クリント・イーストウッドにハズレなし。
俳優としても、監督としても、痺れる作品に携わる能力はピカイチだ。
そのクリント・イーストウッドが音楽を題材に、映画を作った。しかも、ミュージカルを基にした映画だ。

本作『ジャージー・ボーイズ』はミュージカルではないが、「シェリー」や「君の瞳に恋してる」など、誰でも知っている名曲が短くてもワンコーラス以上、実際にスクリーンの中で俳優たちが歌い、パフォーマンスを行っている。本作の役者のほとんどは、ミュージカル版の『ジャージー・ボーイズ』を演じた舞台役者たちだ。
僕はミュージカルは苦手だが、本作は音楽を題材にして、音楽を多用しているが決してミュージカルではない。しかし、登場人物たちがときとしてスクリーン越しから我々に言葉を発して、背景やストーリーを補足する。その手法もまた好きではないが、イーストウッド監督はその”禁じ手”をスムースに挿入し、映画として破綻させずにうまく収束させている。

エンターテイメントが”非合法な力”と不可分だった時代

本作の主人公たち、ジャージー・ボーイズことフォー・シーズンズは、美しいコーラスを主体としたボーカルグループだ。

フォー・シーズンズ(The Four Seasons)は、アメリカ合衆国の、1960年代中期に世界規模で成功したロックおよびポップス・バンド。ヴォーカル・グループの殿堂はビートルズよりも以前に最も人気のあったロック・バンドだとしている。1960年、フランキー・ヴァリがリード・ヴォーカル、元ロイヤル・ティーンズのボブ・ゴーディオがキーボード奏者およびテナー・ヴォーカル、トミー・デヴィートがリード・ギターおよびバリトン・ヴォーカル、ニック・マッシがベース・ギターおよびバス・ヴォーカルを担当していたフォー・ラヴァーズがフォー・シーズンズと名を変えた。1970年より「フランキー・ヴァリ・アンド・フォー・シーズンズ」としても知られている。

本作は、ニュー・ジャージー州の田舎町で育った4人組の若者が、フォー・シーズンズとして成功し、そして互いの不信や金銭トラブルなどによって苦悩していく姿を描いている。

メインボーカルのフランキー・ヴァリ以外、メンバーを変えた現在の姿(2012年)

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彼らを支援するのはマフィア。
マフィアといえば冷酷な犯罪組織というイメージが強い。本作もマフィアもそれは変わりないが、優れた才能を持つ若者たちへのメンター、いわゆるタニマチとして、長期間にわたって支援を続ける。

グループを深刻なトラブルに追い込むのもマフィアだが、それを救うのもマフィアだ。
日本でも歌舞伎や相撲などのタニマチになる暴力組織の話は昔からよくあるが、芸能やボクシングなど、興行の世界にはそうした例はつきものだ。本作でも例に出されるが、フランク・シナトラがマフィアの準構成員であった話は有名である。

中途半端なら名前さえ変えることを厭うな!

本作では、大きな成功を掴んだのもつかのま、メンバーの一人であるトニーが作った巨額の借金の返済のため、馬車馬のように働かざるを得ず、その結果家庭も崩壊し、栄光の光と影を共に味わうことになった、そういう悲哀を淡々と描く。

ブルーレイ&DVD『ジャージー・ボーイズ 』トレーラー 2月4日リリース

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天から授かった才能のことを、英語ではGift(ギフト)と言う。
フォー・シーズンズのメインボーカルのフランキー・ヴァリは、誰も聞いたことがないようなハイトーンで美しいファルセットを持つ。それが彼が生まれながらに持ったギフトだ。

そのギフトだけを頼りにフランキーはチャンスを掴み、成り上がる。音楽やボクシングは、若くて貧乏で野心を持つ男たちの拠り所だった。ハリウッドやラスベガス、それが成功を約束する舞台だった。
現代ではそれがシリコンバレーに移っただけで、既存の社会の歯車になることを潔しとしない若者たちはいつでも大きな成功を夢見て、歯を食いしばっている。題材こそ音楽だが、本作はデビッド・フィンチャーの(僕が大好きな)『ソーシャル・ネットワーク』と同じカテゴリーの映画だ。苦悩や悲哀はあっても、成功を目指してひたすら戦う若者の話である。

ちなみに、フランキーはもともと自分の名字をVally と綴っていたが、一目惚れした年上の女(のちに結婚)との初デートの際に、「なんて中途半端な名前」と罵られて愕然とする。

VallyがYで終わることが中途半端だと女は言う。Yは母音でも子音でもないからだと。
イタリア系なら最後は母音だ、と女は勧める。シナトラはA、ロバート・デ・ニーロはO、といった具合だ。
妙に強力な説得力にフランキーは彼女にどうしたらいい?と聞く。すると女は、Valliにするべきだと言うのだ。

その後彼は女の忠告を入れて、VALLIと名乗って成功する。

このシーンは、ある意味『ソーシャル・ネットワーク』で、ショーン・パーカーがマーク・ザッカーバーグに、The Facebookという最初のサービス名からTheを落として、ストレートにFacebookとすべきだとアドバイスをしたエピソードに通ずる、とても印象的で、成功へのきっかけを導き出した良いシーンであると僕は思う。

小さなこと、と笑うなかれ。藁をもすがるほど成功に貪欲な者だけが大きな成功を手にすることができるのだ。