SHOEI WYVERN。すでに廃盤となったショウエイのヘルメットだが、いまでもこのヘルメットのデザインに惚れ込んで愛用しているライダーは多い。
ワイバーンというネーミングを調べてみると、中世のイギリスで紋章に好んで使われたドラゴンのことらしい。コウモリの翼で大空を飛び、ワシの二本足で立ち、刺のある蛇の尾を持つ 、空想の怪物だ。イギリス人がなぜこの怪獣に思い入れがあるのかはわからないが、バイク乗りのある種の気分を具現化しているように感じるのは私だけだろうか。
バイクブームであった1980年代。“ある種の”バイク乗りは、アウトローな気分とともにバイクを走らせていた。そんな彼らに受け入れられたのが、あの威嚇するようなデザインのSIMPSON M30だった。ところが、当時のM30はいまでいうところの安全性も不安があるうえ、最高時速が200km/hを超え始めたマシンの高速性能に応えられるものではなかった。
私もこの頃、M30を被っていたクチだが、空力性能なんて無視したフェイスデザインで、ヘルメットに受ける風圧と闘いながら走っていたような記憶がある。いってみればやせ我慢をしながら被っていたようなところがあったね。
そんな時代を経て、1990年代に登場したのが「SHOEI WYVERN」だった。安全性を追求するヘルメットに、SIMPSON的な“ある種”のライダーに応えるような斬新なデザインを採用したのだ。よく言われたように、高速走行での風切り音など、ヘルメットの性能としては、時代に逆行するようなものだったかもしれない。しかし、このデザインは“ある種”のライダーにとっては、他に変えがたいものとなったのだ。
このワイバーンには双子の兄弟のようなモデルがあったのはご存知だろうか。4輪レース用に開発された「X-FOUR Light II」だ。こちらもいまは絶版となったヘルメットだが、当時はワイバーンとともに4輪用・2輪用として語られた名作ヘルメットで、X-FOURは当時のF1でも活躍したヘルメットだ。あのアイルトン・セナやジャン・アレジが使用していたことでも知られている。
4輪レース用ヘルメットは上方視界が狭いので、前傾姿勢で乗るバイクには不向きだが、狭い開口部と幅のあるチンガードがシャープな印象を与えてカッコいい。シールドの厚さは3mmもあり、内装が耐熱素材であるブルーのノーメックスなのもグッとくるね。
ワイバーンはあの漫画「キリン」の登場人物が、被っていたことでも“ある種”のライダーたちに支持されたのかもしれない。初期のキリンでは登場人物たちがARAIを被っていたのが、ワイバーンの発売とともにSHOEIに変わっているというのは、意外と知られていないかもしれない。
これはワイバーンが発売された時の雑誌広告に、東本昌平氏のイラストが広告として初めて採用されたことによると思われるが定かではない。この雑誌広告自体も、ワイバーンのデザインと同様に、表現内容が過激すぎたのかわずかの掲載にとどまり、幻の広告となったようだ。