お茶の間でも人気となったパンクロック
パンクロックといえば、日本のアーティストでは、THE BLUE HEARTSを思い浮かべる方は少なくないと思う。私のようなオッさん世代には若き日の青春ソングとして。彼らが解散後に結成したTHE HIGH-LOWSからは「日曜日よりの使者」が、ホンダの企業広告「Do You Have a HONDA?」のイメージソングに採用されるなど、いまの若い人たちにも定番のロック(あるいはポップス)として、定着しているのではないだろうか。
肥大化しビジネスとなったロックへの反発
1950年代に誕生したロックンロールは、1960年代に至ると世界的に人気を博することとなる、ビートルズやローリングストーンズをはじめ、その後、続々と登場するキラ星のようなロックミュージシャンたちにより、巨大な音楽産業へと発展してゆく。いまやお茶の間でもおなじみとなっているパンクロックは、そんな時代背景の1970年代にニューヨークとロンドンで起こった、若者たちによる新しい音楽ムーブメントであり社会現象ともいえるものだった。
大衆酒場パブがパンクロックの萌芽となる
パンクロック誕生の背景には、肥大化しビジネスとなっていったロックへの反発や、当時の社会情勢などが絡みあい、簡単には述べられないが、ことロンドンのパンクロック発祥においては、コンサートホールともロックフェスともほど遠い、イギリスでは一般的な大衆酒場であるパブ(Public Houseの略)が重要な存在だったようだ。その大衆的なパブで演奏していたバンドたちが、パンクロック誕生に影響を及ぼすことになるのである。
現存するイギリスの階級社会が音楽的背景
あまり意識されることは少なくなっているようだが、イギリスには階級制度というのが古くから存在していて、上流階級、中流階級、労働者階級と明確に区別されている。階級社会というとなんだか差別のような気もするが、イギリスにおける労働者階級は、運転手や職人といった労働に従事する人が主で、所得という意味では中流以上には及ばないけれど、おのおのでプライドを持って生きている階級ということになるようだ。
イギリスにおけるロックの原点のようなパブロック
そんな労働者階級が憩いの場として集う、パブで演奏していたバンドのスタイルは、画一的ではなく様々だったようだが、いわゆるマージービートといわれる、アメリカで生まれたロックンロールやブルース、R&Bを輸入したブリティッシュビートを演奏するバンドが多かった。その頃、メジャーで巨大産業となっていったロックは、プログレッシブやサイケデリックなど複雑化してゆく中、パブで演奏されていたロックは、シンプルでストレートなサウンドが労働者階級に受け入れられ、後にパブロックというジャンルで語られるようになる。
パブロックを聴くならまず「Dr. Feelgood」
パブロックを説明するのに長々と述べてしまった。つまりパブロックとは「何なにロック」みたいなジャンル分けがしにくい分野なのだが、ロック好きにとっては原点のようなビートに、魂をふるわされるのではないだろうか。ここでようやく今回の主役である、「Dr. Feelgood」が登場する (^_^;)
Dr. Feelgoodはリー・ブリロー(ボーカル、ハーモニカ)、ウィルコ・ジョンソン(ギター)、ジョン・B・スパークス(ベース)、ビッグ・フィガー(ドラムス)により1971年に結成された。リー・ブリローのやさぐれただみ声と、ウィルコ・ジョンソンによるキレッキレのカッティングギターで、パブロックを代表するバンドと言ってよいだろう。このファーストアルバム「Doen By The Jettey」で1975年にメジャーデビューし、1976年のサードアルバムとなるライブ盤「STUPIDITY」では全英チャート1位を獲得する。ところがその後、リーとウィルコの意見の相違により、1977年にウィルコが脱退してしまうこととなる。
日本のロックシーンへも影響を及ぼしたウィルコ・ジョンソン
Dr. Feelgoodはその後も活動を続けいまにいたるが、このバンドにとってウィルコ・ジョンソンの存在はあまりにも大きく、この後「イアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズ」に加入するなど、パブロックを語るには欠かせない人物となる。親日家としても有名で、先頃シーナさんの訃報が伝えられたシーナ&ザ・ロケッツとの交流をはじめ、日本のロックバンドへの影響もはかりしれないものがあるだろう。
● Dr.Feelgood 【She Does It Right】
ファーストアルバムから代表曲の「She Does Right」。いやぁ〜、カッコいい。いますぐにでもアクセルをひねりたくなる【疾走するミュージック】にふさわしいと思いませんか? 飲んべえの私としては、パブ(まぁバーと言っていいでしょう)で生まれた「バブロック」って響きにもグッとくるわけで。ここから社会に反抗するように、パンクロックが疾走しはじめるというのも、考えさせられる面がある。
パブロックは現代のカスタムカルチャーに通じる美学があるかも
というのも、近年のカスタムバイクカルチャーは、この流れにとても似ているのではないだろうかと思ったのだ。限りなく高度に制御されるようになった、高性能の市販モーターサイクルに対して、原点のロックに回帰するかのように、シンプルさと美を追求するカスタムバイク。ほとんどは大きなコンサートホールでは演奏されず、大衆酒場で賞賛されたパブロックに通ずる美学があるように感じるのは私だけだろうか。