まず、トラビス・パストラナというライダーをご存じでしょうか。1983年生まれのアメリカン・ライダーです。僕が彼を初めて見たのは、1999年のサンフランシスコ。まだ15歳だった彼が、X Games会場の向かいの道路ばたにとめたキャンピングカーの横で、バイクを洗車しているのを見たのが初めてです。
 1999年は、1995年に始まったX Gamesの種目にFMX(フリースタイルモトクロス)が初めて採用された年でした。この年に撮影した写真はフィルムによるもののため探し出すのが大変なのですが、2006年に彼が世界で初めて公式な大会で成功させた「ダブルバックフリップ」の写真は出てきたので、ここで掲載したいと思います。ついでに、FMXのことをもっと知ってもらえると!

偉大なライダーによってメジャー化したFMX

 FMXの起源は1990年頃と言われていますが、滞空時間の長いジャンプで足を出したり手を放したりというのは1970年代に始まったAMAスーパークロスでも見ることができました。ただし、これはあくまでファンサービスの意味合いが強く、スーパークロスはあくまでスピードで競うもの。

 スーパークロスというレース中のファンサービスとして、空中で「ワザ」(トリック)を見せていた部分だけを取り出し、競技に、あるいはショーへとなったのがフリースタイルモトクロスです。日本でも Red Bull X-Fightersが2年連続で開催され、またトラビス・パストラーナによる「ナイトロ・サーカス・ライブ」が開催されたことでだいぶ一般に認知されましたね。僕が飲み屋で趣味を聞かれて「オフロードバイクに乗ってる」と言うと、若い子に「あのクルクル回るやつ?」と言われるほどです(笑)。

 FMXの進化に大きく貢献したのが、1995年から開催されているX Games。1999年のサンフランシスコ大会からFMXを取り入れ、フリースタイル、ベストトリック、ステップアップなどの競技で競われるようになりました。フリースタイルはルーティーンと難易度、クリエイティビティなどを審査員が審査して点数をつけるスタイルスポーツ。ベストトリックは一発のトリックで同様に難易度やスタイルを競うもの。ステップアップは高飛びで、どれだけ高く飛べるかを競うものです。その後、ベストウイップやスピード&スタイルなどの競技も加わりました。

バックフリップを誰が最初にきめるか、な時代

 1999年のトラビスの走りも衝撃的でしたが、X GamesとFMXの名前を飛躍的に高めたのが、2002年、マイク・メッツガーによる「2連続バックフリップ」でした。この頃は公式な大会で誰が最初にバックフリップを完璧にメイクするかが話題になっていた頃です。大会以外の場所ではすでに成功しているライダーがいましたが、大会では2000年にキャリー・ハート(奥さんはミュージシャンのピンク)がほぼメイクするも着地に失敗して負傷。2002年もケニー・バートラムが負傷しています。
 そんなときに、2個のジャンプで連続してバックフリップを見せたメッツガーの走りは世界的な話題を呼びました。彼とブライアン・ディーガン(後に日本人ライダーの東野貴行が入ることになるチーム・メタル・マリーシャのリーダーです)は、FMXを興業として、スポーツとして大きく進化させた立役者となりました。

画像: 2002 XGAMESからマイク・メッツガー。2回連続でバックフリップをメイクすることに成功。フィラデルフィアにて。photo by Katsuhisa Mikami

2002 XGAMESからマイク・メッツガー。2回連続でバックフリップをメイクすることに成功。フィラデルフィアにて。photo by Katsuhisa Mikami

しかし観客は残酷

6 しかし、その翌年には多くの選手がバックフリップをマスター。練習段階でクルクル惜しげもなく回るようになると、観客は残酷なもので単なるバックフリップでは誰も注目しないような状態になってしまったのです。
 そこでバックフリップはさらに進化。バックフリップしながら通常のトリックを組み合わせて行うようになったのです。バックフリップ・ヒールクリッカーとか、バックフリップ・コルドバとか。それらも十分以上に凄いのですが、しかし、まさかこれは誰もできないだろう……と思われていたのが空中で2回連続してバックフリップすること。
 すでにトラビス・パストラナが自宅のスポンジプールでトライしていることは周知の事実でしたが、まさか本当にやるとは!
 2002年、ロサンゼルス・ステープルズ・センター。巨大なスクリーンに、彼が自宅のスポンジプールでダブルバックフリップに挑戦しているシーンが流されます。当然、観客は彼がそれをメイクすることを期待。そしてその瞬間がやってきて……! メイクした瞬間、会場自体が観客たちの叫びで揺れました! これは本当に凄い瞬間でした!

 トラビスをはじめ、偉大なライダーが次々に新しく素晴らしいトリックを創造していくことで、FMXはさらに進化。現在ではさらに難易度が高いトリックもメイクされるようになっています。そして、多くの日本人ライダーも世界的な選手として活躍しています。先ほども書いた東野"TAKA"貴行、故・佐藤エイゴ、鈴木"DAICE"大助、加賀真一……もしまだFMXを生で見たことがないのなら、ぜひ一度見てください。無料で見られる機会も結構ありますよ!

 いざ、書き始めたら長くなっちゃったので今日はこのへんで。彼がサンフランシスコでやらかして問題になったことなどについても、またいずれ書こうと思います。まずは、彼のかっこいいスタイルの写真を楽しんでください。末尾には動画も貼り付けておきます。

All photos by Katsuhisa Mikami

画像: 世界で初めて大会でダブルバックフリップをメイクしたトラビス。2006、X GAMES XIIにて。

世界で初めて大会でダブルバックフリップをメイクしたトラビス。2006、X GAMES XIIにて。

画像: メイクした直後、会場が揺れた!

メイクした直後、会場が揺れた!

画像: ファンと喜びを分かち合うトラビス。2006、X GAMES XII

ファンと喜びを分かち合うトラビス。2006、X GAMES XII

画像: もちろんゴールドメダル。2006, X GAMES XII

もちろんゴールドメダル。2006, X GAMES XII

画像: この年はホームデポセンターで行われたスタジアムラリーにも参戦。スバルを駆って、横転しながら勝つというスターぶりを発揮。相手はコリン・マクレーでした

この年はホームデポセンターで行われたスタジアムラリーにも参戦。スバルを駆って、横転しながら勝つというスターぶりを発揮。相手はコリン・マクレーでした

画像: ホームデポセンターでの決勝から。2006 X GAMES XII

ホームデポセンターでの決勝から。2006 X GAMES XII

画像: ホームデポセンターでの決勝から。2006 X GAMES XII。バックフリップ・レイジーボーイ

ホームデポセンターでの決勝から。2006 X GAMES XII。バックフリップ・レイジーボーイ

画像: 日本で言ったら、SMAPなみの知名度と人気があります。これほんと。

日本で言ったら、SMAPなみの知名度と人気があります。これほんと。

画像: 彼のFMX用バイク。細部にもこだわりがたくさん。2006 X GAMES XII

彼のFMX用バイク。細部にもこだわりがたくさん。2006 X GAMES XII

画像: この年からだったかな? 始まったスーパーモトにも参戦。FMX、ラリー、スーパーモトと八面六臂。

この年からだったかな? 始まったスーパーモトにも参戦。FMX、ラリー、スーパーモトと八面六臂。

画像: いつまでもチャレンジを続けるトラビス・パストラナ。素晴らしいエンターテイナーです。ナイトロ・サーカス、また日本でやってほしい!

いつまでもチャレンジを続けるトラビス・パストラナ。素晴らしいエンターテイナーです。ナイトロ・サーカス、また日本でやってほしい!

Travis Pastrana - 1999 X Games 5 - Moto X FreeStyle - San Francisco, CA

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