600ccスーパースポーツ・レースカテゴリーの発展
100ps超の600ccスーパースポーツの人気が海外市場でたかまった1990年代半ば、日本の各メーカーは2〜3年毎にモデルチェンジした600ccスーパースポーツの新型車を市場に投入していました。アメリカで600ccスーパースポーツを使ったロードレースが人気を得ていた当時、ライバルメーカーに勝つためには定期的なアップデートが必須でした(かつて1980年代後半〜1990年代前半の日本市場における、250〜400ccレーサーレプリカと、SPレースの関係がイメージとしては近いでしょう)。
世界の各地域で、一番最初に600ccスーパースポーツによるレースの人気が盛り上がったのはアメリカでした。AMAは1987年から600ccによる国内選手権をスタート。そして1990年代、アメリカでホンダは名手ミゲール・デュハメルらに高額なギャラを払い、AMAでのレースキャンペーンを展開しています。デュハメルは期待に応え、AMAスーパースポーツ選手権で5度のタイトル獲得に成功。この活躍はアメリカ市場に大きな影響を与え、CBR600F3及びF4は大いに売れ行きを伸ばしました。
1999年からは世界スーパーバイク選手権(SSP)が成立。また同年はマン島TTでジュニア600ccがスタートし、今日のTTの人気クラスのひとつであるスーパースポーツTTに発展していきます。環境問題からヤマハTZ、ホンダRSの2ストローク市販レーサーが世界各地のサーキットから強制排除されるにつれ、250ccクラスの代替として600ccスーパースポーツをベースとするカテゴリーが、普及することになりました。また世界ロードレース選手権250ccクラスの代わりに、ホンダCBR600RR用をベースとする4気筒600ccエンジンを使用するMoto2クラスが、2010年からスタートしたのは記憶に新しいところです。
600ccスーパースポーツに代わるカテゴリーは作れるのか?
もしMCNの報道のとおり、ホンダが今後CBR600RRの改良版または後継機種を作らない場合、世界ロードレース選手権のMoto2クラスはどうなるのでしょうか? 現在、MotoGPの主催者側は2019年からのエンジンサプライヤーを探している状況にあり、いずれその役目を担うメーカーが発表されることになると思います。それまでは粛々と、契約どおりホンダがエンジンを供給することになります。
ただ気掛かりなのはMoto2エンジンを供給するメーカーが、どのあたりにその意義を見出すか? という点です。縮小傾向にある600ccスーパースポーツ市場という状況の昨今、Moto2にエンジン供給することの宣伝効果は費用対効果では極小になってしまいます。技術開発の場として、または世界ロードレース選手権という文化に貢献することへの矜持に、新しい契約を結ぶことになるメーカーは、意義を見出すしかないでしょう。
一方、600ccスーパースポーツの市販車をそのままベース車両に使う世界スーパースポーツ選手権や、各国の国内選手権などはどのような影響を受けることになるのでしょうか? もし各メーカーが現在のラインアップを更新しないとなると、各参加者は型落ちとなった600ccスーパースポーツを使い続けなければなりません(MVアグスタやトライアンフの、3気筒675ccという選択肢もありますが・・・)。
もし新たに、600ccスーパースポーツに代わるレースカテゴリーを創設するとなると、600ccスーパースポーツスポーツを上回る・・・または遜色ないラップタイムを刻めるマシンという要件を無視するわけにいきません。過去のカテゴリー・・・600ccスーパースポーツより遅くなった場合、多くのモータースポーツファンはそのことに不満を覚えるであろうことは、火を見るよりも明らかです・・・ハードウェア進化至上主義者(?)は、世界中のモータースポーツファンの主流派ですので。
もっとも、来年すぐに600ccスーパースポーツを使ったロードレースがなくなる・・・というわけではありません。600ccスーパースポーツのレースベース車両を、レース参加者のために販売する・・・というのは近年の国内外のモータースポーツ界の通例なので、そんな現状の枠組みを基本的にしばらくは維持する・・・という選択肢を、世界各国の各レース主催者たちが選ぶ可能性は高いです。
ただし、将来公道量産車の600ccスーパースポーツが存在しなくなると、前述のようにかつてアメリカ市場でホンダがCBR600Fをレースキャンペーンによって大ヒットさせた時のような、直接的なコマーシャル効果は期待できなくなります。そういう状況を日本の4メーカーが看過することができるのかどうか・・・そこが気になります。 [続く]