バイクに乗る楽しさや喜びって何だろう。身体全身に風を感じて走る爽快感。ハイパワーなエンジンと軽快な車体を自在に操る満足感。どこまでも自由に走ってゆける開放感。それはライダーによって様々なのだろう。現代のバイクはそうした様々なライダーの求めるものを、個々に実現するために細分化されてきたといっていい。
ハーレーダビッドソンもそうしたバイクメーカーのひとつだ。しかしこのメーカーは「個々のニーズにお応えして」みたいな世間のマーケティングから、超絶しているかのように感じるのは私だけだろうか。いやいや、そんなことはないですよ。今年はミドルサイズのSTREET 750をリリースしたし、近年は新型水冷エンジンを搭載したV-RODもある。
とはいえ、ハーレーダビッドソンは世の中の変化に動じないスタイルを貫き通しているというのは、だれもが認めるところだろう。そんなハーレーのフラッグシップのひとつである最新のソフテイルブレイクアウトを、これまた日本の揺るぎない象徴のひとつである富士山の麓まで走らせてみた。
ハーレーダビッドソンのラインナップは、軽快なスポーツスターから、ビッグツインのダイナとソフテイル、いわゆるFL系バガースタイルのツーリングというオーセンティックなシリーズに、V-RODとSTREET 750の新しいラインを加えたものだ。ソフテイルは1984年にそれまでのショベルヘッドエンジンから、エボリューションエンジンにフルモデルチェンジされた時にデビューして以来、アメリカンバイクらしいスタイルの頂点に君臨し続けてきた。そしてこのブレイクアウトは、その中でもチョッパーという典型的なアメリカンの造形を極めた1台といえるだろう。
ソフテイルブレイクアウトはとびきり大きなマシンだった。サイズでいうと全長で2,405 mm。私の愛車の82年型Kawasaki Z1000Jもコンパクトなサイズではないが、2,265 mmなのでそれと比較してもだいぶ大きい。私の身長は172cmなので標準的な日本人のサイズだと思うが、ブレイクアウトの低いフラットハンドルと、フォワードコントロールのステップはかなり前方に位置していて、思いっきり手と足を伸ばすようなポジションとなる。
いわゆるドラッグバーとよばれるフラットなハンドルバーは、車体全体が大きいからか見た目よりもはるかに幅が広くポジションも低い。これにフォワードコントロールのステップに足を伸ばして走る感覚はかなり独特のものだ。おそらく最も標準的なライディングポジションであろう、私のZ1000Jと較べるとあまりにも違いすぎる。先日試乗した、フォーティエイトも似たようなポジションだったが、車体の大きさとドラッグバーの幅広さが全く違う印象を与えている。
そして極め付きはこの「ツインカム103B」という1,689 ccのVツインエンジンだ。歴代のハーレーで最もハイパワーであろうこのエンジンが、ソフテイルの魅力を不動のものとしているのは間違いないだろう。なんていいながら、実を言うとハーレーのビッグツインに乗るのはこれがほぼ初めての体験だ。ほぼというのは、1984年頃の最初期のエボリューションには乗ったことがあるのだが、インジェクションで吸気を制御されるツインカム103Bは全く別物といえるほどだったからだ。
エンジンのパワーやトルクはビッグバイクの大きな魅力のひとつだ。最新のスーパースポーツなら200馬力という強大なものだが、もはやその数値は多くのライダーにとって、ほとんど意味のないものとなっているのが現実だろう。ハーレーダビッドソンというバイクはそうした数値とは全く違う次元のパワーを感じさせてくれる。特にこの大排気量のツインカム103Bエンジンは、馬力というよりも推進力というべきか、パワーやトルクといった数値とは無縁の力強さでマシンを押し出してゆく。
高速道路で流れに乗って走っていると、だいたい2000rpm前後のゆったりとした回転数でドコドコと走ってゆく。ミッションは6速だ。アメリカンバイクらしくワイドレシオのミッションだが、4・5・6速は少しクロス気味のようだ。一般道の速度では3・4速まで。高速道路でようやく5・6速に入るが、常用速度域なら5速でも6速でも巡航することができた。エンジンの力強さを感じて走りたいなら5速。ビッグツインの大らかな鼓動を感じて走りたいなら6速と使い分けて走ることができる。
今回走ったのは富士山周辺でも河口湖方面で、タイトなコーナーが続くような道はほとんどないのだが、ソフテイルブレイクアウトはコーナーリングはだいぶ苦手のようだ。ちょっとタイトなコーナーに入ってゆくと、ステップに取り付けられた長いセンサーが簡単に接地する。少しでもオーバースピードだと曲がりきれないということにもなりかねない。なのでツーリングルート選びには気を使うかもしれないなぁ。
ほぼ初めて乗ってみたビッグツイン。それもショベルヘッド時代のワイドグライドを思い出させる(古すぎか)ロー&ロングなスタイリングのソフテイルブレイクアウト。これぞハーレーダビッドソンと思わされる大きな車体にまたがり、強大なパワーでゆったりと走る感覚は、ハーレーのビッグツインならではのものだろう。これは他に変えられない魅力となっていて、虜になる人が多いのもうなずける。やはりハーレーダビッドソンは別格なのだろう。