息子を無残に殺されて復讐に燃える毛皮ハンターをレオナルド・デュカプリオが、その敵役をトム・ハーディーが演じる。ディカプリオが悲願のアカデミー賞を受賞したことでも話題。
僕がここ数年、俳優として最も気になる二人の競演。レオナルド・ディカプリオは英語のセリフはほとんどなく(数少ないセリフのほとんどは先住民の言葉・・)、その表情と生存を賭けた必死の動きだけでオスカー獲得を果たした。彼の復讐の相手となるのがトム・ハーディー。マッドマックスのヒーロー役でも注目を浴びるワイルドで男臭い人気俳優が悪役を演じた。
僕はこの作品、息子を殺された後で、数年間にわたって復讐を果たしていく物語と勘違いしていたが、実際には19世紀初頭の米国北西部の、同じ未開の大自然の中で全てのストーリーが展開しており、時間軸で言えば一冬の中での話であった。父が息子の仇を狙う復讐劇であると同時に、先住民たちや猛獣の襲撃に怯えつつ、過酷な自然の中を生き延びようとするサバイバル映画でもあるのだ。
敵を狙う、というより、重傷を負った主人公がいかにして生き抜くか、であり、全般的には観ている者は(グラスが)助かるわけないと思う不安感にハラハラしながら、画面から目を離せなくなるはずだ。
ストーリーはシンプルである。
毛皮を追い求め活動中のハンターの一団が、先住民の襲撃を受けて決死の逃走を図る。しかし、案内人(ガイド)のヒュー・グラス(デュカプリオ)は熊に襲われて、瀕死の重傷を受けてしまう。
先住民の追跡に怯える一行は、足手まといとなってしまったグラスを置いていくことを決めるが、グラスの息子ホーク(先住民の女性とグラスの間に生まれたハーフ)はグラスと共に残る。同時に、そしてハンター団の隊長の指示でグラスが死んだら埋葬する役目を命じられたハンター団のフィッツジェラルド(トム・ハーディー)とブリジャーもまた、その場に残るのだが、しぶとく生き長らえるグラスに苛立つフィッツジェラルドは、グラスの息子を刺殺したうえでグラスを放置して逃走するのだ。
その後奇跡的に回復したグラスは、不自由な体ながら必死にフィッツジェラルドたちを追うーー。
本作では徹頭徹尾、必死に生命をつなごうとする人間たち(グラスを襲う熊もまた、子熊を守るためにグラスを襲う)の闘いを描く。いつものデュカプリオ作品にしばしば見られる滑稽さやユーモラスなシーンはなく、とにかく激しく痛ましく、呼吸をすることさえキツくなるようなスリリングな場面が続くのだ。
グラスが熊に襲われるシーンも、とにかく丁寧かつ執拗に作り込まれており、圧倒的な剛力による攻撃は凄惨そのものだし、冒頭の先住民による襲撃も憎悪と殺意が塗りこまれた容赦ないものだ。それらは最初から最後まで舞台となる極寒の大自然と同じで、抗いようがない厳しさを感じざるをえない。
150分を超える長編ではあるが、始まった瞬間から引き込まれ、そのまま 連続して押し寄せる恐怖と不安に追い込まれていく没入感を味わうことになるだろう。