彼女は身長168センチ。細身のカラダに似つかわしくない大きな胸と張り出した腰、まるでコカコーラの瓶のような曲線を持っていた。おまけにすらりとした脚はカラダの半分くらいの長さだから、もはや何も言うことがない。

ただ、彼女は自分のカラダに関する褒め言葉を口にする男に対して、苛立ちと軽い軽蔑を隠さずに「女の価値を3つの数値で考えるような人はごめんだわ」「原始人なの?」と冷たく言うのが常だった。

進路はCAに

彼女は高校時代をハワイで過ごし、大学はカリフォルニアのカレッジに進んだ。当然英語も堪能だったし、才女であると言っていい。顔立ちは、その冷たい表情とセリフとは裏腹に、あどけなく可愛らしい。
だから多くの男たちが彼女に求愛したし、もちろんその中にはデートにこぎつけたり、実際に交際にまで発展した者もいたのだが、あまり長続きすることはないようだった。

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彼女が付き合う男といえば、比較的育ちがよく、金回りがよい男が多かったように見えたが、彼女自身は、「顔でもお金でもない」とにべもなく言うのだった。そういうときの彼女は、決まっていい終わった後に軽く左上を向く。その仕草がまた印象的だった。

その彼女が選んだ就職先は、外資系の航空会社だった。

英語力を生かしてCAになる。それが彼女の最初のキャリアプランであり、苦もなく実現をした。

努力の賜物としての美

ある意味、優れた容姿も役に立ったのは間違いがなく、それを指摘すると「役立つものはなんでも使わないとね」と彼女は笑って答えた。

「あのね」と彼女は突然真剣な顔をして、こちらをまっすぐ見て言った。「他人に評価されることを嫌うことと、自分で正しく評価することは別物なのよ。男性に自分の容姿をあれこれ言われるのは好きではないのは、私がどれだけ努力して、自分を保っているかを説明するのが嫌だからなのよ」

彼女に言わせると、彼女は中学2年生から、一度もスイーツなるものを食べたことがないという。甘いものは果物のみ。炭水化物も午後三時以降は絶対に採らない。
「ラーメンなんて食べたことがないのよ」と彼女は言う。「脚が太くならないように、正座もしないし、あぐらもかかない。床に座ることもしない」「朝のジョギングも欠かしたことがないし、お酒も夜10時以降は飲まない。よい睡眠の邪魔になるから」

外見についての賛辞を嫌う女性が、ここまで自分の容姿を保つための努力をしていたというのは、意外なようだし、ある意味さもありなんという気がした。

「カメ男って知ってる??」と彼女は言った。

カメ男?いや、知らない。

「何年か前に、イタリアでテレビに出て有名になった人なんだけど、まるでカメの甲羅みたいな腹筋をしているので評判になったのよ。その秘訣を訊かれて、アルコール、炭水化物を一切採らないこと、と答えたのね。イタリアでよ。ワインも飲まず、ピザもパスタも食べずに何が人生か、イタリア人としての楽しみがないじゃないか!ってみんながびっくりしたの」と彼女は笑う。


「それでそのカメ男はなんて答えたと思う??」彼女は笑った。「パスタやピザ以外にも美味しいものはあるし、ワイン以外に飲み物はある。それに、イタリア人としてというより、イタリア男としては、この腹のおかげでイタリア美女とは十分楽しめているよ、て(笑)」

彼女にとっては、自分の容姿はカメ男の腹筋みたいなものだ、と言う。
目的のために自分を律して投資をする。それだけのことだと。

自分にはそこまでできないな、と言うと、彼女はまた少し冷たい顔をしてこう言うのだ。
「目的がないってことじゃない?原始人なの?」

(追記)ちなみに、そもそも、鍛えられた腹筋のことをイタリア語で「tartaruga (タルタルーガ:亀)というそうだ。