ユーロ4規制の影響で、ホンダCBR600RRは英・欧州の市場から退場することになるだろう・・・という英MCNの報道を受けて、600ccスーパースポーツの将来を考えてみたこのコラム。今回が最終回となります。

実は初心者向けではなかった!? 600ccスーパースポーツ

大型自動二輪の保険・税金の料率が、海外のように馬力や排気量と密接にリンクしていないことに加え、伝統的に大排気量フラッグシップモデルを好んで選ぶ傾向の強い日本市場の大型車ユーザーにとっては、1990年代の海外市場向け600ccスーパースポーツの人気ぶりは、常にあまり関心を持たれることのない話題でした。

日本市場にもホンダが日本仕様を用意して投入することはありましたが、前述の理由のとおり人気モデルになることは全くありませんでした。CBR600Fの日本仕様が発売されると、日本のジャーナリストの多くは試乗記に「リッター・スーパースポーツよりも軽量で、パワーも必要十分。面白い」という内容の記述をしたりしていたものです。残念ながら販売成績を見る限り、それらの記事は多くの日本のユーザーの心を動かすには至らなかったと言えるでしょう。

画像: 1992年からホンダは、輸出仕様の100psから国内自主規制で69psまで最高出力を落としたCBR600F2を国内市場で販売。教習所で大型自動二輪免許が取得できなかった時代は、「せっかく大型自動二輪免許を苦労して取ったのだから、排気量が大きくてパワーのあるマシンに乗りたい・・・」という心理を持つユーザーが多かったです(今も変わらない?)。 www.bike-lineage.jpn.org

1992年からホンダは、輸出仕様の100psから国内自主規制で69psまで最高出力を落としたCBR600F2を国内市場で販売。教習所で大型自動二輪免許が取得できなかった時代は、「せっかく大型自動二輪免許を苦労して取ったのだから、排気量が大きくてパワーのあるマシンに乗りたい・・・」という心理を持つユーザーが多かったです(今も変わらない?)。

www.bike-lineage.jpn.org

では海外のジャーナリストは、どのように600ccスーパースポーツを専門誌読者に紹介していたかというと、リッタークラスのスーパースポーツよりも初心者向き、みたいな表現が多かったみたいです。また彼の地のディーラーも同様に、初心者向きというセールストークをしていたようです。

しかし実際のところ、'90年代以降の600ccスーパースポーツが本当に初心者向けだったか? については眉唾なところです。100ps以上を発生する4気筒600ccエンジンは、基本的に巧みなシフトワークで高回転をキープして楽しむキャラクターであり、長所である高いコーナリングスピードを公道で引き出すには、技量と経験量、そして高い安全意識が乗り手には求められました。

むしろ低速トルクが豊かで頻繁なシフトワークをサボることができ、スロットルを大きく開けなくてもそこそこ走れる大排気量車のほうが、600ccスーパースポーツよりも初心者にはその性能を味わいやすいといえるでしょう(もちろん排気量がより大きいからといって、1000ccスーパースポーツが初心者向けではないことは言うまでもありません)。

じつは言うほど初心者向けではない、600ccスーパースポーツを公道で少し扱いやすくする・・・という試みとして、カワサキは2002年に636ccのZX-6Rを、そしてトライアンフは2003年に650cc化した4気筒のデイトナをリリースしました。どちらも排気量でレースレギュレーションには適合しないモデルでしたが、一部のミドルクラスのファンからは高い注目を集めることになります。

2002年型カワサキZX-6R。レースレギュレーションを満たす600cc仕様と併売され、636cc版はトルクの増大でより公道で扱いやすいモデルに仕上がっていることをアピールしました。なお2007年型で636cc版は廃盤になりましたが、2012年型では再び636cc版が復活しています。

www.totalmotorcycle.com

600ccスーパースポーツの穴は、650ccベーシックスポーツが埋める?

なおトライアンフは2006年から、スーパースポーツ選手権などのレギュレーションにも適合する3気筒のデイトナ675をリリースしています。2014年デイトナ200マイル優勝など、レースでも活躍したこのマシンは通好みの1台として人気を得ました。

ただZX-6R(636cc)にしてもデイトナ675にしても、600ccスーパースポーツ同様、ユーロ4の「ふるい」からは逃れられない運命にあります。これら600ccよりちょっと排気量の大きいスーパースポーツは1000ccスーパースポーツほどの注目を集めることもなく、主流になるほどの人気を市場で得ることはありませんでした。

よほど急な方針変更でもなければ、ZX-6R(636cc)は今年限りで廃盤。そしてトライアンフ675は3気筒のフォーマットは保ちつつ、公道での扱いやすさに振った765cc版となって、1年後くらい先にリリースされるであろうと予想されております。

画像: 2014年、ダニー・エスリックのライディングで、トライアンフとしては1967年以来となるデイトナ200マイルの勝利を記録したデイトナ675。安全を考慮し最高速度を抑制するため、デイトナ200マイルは2009年から「フォーミュラ・エクストリーム」に代わる、「デイトナスポーツバイク」というレギュレーションを採用しています。 p.vitalmx.com

2014年、ダニー・エスリックのライディングで、トライアンフとしては1967年以来となるデイトナ200マイルの勝利を記録したデイトナ675。安全を考慮し最高速度を抑制するため、デイトナ200マイルは2009年から「フォーミュラ・エクストリーム」に代わる、「デイトナスポーツバイク」というレギュレーションを採用しています。

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600ccスーパースポーツの海外市場での存在感が薄れていく中、対照的にファン層を着実に増やしていったのが650ccのベーシックスポーツたちでした。4気筒のホンダCB650FやヤマハFZ6R、そして2気筒のカワサキニンジャ650や、昨年EICMAで復活が発表されたスズキSV650などに、最近は海外市場のユーザーの注目が集まっています。

画像: 2016年型のカワサキニンジャ650。マン島のライトウェイトTTの常勝マシンで、そのスポーツ性の高さには侮れないものがあります。またアメリカのダートトラック競技でも、この2気筒ユニットは活躍しています。 www.bright.ne.jp

2016年型のカワサキニンジャ650。マン島のライトウェイトTTの常勝マシンで、そのスポーツ性の高さには侮れないものがあります。またアメリカのダートトラック競技でも、この2気筒ユニットは活躍しています。

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600ccスーパースポーツよりも初心者向けで、公道での使い勝手に優れている。公道では必要十分な、スポーツライディング性能も有している。そして高性能化の副作用で高コスト体質になってしまった近年の600ccスーパースポーツよりも、安価で新車を入手することができる・・・そんな商品としてのバランスの良さが、近年海外市場で650ccベーシックスポーツの注目が高まっている理由でしょう(傾向としては海外のユーザーは全般に、日本のユーザーよりお金の遣い方にシビアといえます)。

ヤマハが2017年にYZF-R6の新型をリリースするというウワサもありますが、600ccスーパースポーツ全体の売れ行きが上がらないままでは今後、各メーカーは650ccベーシックスポーツのユーロ4対応を優先させることが予想されます。

600ccスーパースポーツだけの問題ではない、高コスト化と高価格化のジレンマ

冒頭に記したように、伝統的に600ccスーパースポーツの人気が低かった日本では、このジャンルの消滅の危機という話題は、あまり関心を持たれるニュースではないのかもしれません。一方、軽快さとパフォーマンスの高さが魅力の600ccスーパースポーツに魅了されてきた海外のファンの中には、このMCNの報道に大きなショックを受けた人が少なくないようです。

1980〜1990年代前半の250〜400ccレーサーレプリカもそうでしたが、ロードレースに使用される公道量産車は、ライバルメーカーとの開発競争の末、製品価格が高騰していく傾向にあります。また、レースのレギュレーションが改造範囲を絞る傾向が強くなると、スタンダード状態であらかじめ装備などを充実させて高性能を確保せねばならなくなるため、やはりコストの増加がもろに製品価格に跳ね返って高額商品化してしまったりします(近年のスーパーバイククラスのベース車両は、まさにその傾向にあると言えるでしょう)。

画像: スーパーバイク、スーパーストックのベース車両として活躍するYZF-R1及びYZF-R1Mに続き、ヤマハはYZF-R1Sをリリース。レースベースとしての要素を切り離すことで装備を簡略化し、YZF-R1より1500〜2000ドルも安い価格設定を実現。公道オンリーのユーザーにとっては、じつに魅力的な製品と言えます。このモデルが商業的に成功すれば、レースベースと公道メインの2本立てというラインアップが、今後流行することになるかもしれません。 www.yamahamotorsports.com

スーパーバイク、スーパーストックのベース車両として活躍するYZF-R1及びYZF-R1Mに続き、ヤマハはYZF-R1Sをリリース。レースベースとしての要素を切り離すことで装備を簡略化し、YZF-R1より1500〜2000ドルも安い価格設定を実現。公道オンリーのユーザーにとっては、じつに魅力的な製品と言えます。このモデルが商業的に成功すれば、レースベースと公道メインの2本立てというラインアップが、今後流行することになるかもしれません。

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つまりロードレースのベース車両になる類の、高性能をウリにするモデルは600ccスーパースポーツに限らず、継続的な高コスト化と高価格化のジレンマを抱える宿命にあると言えます。

さらに現代は環境問題と安全性向上という課題に対処するため、電子制御された低公害・低騒音技術や安全装備を与えないと各国の規制をクリアできない時代になっています(これはスーパースポーツに限らず、すべての公道量産車に通じる課題です)。このことはさらなるコスト上昇要因となり、メーカーとユーザーの負担増になっているのは否めないでしょう。

今はそういう時代、と納得するしかないのかもしれませんが・・・。日本市場もこれから、排ガスの「2016年規制」、そして2018年からのABS等装着義務化という、規制強化の「ふるい」にかけられることになります。新型車と継続生産車で導入スケジュールは異なりますが、なんにせよ規制に対応できず(または対応せず)今後消え行くモデルが出てくることを避けることはできません。

ちょっと脱線気味になりましたので、話を600ccスーパースポーツに戻しましょう。今年の秋、来年度モデルが披露されることになる欧州の各モーターサイクルショーで、600ccスーパースポーツのこれからについては、各メーカーから明らかにされていくことになるでしょう。個人的にはユーザーの利益につながる「ジャンルの多様性」をキープするためにも、600ccスーパースポーツはこれからも存続してほしいです(この望みがかなう可能性が、かなり低いことは承知の上で・・・)。

画像: 2016年型ホンダCBR600RRが、最後の英・欧州向けとなるのでしょうか? なお2020年からは、ユーロ4より厳しい規制内容のユーロ5が順次導入されることが、すでに決まっております・・・。 www.honda.co.uk

2016年型ホンダCBR600RRが、最後の英・欧州向けとなるのでしょうか? なお2020年からは、ユーロ4より厳しい規制内容のユーロ5が順次導入されることが、すでに決まっております・・・。

www.honda.co.uk

なお今回のコラム記事作成にあたり、revzillaのマーク・ガーディナーさんの記事(英文)を参照させていただきました。非常に良い内容の記事ですので、英語が得意な方はぜひご一読することをおすすめします。 [完]

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