普通、私たちが2輪車に乗るときは、万が一の転倒に備えライディングウェア&ギアに身を包むものです。しかし、このビンセント・ブラックライトニング(4ストロークVツイン1000cc)に乗るオジサンは、まるで海水浴に行くかのような裸同然の姿をしています・・・。写真撮影現場は、速度記録挑戦の舞台として有名なアメリカ・ユタ州ボンネビル塩湖。湖と言っても干上がってますから、泳ぐことはできません・・・。

海パン一丁で挑んだ漢のストーリー!!

出典:http://2.bp.blogspot.com/-JuWKvDI_JcE/TVxNpTlGJUI/AAAAAAAANM0/


このオジサンの名前は1900年生まれのローランド・フリー。"ローリー"の愛称で呼ばれることが多かった彼は、第二次大戦前からアメリカでレーサーとして活躍。戦中は従軍していましたが、退役後はレーサーとしてのキャリアを再開させています。


彼が水着に着替えたら?(by ホイ◯ョイプロダクション)

1948年、ローリーはジョン・エドガー所有のビンセントで、アメリカの絶対地上速度記録更新にトライすることになりました。9月13日の朝、ボンネビルでの最初のトライのときは、ローリーはちゃんとしたライディングウェア&ギアを身にまとっていました。そりゃそうです。200km/hをはるかに超えるスピードで走るわけですから、もし転倒したらライダーの身の安全の保証はありません。


挑戦当初のローリーのタイムは147mph(237km/h)。目標の150mph越えにはわずかに及びません。この記録挑戦にはモービル石油という大スポンサーもついています。いろいろプレッシャーもあったと想像できます。そして勇敢なローリーは、わずかな空気抵抗も排除する目的で「あんなカッコ」で再びビンセントの車上の人になったのです。転んだら全身傷だらけは必至。しかも路面の塩を塗り込まれる・・・ぞッとします。


恐怖の報酬としてローリーが得たのは、150.313 mph (241.905 km/h)という大記録! 見事目的を達成し、漢ローリーここにあり、を実証したわけです。なお彼が乗った特別仕様のビンセント・ブラックライトニングは、2010年にテキサス州の富豪、ハーブ・ハリスが110万USドル!(推定額)で購入しています。歴史的1台のプライスとはいえ、ビックリオネダンですね・・・。

出典:http://www.motorcycleclassics.com/


空気抵抗を軽減するため、フロントフォークは黒テープでぐるぐる巻きしており、車上でフライングポーズをするためシートの類が撤去されているのが特徴です。燃料タンクの赤いペガサスは、速度記録挑戦のスポンサーになったモービル石油のマークですね。


絶対地上速度記録挑戦の「今」


速度記録の分野は、第二次世界大戦直後の1950年代までは、メーカーや国家の威信をかけた技術競争の舞台という観がありました。しかし1960年代に入ってからは、スピードに魅せられた趣味人=プライベーターが活躍する時代になっていきます。メーカーや国家の関与が希薄になっていったのは、環境問題やエネルギー問題が顕在化して、「速さ」≠「科学的正しさ」になったことも影響しているのでしょう・・・(ロマンがないですね・・・?)。


出典:http://thekneeslider.com/


なお現在のレシプロエンジンモーターサイクルのFIM絶対地上速度記録は、2010年9月にボンネビルの地で記録された376.363mph(605.697km/h)です。初の600km/hオーバーを達成したのは、ロッキー・ロビンソン。彼のストリーム・ライナーはスズキ隼のエンジンを2機連結した2600ccユニットに、ドライアイスを冷却用に使ったインタークーラーターボを装着。その出力は900馬力以上!といわれています。


出典:The Fastest


こちらはそのオンボードカメラ動画です。600km/h超えの未知の世界の眺めを、ぜひ疑似体験してみてください。