2014年、YAMAHA は「第3の移動体」として、LMWテクノロジー (※) を搭載したTRICITY(トリシティ)と呼ぶフロント2輪+リア1輪の画期的なシティーコミューターを発表し、日本、タイ、欧州他、世界の各地で発売開始しました。
その際、YAMAHAは TRICITYをLMWテクノロジーを搭載した製品の第1弾と位置づけ、今後 TRICITYに続くLMW製品を発表していく、という意思表示を行いました。
実はこのLMWテクノロジー、その源流は1970年代の東京・表参道にありました。発想が生まれてから約40年、YAMAHAの歴代エンジニアたちが培ってきた“技術”の一端を紹介します。

※: LMW=Leaning Multi Wheel (リーニング・マルチ・ホイール) テクノロジー。モーターサイクルのようにリーン(傾斜)して旋回する3輪以上の車両に搭載される技術。

胎動・・・リーニングマルチホイールへのアプローチ

原宿のファッション発信基地に密かに集まったYAMAHAのチーム

原宿の表参道付近には、1950年代に米軍関係者向けに建てられたセントラルアパートがありました。1960年代頃から、多くのデザイナーやクリエイターが居を構えたため、日本のファッション“発信基地”とされていました。
ヤマハ発動機のデザイングループも、密かにそこにオフィスを構え、将来のYAMAHAを支える新しいコンセプトやデザインの創造に取り組んでいたのです。

Passolベースで作られていた試作機から特許出願へ

デザイングループのメンバーは、先行開発チームが研究開発を進めていたバイクのようにリーンして旋回できるマルチホイールモデル という新しいパーソナルビークルのデザインを思案していました。先行開発チームは、この後に大ヒットとなるスクーターPassolの車体をもとにフロント2輪や、リア2輪のモデルを研究・試作し、実走行を繰り返していました。
つまり、今のLMWテクノロジーの原型となるフロント2輪ビークルのアイデアは、この時点で形となっていたのでした。

しかしながら、ここで得た技術的ノウハウを、1976年の時点で特許出願し、実用化、また量産体制を視野に入れながらも、YAMAHAはこのアイデアを一旦お蔵入りさせます。

当時は、国内での原付1種スクーターの需要は旺盛で市場は急速に拡大していたため、新しいモビリティ開発の重要性は理解しつつも、目の前の需要への対応を優先せざるを得なかったのです。やがてYAMAHAのデザイングループも表参道を離れることになります。

LMWテクノロジー基礎技術の確立から発展へ

消えることのなかったLMWテクノロジー実現への熱意は4輪モーターサイクルというコンセプトを生んだ

しかし、LMWテクノロジーの原形となるアイデアは、消え去ることはありませんでした。
2007年の東京モーターショーで、YAMAHAは「Tesseract(テッセラクト)」と呼ぶ、4輪モーターサイクルのコンセプトモデルを発表したのです。

Tesseractは、2輪車並みの車幅で、優れた機動性という2輪のメリットを持ちながら、極低速での安定感、横風走行での落ち着き感、スムーズな段差乗り越えもこなす、全く新しいパーソナルビークルの登場を宣誓しました。このモデルは熱い視線を集め、YAMAHAブースのWeb人気投票でもトップクラスの人気を得ました。

画像: 2007年東京モーターショーで参考出品した4輪 LMW「Tesseract」。

2007年東京モーターショーで参考出品した4輪 LMW「Tesseract」。

その後の研究は、4輪モーターサイクル第二弾のOR2Tへと引き継がれていきました。

画像: 4輪LMW研究開発車両 「OR2T」 youtu.be

4輪LMW研究開発車両 「OR2T」

youtu.be

この“スポーツLMW”の研究開発の中、やがて 現在のTRICITYへとつながる”軽くて扱いやすいLMW “を作ろうという意識が生まれてきたのでした。

再び逆風に妨げられるLMWテクノロジー開発

ところが2008年、世界を揺るがす金融危機の影響を受けて、LMWテクノロジーの研究・開発は、再び休止を余儀なくされてしまいます。

しかし、開発スタッフの胸には「コーナーリング時の接地感や安定感を感じる快適なライディング」「路面の段差ショックの吸収による乗り心地の良さ」「制動時のコントロールのしやすさ・操作感」といった、今までに無いLMWの魅力が焼きつき、それは密かに静かに燃え続けていくことになります。

ついに始動。LMWテクノロジー搭載モデル第一弾 TRICITYの誕生へ

2008年の経済危機から数年を経て、新しいパーソナルモビリティの開発機運が訪れました。次世代モビリティを模索するため、社内の各部署から選抜した若手中心のプロジェクトチームを立ち上げ、全世界を対象に調査を行いました。

その中で、欧州の各都市では、慢性的に交通渋滞が続き、社会問題になっていること、車に比べてはるかにコンパクトで従来のバイクやスクーターとは異なる新しいパーソナルモビリティが求められていることなどが明らかになりました。

そこで浮上したのがフロント2輪のコミューターでした。社内には新たな組織が設置され、パリダカマシンやMotoGPマシン開発に携わった技術者がプロジェクトリーダーとなりました。

初代「Passol」ベースのフロント2輪試作車から、「Tesseract」などの4輪試作車まで、エンジニアたちが長年にわたり繰り返してきたテストと検証の蓄積が、「製品」としてついに日の目をみるときがきたのです。

軽快でスポーティなハンドリングと安定感の両立による、「新しい楽しさ」を実現したコミューター「TRICITY」の誕生です。

画像: TRICITY

TRICITY

コミューターからスポーツへ、その先へ。

TRICITYがLMWテクノロジー搭載モデル第1号として市街地ユースでの熱い視線を集めるなか、2015年 第44回東京モーターショーでMWT-9が参考出展されました。

MWT-9は、LMWテクノロジー搭載のスポーツモデル。目指すものは、「Cornering Master」。

画像: MWT-9。 global.yamaha-motor.com

MWT-9。

global.yamaha-motor.com
画像: MWT-9 Leaning Multi-Wheeler / The 44th Tokyo Motor Show YAMAHA 2015 youtu.be

MWT-9 Leaning Multi-Wheeler / The 44th Tokyo Motor Show YAMAHA 2015

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次々と変化する路面、タイトコーナーが続くワインディングロードを、自在に駆け巡る高いスポーツ性を追求しています。フロント2輪による路面への追従性が、フロントタイヤの接地感、ブレーキングからタイトターンでの圧倒的なコーナリング性能を実現し、これまでにない走り易さを体感できます。MWT-9がLMWテクノロジー搭載の新たなカテゴリーを創造するでしょう。

長い年月とともに熟成されたアイデアと技術は、LMWテクノロジーとして成熟し、今後もスポーツ、ツーリング、ファンライドへとその範囲を拡大し、YAMAHAらしさを体現する、新しいプロダクトを生み出していくでしょう。

本企画は、全4回にわたって、LMWの過去から未来についての興味深いトピックをお届けします。毎週 水曜日更新 の予定です。ご期待ください。

画像: 『第3の移動体、LMWとはなにか』〜第1回:それは1977年から始まった、YAMAHAの執念が生んだ新テクノロジー~
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