米ソの冷戦が過熱していた1950~60年代に起きた実話ベースに作られた映画。主人公ジム・ドノヴァン(トム・ハンクス)は、敏腕弁護士だったが、ソ連のスパイの弁護を引き受けたことから、全米から裏切り者扱いを受けるようになる。彼の数奇な運命と、国家の対立という個人ではどうにもならない状況の中で勇気と希望を失わない人々を描く良作。

敵の弁護を依頼された弁護士の正義

なぜ敵国のスパイを弁護するのか。もちろんドノヴァンにとってそれは仕事であり、あたら得られた任務に過ぎない。家族でさえ、彼が敵国のスパイの弁護人になることを反対したし、彼自身初めは拒否したが、誰かが弁護人にならなければ裁判は成立しない。
だからドノヴァンはこれを引き受けただけだし、さらに法律に生きる者として、引き受けた以上は全力で被告のために働こうとする。それだけだ。

ドノヴァンは、彼に圧力をかけてきたCIAのエージェントから手を引けと警告されるが、彼は「君はドイツ系、私はアイルランド系だがお互いに米国人だ。我々が米国人でいられる理由はただ一つ、憲法で守られているからだ」と答える。憲法を守るために、私は働いているのだと、ドノヴァンは圧力に屈しない、と宣言するのである。

しかし、全米の注目を集めたこの裁判を通じて、拘束されたスパイの人権を守ることに執着するドノヴァンは、彼に仕事を命じた法律事務所の仲間からみても”やりすぎた”。四面楚歌の中で被告人アベルの死刑を回避することには成功するもの、全米中のすべての人がドノヴァンに敵意のこもった扱いをするようになってしまうのである。

その後、アメリカの偵察機がソ連領空で撃墜され、拘束されてしまう事件が起きると、当時の国務長官ダレスから、ドノヴァンに対して”民間人”として極秘にアベルと、拘束されたアメリカ人パイロットとの”スパイ交換”交渉を行うミッションを依頼される。

果たしてミッションは成功するのか?ドノヴァン弁護士の安否は??

少人数の真っ当な心持ちと勇気が平和への鍵

人間は簡単に悪意や敵意の虜になり、敵と味方に自分たちを二分したがるものだ。
ドナルド・トランプが共和党候補に選出されてしまった事実を、僕はどうにも理解しがたいのだが、1950年代にドノヴァン、そしてアベルに対して向けられた民衆の敵意と、さほど変わらぬ思いがアメリカ人の心の中に巣食っている、ということなのだろう。それでも米国が2016年11月に、誤った洗濯をしないで欲しい、いやするはずがない、とすがる思いで信じている。

宗教では人は寛容になれない。それは中東の混乱を見ていれば自明だし、政治的な信念もまた同じことだ。その中でドノヴァンが憲法にこそ自分の行動規範を求めたわけだ。
戦争やテロを起こすのも人間の心だし、少人数の過激な狂熱にとりつかれた人たちの行動であるが、同時に戦争を食い止め、平和への我々の想いを呼び覚ましてくれるのもまた、少人数の真っ当な心持ちと勇気によるものなのである。

本作はそうしたシンプルな真実を教えてくれるものである。

蛇足になるが、交渉の場 東ドイツにおいて、ドノヴァン弁護士は列車に乗る機会があり、ベルリンの壁を越えようとする若者たちが射殺されるシーンを目撃する。ラストシーンでは米国で同じく列車中からフェンスを乗り越える青年たちをみかけるのだが、もちろん何も起きることはない。
彼はよく列車を利用するが、新聞に載っている彼に気がつく他の乗客たちの視線が、憎悪のものであったり、賞賛のものであったりする。そのどちらも、同じ米国市民であり、一般の姿勢の人たちなのであることが、恐ろしくも感じるのである。

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