特に、いわゆるモッズスタイルのベスパや、若者たちのファッションは、2010年代の今にしてみると、とてもカッコイイです。
最近人気が再燃しているカフェレーサーですが、そのルーツは1960年代の英国の若者にあります。ロッカーズと呼ばれた、ロックと革ジャンとモーターサイクルを愛する、粗暴な若者たちです。
そして、彼らと一線を画す、もう一つのムーブメントがモッズ。洒落た細身のスーツに払い下げのミリタリーコートに身を包み、ゴテゴテに飾り立てたイタリア製のスクーター(ベスパやランブレッタ)を乗り回す若者たちです。
この映画は、ロッカーズとモッズの抗争を描きつつ、夜の街では退廃的な遊びに興じて、クールで反抗的な日々を送ることに、強く満足しているはずのモッズの青年たちが、昼間は結局 生活のため、社会の一部として(彼らからすれば、くだらなくて下劣で退屈な)仕事に就かなくてはならないという矛盾の前に悩む姿をそっけなく表現しています。
主人公のジミーは、軽蔑しているはずの上司から罵倒される日常に破綻し、仕事を辞めてしまう。さらに恋人ともうまくいかないことに逆上して挙句に、愛するスクーターを事故で大破してしまいます。
絶望の中、唯一の救いをモッズのリーダーであるエースに求めるジミーですが、エースもまた(ホテルのベルボーイとして、横暴な客に唯諾々と従い黙々と働くことで)社会の歯車として生きていることを思い知らされます。そんな真実に逆ギレしたジミーは、エースのベスパを奪って逃走し、そのまま絶壁から海へダイブするのです。
バイクに乗っているからかっこいいとか、反抗的だからクールだということはない。
一生懸命生きているからこそ、辛いことからも目を背けず、逃げないからこそかっこいい。そんなことにさえ気づけなかった若者の愚行を、淡々とした映像と音楽で表現した本作。ご覧になっていない方は、ぜひ週末に観てください。
映画 「さらば青春の光」"Quadrophenia" 1979