ドイツの侵攻の前に劣勢を強いられた英国政府は、エニグマの解読こそが勝利の鍵と考え、チェスの英国チャンピオンや言語学者など6人の天才たちを集結し、暗号解読の任務を与えた。数学の天才アラン・チューリングもその一人だった。
問題そのものよりも、問題を生み出す元凶を無力化することに向かうチューリングと、彼らに訪れる哀しい運命
チューリングは、誰も気がつかなったアインシュタインの論文の矛盾を指摘するほどの数学の天才であり、暗号そのものの解読パターンを探し出すことよりも、解読不能の暗号を作りだす機械「エニグマ」に注目し、解読パターンを作りだす機械「クリストファー」を作ることに解を見出した。
事象ではなく、その事象を生み出す源そのものに注目をしたのである。
彼は暗号解読チームのメンバーたちの反感を買いながらも、自分の考えに執心し、やがてクロスワードパズル解読の天才ジョーンという女性の支持を得ることで、徐々に仲間を増やす。そして、ついには「クリストファー」を完成することに成功するのだ。
このマシンはチューリングマシンと呼ばれるようになる。いまでいう、コンピューターそのものである。
これによって英国ら連合軍はドイツ軍に対して優位に立つが、エニグマ攻略成功の事実は終戦まで絶対の秘密とされ、解読チームも軍の管理下に置かれることになる。チューリングは、戦争を勝利に導いたはずの彼は、思いがけない不幸で不憫な環境での生活を強いられるようになるのである・・。
同性愛者であることで正当な評価を受けられなかった天才の哀しい人生
エニグマ攻略に挑む中、チューリングはジョーンに結婚を申し込むのだが、二人は結局結ばれることはなかった。なぜなら、これは有名な話だが、チューリングはゲイだったからだ。
当時の英国では同性愛は違法であり、投獄されるか化学療法による去勢を受け入れるしかなかった。
チューリングはエニグマに関わったおかげで、逆にスパイ容疑をかけられたり、同性愛の科で逮捕されるという憂き目に遭う。
そして、1954年にチューリングは、42年という短い生涯を閉じる。それは自殺とも事故とも言われているが、真相はわからない。
最近になって英国政府も、チューリングの業績の再評価と、彼を非業の死へと追いやった当時の政府の在り方は遺憾であったと公式に認めている。
ストーリーではなく、映画全体にのめり込んで楽しんでほしい
本作は、実に上質なエンターテインメントだ。
時代を超越した天才であり、卓越した業績をあげながらも、正当な評価と見返りを受けることができなかった悲運な男の物語であると同時に、緻密なプロットに支えられた素晴らしいミステリーである。
アラン・チューリングの生涯は歴史的事実として多くの人間にとって周知であるし、エニグマを攻略したからこそ連合軍は勝利したことも、誰もが知っていることだ。
つまり、ストーリーとしてみれば、本作の結末は誰でも知っていると言っていい。それはドキュメンタリーであったり、史実を元にした映画であればどうしようもない宿命でもある。
しかし、結末を知っていても、それでも見るべき作品こそが、本当の映画であり、傑作であると思う。この「イミテーション・ゲーム」は、それだけの価値が有る。
自らの哀しいサガと、国家の思惑に人生を左右させられてしまった悲しき天才の人生を、美しい映像と見事な演出で描き切った傑作である。
ちなみに、本作のタイトルの「イミテーション・ゲーム」とは、アラン・チューリングの論文のタイトルの一つだそうだ。マシン(この場合コンピュータと言っていい)も思考する。もちろん人間とは異なる感じ方・考え方で。
その違いをいくつかの質問であぶりだす。つまり相手が人間かマシンかを判断し、識別するための質問であり、この問答がイミテーション・ゲームだ。
このイミテーション・ゲームは、マシンと人間の違いを題材にした傑作SF映画『ブレードランナー』にも使われていることでも有名である。