あなたは、初めて恋に落ちた瞬間を覚えていますか?

みなさんは古代ギリシアの恋愛小説の主人公、ダフニスとクロエーをご存じでしょうか?

少年ダフニスと少女クロエーは、互いに恋に落ちるのですが、純真な二人はそれを恋だと分からずに、胸を締めつける痛みや苦しみを病気だと勘違いしてしまいます。

あまりに純真で笑ってしまいますよね?
でも、そんなみなさんは、初恋の瞬間を覚えているでしょうか?
ダフニスとクロエーのウブさを笑ってしまった私でさえ、実は初めて恋に落ちた瞬間の記憶はとても曖昧で、その胸のざわめきが何なのか理解できずにいたように思います。

恋愛小説、漫画、ドラマ、映画…世の中には様々な情報があり、その胸のざわめきがときめきであり、それこそが恋であるということは、親や学校から教わらずとも、誰しもが知らぬ間に学んできたことだと思います。そんな現代だからこそ、大切なものを見落としてしまっているのかもしれません。

想像してみて下さい。

若者などほとんどいないとある小さな島で、朝は小鳥のさえずりで目を覚まし、昼は動物たちの世話と旬の食物を収穫し、夜は日が沈む前に眠りにつく。もしも、あなたがそんな環境で生まれ育ったとしたら、恋というものを知らぬ間に理解することができたでしょうか。
古代ギリシアの恋愛小説、ロンゴス作『ダフニスとクロエー』は、まさにそんなことを考えさせてくれる物語なのです。

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その恋は、果たして本当の感情なのでしょうか

物語の中で、主人公の少年ダフニスと少女クロエーは、互いに恋に落ちます。

しかし、他人が恋という言葉を発していることすら聞いたことがない二人には、このやり場のない気持ちをどうしたらいいものかと悩み、手さぐりでこの胸の痛みを治す方法を探し続けるしかありません。

そんな日々の中で、少女クロエーはダフニスを思いながらこうつぶやきました。

「きっと今のわたしは病気なんだろうけど、どんな病気なのか分からない。痛みは感じるけど、傷なんかどこにもない。こんなに深い木陰に座っているのに、体が焦げるように暑い。今まではどんなことがあっても、泣いたことは無かったし、ご飯もちゃんと食べられたわ。ダフニスは確かに綺麗だけど、花だって綺麗よ。ダフニスの笛の音は美しいけど、鶯の声だって負けやしない。それなのに、今のわたしにすれば、そんなことどうだっていいの…。」

なんと素直で美しい表現なのでしょうか。

恋の病、とよく言いますが、クロエーが言っているように、実際に病気になってしまったわけではありません。その痛みは傷や怪我であるわけはなく、思い悩む心の苦しみであるということも、もちろんみなさんにはお分かりのことだと思います。

現代では、そんなことはテレビをつけて恋愛ドラマのひとつでも観ていれば、子どもであってもわかることです。しかしそれは、自分の気持ちの根底に目を向けないまま、外部から入ってくるたくさんの情報をもって、自分の気持ちを論理的に解釈して、自らを納得させてしまうということだと思います。

恋だと信じたもの。それは、恋のようなモノ、かもしれず、本当に自分自身の心の中から湧き出る本物の感情とは別のものかもしれない、そうは思わないでしょうか?

私たちは、巷に溢れるさまざまな情報から、恋という本物の感情を知る前に、恋のようなモノをとりあえず味わっているのかもしれません。本当ならば、ダフニスとクロエーのように、もっと素直に自分たちの気持ちと向き合ってみなければ、本当の恋を知ることはできないのかもしれないのです。

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美しい世界を知るためには、自分の感情に向き合うことが重要

情報が溢れる現代は、必然的にノイズが多くなり、本当の自分の気持ちを思い返す時間が少なくなってしまいます。

しかし、自分の抱いている些細な気持ちから目をそらさずに向き合い、それ自体を感じる。
そうすると、恋というものをひとつひとつ理解していく過程の中に、私たちが見落としてしまっていた沢山の美しさを見つけられるのではないでしょうか。

実は恋に限らず、さまざまな素直な感情を、外からの情報による勝手な解釈で押し殺しているのかもしれない、そう思います。

現代の私たちが、古代ギリシアの恋愛小説の主人公であるダフニスとクロエーから学べることは、もちろんそれほど多くはないかもしれません。口説きのテクニックも、恋愛の駆け引きも、性愛の手ほどきも、何もありません。
ただ、自分の心の内から湧き上がってくる感情に対して、素直に向き合い、それがなんであるかを一生懸命考えること。それを学ぶことはできます。シンプルですが、実は大切なことであると、私は思うのです。

エーゲ海に浮かぶ島で生まれたダフニスとクロエー。夏を前に、純真な彼らの繊細な感情に触れてみるのも一興と思うのですが、いかがでしょうか。

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