シトロエンから独立した新生ブランドの“DS”。そのラインナップがついに出揃った。ここではもっとも量販が期待されるDS 3を中心に試乗レポートをお届けする。(Motor Magazine 2016年8月号)
このところ業績好調が伝えられるPSA(プジョー・シトロエングループ)だが、その契機となったのは2014年3月のカルロス・タバレスCEOの就任かも知れない。日産の副社長からルノーのCOOになり、その後、同国のライバルであるPSAのCEOへと転身し、当時は大きな話題となったが、いまやタバレスCEOの描いたビジョンどおり、すべてがうまく回っているようだ。
そして、このDSブランドをシトロエンから独立させるというプロジェクトも順調に進んでいる。DSはこれまでシトロエンのひとつのラインとして存在していたが、15年に同ブランドが60周年を迎えたのを機に独立した。日本においては去年の東京モーターショーで独立したDSブースを設けるなどで、ユーザーへのアピールを進めている。
今回の試乗会は新生DSブランドのラインナップが、ついに出揃ったということで開催されたものだ。そして、ここで初お披露目になったのがDS 3とDS 3 カブリオである。これで4月に発売されたDS 4、DS 4 クロスバック、DS 5と合わせて、DSブランドは5モデルのラインナップということになる。
よく回る1.2リッターエンジンとスムーズなATで活発な走り
まずDS 3の印象からお伝えしよう。シトロエンDS 3からDSウイングを持つフロントグリルに一新されたスタイリングは、このブランドらしいアヴァンギャルドな雰囲気を強めた。ダブルシェブロンのシトロエングリルより、こちらの方がサイドの特徴的なシャークフィンデザインとよくマッチしていると感じた。5ドアでなく3ドアであることで、このデザインは初めて可能になったものとも言えるが、この個性的なスタイリングはDS 3の最大のアピールポイントだろう。さらにルーフ形状やボディカラー、トランスミッションなどの組み合わせは55パターンもあり、そこから選べるというのも嬉しいところだ。
インパネデザインも期待を裏切らない。3連メーターなどでスポーティムードを高める一方で、全体的にはオーガニックでやさしい雰囲気を持ち、クオリティもコンパクトカーとしては高い。また左右のウインドウが比較的低い位置にあり、ドライバーズシートからの視界は良好だ。また、シート前後スライドの調整幅は大きく、ハンドルのチルト&テレスコピック機能もあるので、コンパクトカーとは言え、かなり大柄な人でもベストポジションをとれる。
また、リアシートだが外観から想像するよりも広かった。決してプラス2というレベルではなく、大人ふたりがふつうに座れる。ただし、デザイン優先のためだろう、リアウインドウは開閉できないので、そこは覚悟しなければならない。しかし、実際にはひとりかふたりしか乗らないというユーザーは多いはず。5ドアハッチバックにこだわり過ぎると、いいクルマ選びを疎外することにもな りかねないと思う。
さて、走り出すとこのクルマはいっそう輝き出す。まず、搭載する1.2リッター直3ターボエンジンがいい。これは1〜1.4リッター部門の「インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー」を2年連続で受賞したがそれも納得。実に小気味よく回りスムーズ、そしてパワフルなのだ。
また、組み合わされるトランスミッションもいい。従来、PSAの同クラスのモデルはAMTだったが、現在はトルコン式6速ATを採用している。これがスムーズなエンジンと相まって非常に運転がしやすく、リニアリティが高い。最近のコンパクトカーはDCTが多いが、急な坂道発進などではどうしてもギクシャクしがちだ。その点、トルコン式ATなら安心だ。このパワートレーンはPSAのコンパクトカーに大きな競争力を与えたと思う。
DS 3はいろいろな面でクオリティの高いプレミアムコンパクトであることがわかった。積極的に小さいクルマを選びたい人、小さいことに価値を認めている人にはとくにお勧めと言えるだろう。
ところで、DS 4 クロスバックとDS 5にも試乗した。どちらも最高出力165psの1.6リッター直4ターボエンジンを搭載し、6速ATが組み合わされる。DS 5はフラッグシップモデルであり、内外装ともに
豪華な味付け。ドイツ車とはまったく質の異なるプレミアム感は、さすがDSと言ったところだ。
DS 4に加わったクロスバックはベース車の車高を30mm上げてSUV風に仕立てたモデルである。DS 3とともに量販を狙うモデルの選択肢が増えたことは歓迎すべきことだ。
さて、現在、DSは全国に50拠点あるシトロエンのディーラーで販売されているが、今後はDSの専門ショールームもできるそうなので非常に楽しみだ。DSブランドは現在の輸入車マーケットにおいて、独自のポジションを確立していくのではないかと思う。これからを大いに期待したい。(文:荒川雅之/写真:原田淳)