金融からファッション・美容業界へ

スラリとした長身に、ショートに整えた髪。
そして常に自信に満ちた笑顔。

SONOKOの代表取締役社長を務める権藤嘉江子さんは、米国Facebookの副社長シェリル・サンドバーグや、米国Yahoo!のCEO マリッサ・メイヤーなどにも通じるポジティブさとアグレッシブさを持つ、典型的な女性経営者のように見える。また、元プロ野球選手であり名監督で知られる権藤博さんの実の娘という背景が、彼女のオーラを増している。

金融畑からラグジュアリー・ファッションビジネスに転じたのが1999年。ブルガリジャパンでは営業企画マネージャーとして実績を残したが、もともとファッションビジネスに強い関心があったわけではなかったらしい。たまたま新聞広告を見て、ブルガリの求人を知って応募をしたという。

「父の影響は、今考えると大きいものでした」と権藤さんは語る。「父が率いた横浜ベイスターズが日本シリーズで優勝を果たしたのが1998年でした。その優勝を間近で見て、スポーツの究極の感動を味わい、私ももっと人やモノに近い仕事がしたい。そう思って前に踏み出したことが、ファッション業界に関わるきっかけになりました」

権藤嘉江子 - SONOKO代表取締役社長

米国ジョージタウン大学卒業。
1991年 三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行) 入社
1999年 ブルガリジャパン 入社
2002年 クリストフルジャパン 入社
2002年 LVMHファッショングループジャパン(現LVJグループ) 社長室長 就任
2004年 エミリオ・プッチカンパニー ジェネラルマネジャー&COO 就任
2006年 同社 プレジデント&CEO 就任
2013年 株式会社SONOKO 代表取締役社長 就任

新天地で待っていた予想外の試練

権藤さんはブルガリジャパン、クリストフルジャパンを経て、LVMHファッショングループジャパン(現LVJグループ)に入社。その後グループの一部門であるエミリオ・プッチカンパニーのCEOに就任することになる。

「CEOとは言っても、エミリオ・プッチはLVJグループという組織の一つの部門。言ってみれば大企業の事業部長にすぎません。ましてラグジュアリーブランドのマーケティングや商品開発などの権限は本国にあって、私たちが自由にできる裁量の範囲はとても狭いものでした」と権藤さんは語る。
「もちろん仕事としては非常にエキサイティングなものでした。だからこそ10年間もその職にあったわけですが、その間に少しずつ、より経営そのものにタッチして自分たちでディレクションできる仕事をしたいと思うようになっていました」

それが日本のブランドであり、カリスマ創業者で知られるSONOKOへの転身であったというわけだ。

BBクリーム『SONOKO ライトアップBB』

SONOKOは、体の内側と外側の両方からアプローチして、新陳代謝を正常にすることで美しく健康になるという「美容理念」を提唱している。
添加物を一切加えずに素材にこだわった『食品』『サプリメント』と、自然由来の原料中心の「化粧品」の3つを展開している、という。
「SONOKOといえば”美白”、というイメージが強いが、実は「食」から始まったブランドなんです」と権藤さんは言った。

発言や事業判断をするうえで、いろいろと制限があった前職でも苦労はあったが、そうした制限が少ない現職にあっても、逆にその責任の大きさに改めて重圧を感じた、と彼女は話す。
「自ら望んで得た職でしたが、偉大な創業者(鈴木その子)が残した食事理論を遵守して、そのDNAを受け継いでいくということと、新しい商品や市場を作って進化を進めていくという一見矛盾することを同時に進めていくことは、なかなか大変なことだと思いました」

どんな偉大なブランドでも寿命はある、と権藤さんは言う。同じモノをずっと売っていっても人はいつか飽きるし、新しい提案を欲するようになる。それでも”いま”お客様に受け入れていただいているモノをいきなり変えたり無くしたりすることもできない。

「軸をぶらさずに新しいことにチャレンジすることが、どれほど難しいことかよくわかりました。だから社長に就任して以来1年半くらい経ちますが、毎日が挑戦でありタフな試練でしたね」と権藤さんは笑いながら言った。

「今後は20〜30代の比較的若いお客様にもSONOKOを知っていただけるよう、取り組んでいきたいと考えています。その第一弾として発売されたのが、BBクリーム『SONOKO ライトアップBB』です。昨年夏には銀座店のリニューアルも行い、これからも食中心のライフスタイルをお店から提案・発信していく予定です」

伝統ある企業を率いることの難しさを語る権藤さん

ストレス解消は映画鑑賞やカラダを動かすこと

現在、上海に子会社を設立し、社長を兼ねているため、月に一度は数日間の日程で上海に出張するという権藤さん。
「なかなか忙しいですが、機内で映画を見ることがいいストレス解消になっていますね」と笑う。
最近みたのは「ミリオンダラー・アーム」。野球が普及していないインドから、才能溢れる若者たちをスカウトし、メジャーリーガーへと育て上げるという話だ。金融からファッション業界、そして美容業界へと転身してきた自分の境遇に重ね合わせる部分があるのかもしれない。

「ミリオンダラー・アーム」予告編

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プライベートでは家族や友人と一緒にハワイに定期的にでかけては、ゴルフを堪能するという。
公私ともにとてもアクティブな権藤さん。ポジティブでアグレッシブなのは見た目通りだが、そのタフな精神力と体力はどこから生まれているのだろうか。

「水泳ですね」と権藤さんは言った。

5年前から始めた水泳だが、いまでも週2回、一回に1-2キロは泳ぐ。時には5キロ泳ぐことさえあるそうだ。

もともと泳ぐのは好きだったが、スポーツとして本気ではじめたのにはきっかけがある、という。「友人が、大島から茅ヶ崎(60キロ)を泳ぐという挑戦をすることになって。最初はなんて無謀なことをするのだろうと皆で話していましたが、実際に友人は見事22時間かけて泳ぎ切ってしまったんですよ。そして改めて、ああ、限界というものは自分で決めるものではないなと、その姿をみて強く感じました」
そのことを、その友人に伝えたところ「なら、やってみたらどうですか」と言われたのだそうだ。

負けず嫌いの権藤さんは、その言葉を受けて本格的に水泳を始め、5年をかけて体力作りと、遠泳のための準備を進めた。
「それだけの距離の遠泳を海でするには、関係官庁からの許可であるとか、並走するカヌーやライフセーバーの手配など、多くの手続きやら準備が必要なんです」

さすがに一人で泳ぎきることは無理なので、数名で交代しながら泳ぐという計画で臨んだ、という。「60キロを泳ぎ切った友人は、トップクラスの元水泳選手でした。海で泳ぐには、距離もさることながら波に流されないようにまっすぐ泳ぐこと自体が、かなり困難なことなんですよ」
それでも一人数キロを泳ぐ。強い波に抗いながら全力で泳ぐと15-20分で体力が尽きる。そこで交代して、代わる代わる泳いでいくのだという。
「チャレンジは成功して、15時間でゴールすることができました。達成感は本当に言葉にできないくらい大きなものでしたよ」

この遠泳プロジェクトが実現したのは、なんと2014年の夏、つまり1年前のことだ。
「やりきったので、いまは水泳はストレス解消程度に続けている状態です。でもまた次のチャレンジを見付けたいですね」と権藤さん。
「当分は、社長業に専念して、伝統を守りながら進化をしていくことと、新しいことに挑戦していくこと。この二つを推し進めていくことに集中しています」

権藤さんは、度々そのチャレンジは大変だ、プレッシャーもすごい、と繰り返したが、遠泳プロジェクトを5年もかけて達成した粘り強さと高い集中力で、実際には試練を楽しみながら、着々と進めていくのだろう。
そのタフさは男女の別に関係ない経営者の手腕の証明であり、同時に眉間にしわを寄せながら働くのではなく、両親や友人たちとの愉悦の時間を大事にしながら社長業に勤しむ姿は、男性経営者にはなかなか見られない、女性経営者ならではのしなやかさを感じざるを得ない。

|| インタビュー日時:2015年5月11日 @ SONOKO本社にて

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