何を隠そう(隠してないが)僕はバットマンフリークである。特にティム・バートン監督のバットマン(1989年・1992年)とクリストファー・ノーラン監督のダークナイトシリーズ(2005年-2012年)には、どっぷりはまっている。
逆に言うとバートン-ノーランの間にあった数本はなかったことにしている。

アメコミヒーローでは、生まれついた超人たちや、突然変異で力を得たミュータント、あるいはサイボーグなどもいるが、バットマンとアイアンマンは自らの肉体を鍛えることや、自ら開発したテクノロジーによってヒーローとなったということで、他のヒーローたちと一線を画している。
そこが好きだ。

日米のトップアニメーターたちが集結

日本のアニメーションスタジオによる6本の短編アニメを収録したオムニバス作品。映画『バットマン ビギンズ』(2005年)と『ダークナイト』(2008年)の間の時間軸を描く。

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『バットマン ゴッサムナイト』は、2003年の『アニマトリックス』がそうであったように、バットマンを愛してやまないアニメクリエイターたちによるオマージュとして作成されたオムニバス短編OVA(オリジナルビデオアニメーション)だ。

収録内容
俺たちのスゴい話(制作 - STUDIO 4℃ / 監督 - 西見祥示郎)
クロスファイア(制作 - Production I.G / 監督 - 東出太)
フィールドテスト(制作 - ビィートレイン / 監督 - モリヲカヒロシ)
闇の中で(制作 - マッドハウス / 監督 - 青木康浩)
克服できない痛み(制作 - STUDIO 4℃ / 監督 - 窪岡俊之)
デッドショット(制作 - マッドハウス / 監督 - Jong-Sik Nam)

アクションではなく心の闇や葛藤を描く良作

全編バットマン愛に溢れていて楽しいが、僕がもっとも気に入ったのが、「克服できない痛み」だ。インドで苦痛や恐怖を克服するための修行を積んだブルース・ウェインが、どうしても耐えられない痛みを描いた作品だ。

克服できない痛み、それは愛する故郷であるゴッサム・シティの腐敗と、それをどうしても根絶やしにできない無力な自分への怒りだ。

「克服できない痛み」では、バットマンは下水道で追い詰めた敵に撃たれ、重傷を負う。出血と痛みに耐えながら脱出を試みる彼は、下水に捨てられた大量の銃器を発見する。そこで、命を賭して守ろうとしている街の、まだまだ浄化しきれない闇の汚濁を知って絶望するのだ。

バットマン:ゴッサムナイト

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どれも素晴らしいできなのだが、もうひとつ選べと言われたら、僕は最後の『デッドショット』を選ぶ。幼い頃に両親を強盗に殺されたことがトラウマで、バットマンという闇のヒーローになることを選んだブルースだが、超人的な射撃能力を持つ殺し屋デッドショットの要人暗殺を未然に防ぎながらも、本当に自分が妨げたい、止めたい銃弾は、両親を射殺した二発の銃弾なのだと悲しげにつぶやく。

そもそも街を守るだけなら、コウモリ男のような格好をする必要はない。アイアンマンは無骨な甲冑であっても、なにか特殊なデザイン(バッタでも蜘蛛でもない)を施してはいない。カラーリングやスタイリングにあるのは機能美と、どうせならカッコよく作ろうというエンジニアの意思だ。
それに比べると、バットマンは超人であろうとすると同時に、あえてコウモリのメタファーを選ぶとことが、非常に偏執かつ病的だ。つまり、アイアンマンに比べると、どこか心が病んでいて、しかもそれを自覚しているところがまた、ひどく暗い。

ティム・バートン監督もクリストファー・ノーラン監督も、そして本作のアニメーターたちもその暗さをよく理解した上で、作品をつくりあげている。

バットマンの面白さは、狂気をはらんだ悪役との戦いと同時に、ヒーローと、彼をとりまく環境すべてに潜む、複雑な心の闇の葛藤を描くことにあるのである。

バットマン ゴッサムナイト

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その意味でこのOVAは成功している。
バットマンファンなら、見て後悔しない。オススメだ。