感じさせながら加速してゆく。これは、スポーツスターが荒々しい馬だとしたら、ドゥカティ スクランブラーはよく調教された馬に乗っているような感じだ。

中低速に重点をおいたエンジン特性

とはいえ、風を遮るもののないフロント周りと上体がおきたライディングポジションは、高速道路を走るのにはあまり向いていない。ドゥカティ モンスター796のエンジンをチューニングしたという、コンサバティブなドィカティの空冷Lツインエンジンは、いわゆるレーシーな「赤いドゥカティ」のエンジンとは違い、低中速トルクを重視した味付けになっている。

なので高速でぶん回したくなる性格ではない。そして高速道路の法廷速度を超える速度で走ると、必要以上に風圧と闘うことになり、おのずとのんびり走ることになるのだ。

狭いニッポン、そんなに急いでどこへゆく

これはドゥカティ スクランブラーという“スタイル”の大事なポイントではないかな、などと走りながら感じることとなった。バイクがどんどん高性能になってゆき、近年のスーパースポーツは速く走ることを命題としているかのようだ。バイクはもちろん自動車の性能も上がっているからか、高速道路では左側の走行車線よりも、追い越し車線の方が混んでいることが多い。スクランブラーを走らせていると、そんなに急いでどこいくんですかぁ〜、なんて気分にさせてくれるのだ。

視野が広いライポジはツーリングにもってこいだよ

風圧と格闘し続けた高速道路をおりて、ツーリングスポットである一般道に入る。ここからの気持ちよさはちょっと伝えるのが難しいかも。一般道の速度で常用回転数となる、3000回転前後で走っていると、無駄な振動が少ない90°Lツイン独特のパルス感が心地よい。

そしてこれ以上シンプルにはできないだろうというインパネ周りと幅の広いハンドルは、高速道路では風圧にさらされることとなったが、目の前にさえぎるものがないため、広がる風景をパノラマのように楽しめる。

ワインディングに入ると一転してスポーツモードへ

そしてルートはワインディングの続く山道へ。予想通りなのか、想像を超えていたのか。ドゥカティ スクランブラーはまぎれもないスポーツバイクだった。アメリカンバイクのように思えたライディングポジションは、峠道に入るとダートトラッカーレーサーのような気分にさせてくれ、私の気持ちをグイグイ盛り上げてくれる。それまでののんびりした気分から一転して、スポーツモードに切り替わったかのようだ。

神経質にならずに楽しめるスポーツ性能

いわゆるスーパースポーツはコーナーリング性能は高いが、あらゆる操作に緊張感を強いられるのではないだろうか。ドゥカティ スクランブラーのブレーキはABSを装備した強力なものだし、エンジンパワーも充分なものだ。ところが、これがいい意味でゆるいセッティングになっているというか、神経質なところがなく安心して走ることができるのだ。

コーナーの入口で、強力だけど神経質ではないブレーキレバーを握り、クリップを過ぎるとアクセルをあけてゆく。その当たり前の操作でも、ブレーキングのフロント加重からリアタイヤのトラクションに、バトンタッチされるのがとても分かりやすく、安心してアクセルをあけられる。これは、Lツインエンジンが生み出す爆発パルスが、リアタイヤの接地感を伝えやすいというのも貢献してるだろう。

ドゥカティ一族の血脈を受け継いでいるスクランブラー

中低速域にボリュームのあるエンジンの、穏やかで心地いいリズムに身をゆだねていると、夏の山道に続く深緑のトンネルが、ドィカティ スクランブラーの規則正しく奏でる鼓動とともに追い越されてゆく。

そうしていると自分でも知らないうちに、かなりのハイペースでワインディングロードを駆け抜けていた。スクランブラーという、一見おおらかなスタイリングをもつこのマシンは、スポーツバイクとしてのポテンシャルをしっかり秘めている。これはまぎれもなくドゥカティの血脈を受け継いだ一族の一員なのだ。

上級者はもとより女性ライダーにもオススメできる

そんな正しくスポーツ性能を備えたドゥカティ スクランブラーは、軽量な車体もあいまりとても扱いやすいバイクだ。アメリカンバイクほどではないかもしれないが、シート高も低く足付き性はかなりいい部類だと思う。

見た目よりもはるかに高いスポーツ性は、上級者を楽しませるのにも充分なものだし、威圧感がほとんどないキュートなルックスは、女性ライダーにもピッタリなのではないだろうか。足付き性の良さでアメリカンバイクを選んでいる女性ライダーは多いと思うが、扱いやすく気軽に乗ることができるドゥカティ スクランブラーもオススメである。

“ちょうどいい”スポーツ性能とは

バイクの進化が精緻を極め、際限もなく高性能化してゆくいま、ドゥカティ スクランブラーの登場は、将来に何かのメッセージを残すことになるかもしれない。最高速度300km/hなんて、多くの人には意味をなさないだろうし、一般道で膝をすってコーナーリングするなんて、バンクセンサーとともに命をすり減らすようなものだ。

バイクの魅力は自在にあやつるスポーツ性が、大きな魅力のひとつだと思うが、ドゥカティ スクランブラーには、“ちょうどいい”スポーツ性能というのがあることを教えられたような気がする。