大人のバイクと、不良の匂いの両立という矛盾に挑んだBMW

BMWのオートバイに対する世間一般的な印象は、やはり裕福な医者か弁護士あたりが乗っていそうなラグジュアリーなツアラー、という感じなのではないか。もしくは、中高年が安全性と快適性を両立させた、二輪を乗ることにおけるリスクを極力排した大人のモーターサイクル。

その印象は事実BMWが狙うところだろうと思う。二輪の危うさを感じさせることや、過激な走りへの誘いは、より大きな市場を狙っていくうえでは百害あって一利なしだからだ。

だから、ハーレーやカワサキなどが湛える不良の匂いとは、BMWは別世界であっていいし、ドゥカティやアグスタのようなスロットルを全開にしろよといいたげなラテンの挑発とは無縁であってよい。僕はそう思うし、多くのBMW愛好者もそうであったと思う。

しかし、当のBMWはそう思っていなかったようだ。
安全で楽しい趣味のバイク。ラグジュアリーな大人のバイク。その素性は変えないままに、僕たちのバイク乗りの心に巣食う”永遠の不良少年”への憧れを、BMWモーターサイクルにまとわせようと考えたのだ。
実際、その第一弾プロジェクトであった、カフェレーサーカスタムのベースマシンとして最適なR nine Tのリリースと、日本のトップクリエイターとのコラボによるカスタムプロジェクトは、多くのバイク乗りを驚愕させ、改めてカスタム素材としてのBMWモーターサイクルへの関心を沸き起こさせた。

そして、今回BMW Motorrad Japanは、カフェレーサースタイルに飽き足らず、ボマー、いや、これまでの常識をはるかに超えるカスタムプロジェクトを発表したのだ。
しかも、そのプロジェクトは、敢えて若手クリエイターを起用するのではなく、業界の大御所とも言えるHOT-DOCK CUSTOM-CYCLESの河北啓二氏(下の写真の右)と、Ken's Factoryの永井健次氏(同 左)に託したのである。さらに驚くべきは、そのベース車両として選んだのが、BMWの中では最大排気量1648ccを誇る、重量級のツアラーK1600GTLだったことだ。

敢えて大人の中の大人、の超弩級ツアラーをカスタムベースに選ぶところが、BMWの本気度を示していると言えるだろう。

BMW Motorrad Japan は、日本のカスタムシーンを創り上げたレジェンド、河北啓二氏と永 井健次氏とともに、ニューコンセプト“MAKE LIFE A RIDE”のもと、オリジナルの K 1600 GTL を公開した。

www.bmw-motorrad.jp

日本のカスタムシーンを創り上げたレジェンドが K1600 GTL を全く異質な存在へと仕上げた!

Ken's Factory メタリックなボディに、バックステップxセパハン。見た目の流麗さとは裏腹に、相当にスパルタンなドラッグレーサー的なマシンだ。

メタルシートは、真冬はさぞかし寒いだろう・・・・

モスグリーンのボディは、ミリタリーモード全開だ。ターミネーターが巨大なライフルを背中に背負って跨がれば、そのままSF映画のワンシーンの再現である。

メカニカルであると同時になぜかオーガニック。生物的な要素を備えている。

「ひとつ上をいくラグジュアリー・ツアラーを、快適ではなく、じゃじゃ馬にした」(永井 健次氏)と言うように、この2台はもはやツアラーではない。

ベースのK1600GTLは、1648ccの水冷6気筒エンジンを搭載し、実に160馬力を発生させる。この2台がどれくらい軽量化しているかはわからないが、オリジナルの355Kgから比べれば相当に軽いはずだ。想像を超える走りを見せてくれるにちがいない。

BMW Motorrad Japanが今回見せてくれた本気は、大人のバイクで、裕福な層にしかとても手が届かないバイクであるということ自体は変わらないが、ただリスクを避けて安全な走行を目指すようなオトナの余裕をかなぐり捨て、これからの人生も攻めて生きるという覚悟を持った男達への意思表示だと感じた。

R nine Tは、女性でも十分に楽しめるし、またとてもよく似合う洗練されたカスタムでもあったと思うが、今回のK1600GTLカスタムは、やはり男向け、だ。野生をむき出しにして、スーツを脱げば、鍛え抜かれた筋骨がのぞく。そういう激しいバイクを楽しめる男だけにむけたメッセージだと僕は感じたのである。