2014年にYAMAHAが「第3の移動体」として発売した、LMWテクノロジー (※) を搭載したTRICITY(トリシティ)と名づけられたフロント2輪+リア1輪の画期的なシティーコミューター。
第3回となる本企画では、シティコミューターの新しいカタチを表現した、トリシティのデザインに焦点を当ててご紹介します。

※: LMW=Leaning Multi Wheel (リーニング・マルチ・ホイール) テクノロジー。モーターサイクルのようにリーン(傾斜)して旋回する3輪以上の車両に搭載される技術。

無意識に気づかされていた、新奇性と受け入れやすさを両立するデザインの妙

今回は、クリエイティブ目線でトリシティについて、私、尾島早織(ロレンス編集部 クリエイティブ担当編集者)が考察します。

ロレンス編集部にはじめてトリシティがやってきたのは、2015年夏のこと。その佇まいに高級感を、そして乗ってすぐ「座りやすい!」と感じたことを覚えています。
(そのときのレビューについては下記リンク参照ください)

加えて、初めて目にしたフロント2輪 x リア1輪という新しい形態に少し驚きながらも、違和感はなく素直に受け入れられたものです。
そのときはそんな小さな矛盾をそれほど気にも留めなかったのですが、今思えば不思議です。

今回、この企画を通じて、その答えを知ることになりました。

トリシティの斬新さを正しく伝えると同時に、ユーザーやそれを見る人が自然に受け入れられるデザイン。一見矛盾するこの課題に挑戦した二人のデザイナーの話を通じて、その「こだわり」と「魅力」を紹介していくことにしましょう。

画像: 野口 浩稔 氏 ヤマハ発動機株式会社 デザイン本部 製品デザイン部トリシティ立体デザイン担当。 同業他社でデザイナーとしてさまざまなモデルに携わった後、2011 年にヤマハに入社。最初の作品は東京モーターショー参考出品車のEC-Miu。市販車はこのトリシティが初の作品。

野口 浩稔 氏
ヤマハ発動機株式会社
デザイン本部 製品デザイン部トリシティ立体デザイン担当。

同業他社でデザイナーとしてさまざまなモデルに携わった後、2011 年にヤマハに入社。最初の作品は東京モーターショー参考出品車のEC-Miu。市販車はこのトリシティが初の作品。

画像: 水谷 玄 氏 ヤマハ発動機株式会社 デザイン本部 製品デザイン部 トリシティ カラーリングデザイン担当 主にスクーター全般のデザインを担当。2000年登場の電動コミューター「パッソル」や欧州向けスクーター「Neos」などに携わり、トリシティなど先進国向けカラーリングを担当している。

水谷 玄 氏
ヤマハ発動機株式会社
デザイン本部 製品デザイン部 トリシティ カラーリングデザイン担当
主にスクーター全般のデザインを担当。2000年登場の電動コミューター「パッソル」や欧州向けスクーター「Neos」などに携わり、トリシティなど先進国向けカラーリングを担当している。

「すべてのシーン」「すべての人」に向けて

ポイントは「フロント2輪の新しさ」と「人と一緒にいる時に輝きが増す」こと

ヤマハが掲げたトリシティのデザインコンセプトは 「SMART FOR ALL 」。

ALLには”シーン”と”お客様”の2つの意味が込められているそう。
「シーン」は走っている時だけでなく、停まっている時もスマートで、すべての景観にマッチすること。「お客様」はバイクが運転できるすべての男女、特に女性に受け入れられることを目標としたそうです。

しかし、すべての人に受け容れられるのはあまりに難しい。どっちつかずで個性のない中途半端なデザインにしかならないのでは??そんな私の疑問に対する答えは、以下のようなものでした。

「多くの人が受け入れやすいようにシンプルにするのではなく、大きく見えるフロントのボリュームを軽く見せながら『3輪の新しさが一目で分かり』、『人と一緒にいる時に輝きが増すデザイン』にすること」

ん?それってすごく大変なのでは・・・・???どうやってやったの???

野口氏と水谷氏は、この相反するテーマに果敢に挑んだのです。

画像: ポイントは「フロント2輪の新しさ」と「人と一緒にいる時に輝きが増す」こと

「フロント2輪の新しさ」と「軽さ」を両立したデザインへの挑戦

「コレを格好よくできるかな・・・」

実際、トリシティの試作車を初めて見たとき野口氏は、「コレを格好よくできるかな・・・」と思ったそうです。

そもそも、トリシティはフロント2輪ゆえに、フロントにボリュームが必要なうえで、デザインする余地がほんの少ししかなかったからです。

フロント2輪の新しさが一目でわかりながら、ボリュームあるフロントまわりをいかに軽く見えるようにデザインするか、二人は以下のような手法を採用しました。

「トリシティは3輪なので、停車時の姿勢には安定感がある。しかし、いったん走り出せば軽快で、コーナリングの時にはフロント2輪が大きく傾斜し、車体が躍動的なフォルムでターンします。そのダイナミックな瞬間を演出するために、カラーリングには気を配りました」と水谷氏。

そこで「車両の下部を塗り分けた2トーンカラーとした上で、車両が軽快に見える『三角形』をうまく表現した」というのです。

野口氏はこう続けます。「新しい乗り物であることが一目でわかるよう工夫しながら、軽やかに見せるために、大きく見えるフロントも含め、美しく塗装されたパーツと黒い樹脂パーツを上手に構成し、フロント2輪を強調しながら、軽やかなデザインを成立させました。」

フロント2輪ゆえのボリュームあるフロントをうまく活用すると同時に、さまざまな工夫で軽さを演出。これぞデザインの腕の冴え、ですね。

画像: 「コレを格好よくできるかな・・・」

「人と一緒にいる時に輝きが増す」デザイン

「乗っている人がどうみられたいか?」を考える

もうひとつ、デザイナーは、 人が乗ってさらに魅力が増す 機能性と人目を惹きつけるような美の融合も目指しました。

「特に女性がキュッっと止まって、降りるときに足をスッと前から流れるように出していく動きの中で、乗っている方のエレガントさを表現できないかなと考えました。それを見る人が、目を引くような美しさの演出になると」と野口氏。

トリシティ単体のみならず、トリシティを軸に、またがる、走る、そして降りるという乗り手の動作すべてを考えて、デザインで表現していたのですね。

画像: トリシティのスタイリングイメージを一筆書き風にまとめたスケッチ。女性が足をそろえ、背筋を伸ばして乗ったときの一体感を表現しています。

トリシティのスタイリングイメージを一筆書き風にまとめたスケッチ。女性が足をそろえ、背筋を伸ばして乗ったときの一体感を表現しています。

「私にとってオートバイをデザインするときのインスピレーションは、街でお客様がまたがっているオートバイの姿を見ること。そのようなお客様が、どう見られたいと考えているか、ということを想像しながらアイデアをつくっています。」と語る水谷氏。

さらに野口氏は「周りから見る人が、あっと驚くような、そんな美しさも表現したいなと考えています」と続けます。

画像: 美しい景観ともこんなにマッチ!こんなカッコイイバイクからサラッと降りる人を見かけたら・・・絶対振り向いちゃう。

美しい景観ともこんなにマッチ!こんなカッコイイバイクからサラッと降りる人を見かけたら・・・絶対振り向いちゃう。


これが、新しいシティ・コミューターのカタチ

トリシティの新しさ、存在感、親しみやすさ、それにはすべて理由がありました。
ヤマハだからこそ実現した、機能性と美しさの融合、そして随所に散りばめられたたくさんのアイデアが、今までにないコミューターを形成していたのです。

そんなスタイリッシュさと実用性を兼ね備えたトリシティ。海沿いや緑あふれるところも似合いそうだから、鎌倉まで2人乗り、なんてどうでしょう?

画像: これが、新しいシティ・コミューターのカタチ
画像: TRICITY Design - Design | ヤマハ発動機株式会社 企業情報  global.yamaha-motor.com

TRICITY Design - Design | ヤマハ発動機株式会社 企業情報

global.yamaha-motor.com

本企画は、全4回にわたって、LMWの過去から未来についての興味深いトピックをお届けします。ご期待ください。

画像: 『第3の移動体、LMWとはなにか』〜 第3回:新しさと受け入れやすさを両立させたデザインの力。
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