YAMAHA MT-01。ずっと気になっていたバイクだ。1999年にモーターショーで「鼓動」をテーマにコンセプトモデルとして発表され、ほぼ同じ姿で2005年から2009年まで販売されたヤマハのスポーツバイク。XV1700というハーレーに対抗するかのようなアメリカンバイクの、1,670cc空冷V型2気筒エンジンを、ネイキッドスポーツの車体に搭載したという異色なマシンで、「あれってどんなバイクなの?」って思っていた方も多いと思う。

ヤマハのラインナップからはずれて、すでに5年以上が経つが、いまだに世界でもあまり類をみない、ユニークな構成を持ったMT-01に試乗する機会があったのでレポートしてみたい。

アメリカンバイクのエンジンをつんだスポーツバイク

なんといっても最大の特徴は、スポーツバイクでは例のないこの巨大なエンジンでしょう。空冷V型2気筒エンジンの夾角は48°で、ハーレーの45°にかなり近い。北米市場をにらんだアメリカンバイクのXV1700をベースにしているこのエンジンは、最高出力を4,750rpmで発生させるという、まさにアメリカンな出力特性を持っているが、実際にはXV1700のエンジンから90%近い部品が見直されているというから、別物のエンジンと行ってもいいほどの変更がなされているようだ。

他にはない異次元のライディングフィール

まるでエンジンがフレームやタンクを背負っているかのようなMT-01は、やはりそれなりに大柄でかなりの存在感がある。そのライディングフィールはというと、もちろんこのエンジンのキャラクターそのままを味わうこととなった。5,500rpmからレッドゾーンとなっているタコメーターをにらみながら、アクセルをあけてゆくと、まさに車体全体から「鼓動」を爆発させながら加速してゆく。ハーレーのビッグツインと似たような感覚だけど、前傾のスポーツバイクのポジションがこれを異次元のものにしているのだ。

5速トップ2,000rpmで走る気持ちのいいエンジン

4気筒のスーパースポーツやドゥカティのLツインとはあきらかに違う加速フィーリングながら、4,750rpmという低回転で最大出力にいたるVツインエンジンは、想像以上に伸びやかで気持ちよく回り、加速中にその鼓動が振動に変化してしまうこともない。そのままポンポンとシフトを上げてゆくと、あっという間に法廷速度をはるかに超えるスピードに達してしまう。ちなみに高速道路の常用域だと、だいたい5速トップで2,000rpmを少しまわるくらい。これくらいのスピードで流していると実に気持ちいい。ドコドコと大きなピストンが爆発するパルスを感じながら、ひとたびアクセルをひねると、ドッカ〜ンと力強く加速するのだ。この感覚はやはり他では得られない、MT-01の最大の魅力となっているんだろうなぁ。

ネイキッドなのにあまり走行風を感じないとは

さらに特筆したいのは、MT-01の意外な整流効果だ。高速道路を走っていてすぐに気がついたのは、カウルのないネイキッドスポーツなのに、風圧をあまり感じないということだった。不思議に思って、片手で身体にあたる風圧の強弱を探ってみると、走行風が身体の正面からそれていたのだ。これはどうやら、大きなヘッドライトが正面の風をヘルメットの上方に逃がしているようだ。そしてさらに探ってみると、なんと特徴的なデザインのこのガソリンタンクのえぐれが、肩にあたる風圧も軽減してくれているようだ。

どこまでも走ってゆきたいと感じさせるMT-01

もちろんMT-01はカウルを持たないから風圧はそれなりに身体に受けることとなるが、ネイキッドスポーツの元祖のような私の愛車Z1000Jの場合、高速道路を巡航するのは大げさにいうと風圧と格闘するようなものなので、このMT-01の整流能力にはちょっと感動することとなった。これはロングツーリングでは疲労を少なからず軽減してくれるはずだし、おおらかなエンジンの鼓動を感じながら、どこまでも走ってゆきたいと思わせ、バイクに乗る純粋な喜びをもたらしてくれるのではないかな。

細部まで造り込まれた贅沢な車体

さらに細部をみてゆくと、ホントによく作り込まれていることがわかる。このハンドルポストも削り出しなのかとても美しいし、大きなエンジンを囲むフレームとスイングアームはアルミ製だ。足回りにもR1と同様のスーパースポーツと変わらない装備が多数盛り込まれているので、今回は試すことができなかったが、コーナーリング性能も期待できそうだ。また、試乗した2009年式のMT-01Sは、往年のヤマハのロードレーサーTZを思わせるカラーリングに、前後サスはオーリンズ製が装着されたスペシャルバージョンで、MT-01のユニークなキャラクターとスポーティでレーシーなムードのギャップがたまらないモデルだった。

レアで個性的なマシンでバイクライフに新しい発見を

このようによく造り込まれたMT-01は、輸出専用で車両価格が150万円ほどだったが、一般的にはあまり受け入れられなかったためか、現役生活は短命に終わってしまったようだ。ただそのため、レアで他にないユニークなMT-01は、中古車市場でもタマ数がそれほど多くないようで、120万円からと比較的高値を維持している。今年もフルモデルチェンジされたYZF-R1や、スーパーチャージャーが話題のNinja H2など、各社のフラッグシップが花盛りだが、MT-01のような個性的なマシンにも注目してみると、これまで気がつかなかったバイクライフに出会えるかもしれないね。