先日、ヤマハTZ750ダートトラッカーのお話を紹介しましたが、1975年当時のAMAグランドナショナルチャンピオンシップに2ストローク・マルチシリンダー車で挑んだのはヤマハだけではありませんでした。戦前からダートトラックの世界で覇権を争ってきた、ハーレーダビッドソン・ファクトリーチームの強力な武器、空冷VツインOHV750ccのXR750に対抗するために、日本製の2ストロークビッグバイクを使う・・・というアイデアは、アーブ・カネモトも温めていたのです。

チャンピオン製フレームに、空冷2ストローク3気筒を搭載。

日系アメリカ人のカネモトは、AMAを舞台にチューナーとして活躍したのち、世界ロードレース選手権でフレディ・スペンサー、エディ・ローソン、ワイン・ガードナー、ルカ・カダローラ、ジョン・コシンスキー、ケニー・ロバーツ(Jr.)、マックス・ビアッジなどなどのチャンピオンたちを支えた人物として著名です。

1975年、カワサキチームにいたカネモトは、マッハⅣことカワサキ750SS(H2)ベースの空冷2ストローク750cc3気筒エンジンを、ダートトラックフレーム造りを得意とするチャンピオン製フレームに搭載したマシンを作りました。ライダーに起用したのは、ヤマハ・ファクトリーチームから放出されたドン・カストロと、1972年AMAグランドナショナル王者のマークの弟であるスコット・ブレルスフォードでした。

画像: ゼッケン11はカストロ用のH2トラッカー。フロントフォークは当時の定番パーツといえたチェリアーニ製。フロントはアクロン製アルミ合金リムですが、リアホイールはキャストを採用している点に注目です。スズキのラムエアーシステムのような、冷却用空気導入板がシリンダーヘッドに付いています。 motorcyclephotooftheday.files.wordpress.com

ゼッケン11はカストロ用のH2トラッカー。フロントフォークは当時の定番パーツといえたチェリアーニ製。フロントはアクロン製アルミ合金リムですが、リアホイールはキャストを採用している点に注目です。スズキのラムエアーシステムのような、冷却用空気導入板がシリンダーヘッドに付いています。

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画像: エキスパート・マイルレースで初めて2ストローク車による勝利を記録したスコット・ブレルスフォードとH2トラッカーの走り。 www.motorradonline.de

エキスパート・マイルレースで初めて2ストローク車による勝利を記録したスコット・ブレルスフォードとH2トラッカーの走り。

www.motorradonline.de
画像: ドン・カストロとH2トラッカー。この車両は後輪にもスポークタイプのアルミリムを装着しています。 i250.photobucket.com

ドン・カストロとH2トラッカー。この車両は後輪にもスポークタイプのアルミリムを装着しています。

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2ストローク車による、初のエキスパート・マイルレース制覇を達成!

カネモトらカワサキチームは、1975年7月6日のストックトンでのマイルレースに参加。カストロはエキスパートのメインレース進出に失敗しましたが、ブレルスフォードは見事メインレースで勝利しました。この1勝はあのケニー・ロバーツとヤマハTZ750ダートトラッカーのインディマイル勝利(8月23日)よりも早く、AMAの歴史初の2ストローク車でのエキスパート・マイルレース優勝という記録になりました。

画像: ハーレーダビッドソンXR750に乗るレックス・ビューチャンプと競う、H2トラッカーのスコット・ブレルスフォード。 i250.photobucket.com

ハーレーダビッドソンXR750に乗るレックス・ビューチャンプと競う、H2トラッカーのスコット・ブレルスフォード。

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カネモトチューンのH2トラッカーは、ストックトン以外もサンノゼ、テレホート、インディアナポリス、シラキュースのマイルレースに参加しましたが、優勝はストックトンのみにとどまりました。1マイルのダートトラックでの最高速は140mph(約225.3km/h)と、XR750などの4ストローク2気筒より24km/hほど速いというアドバンテージがありましたが、4ストローク2気筒よりも低速域のトルクが少なく、パワーバンドも狭いためにコーナーでの扱いが難しかったのが難点だったようです。TZ750同様、カワサキH2トラッカーの活躍した期間は短かったですが、その残したインパクトは決して小さくはありませんでした。

オマケ? スズキもあるでよ。

画像: 世界GPロードレースの"アメリカン・インベーション"の先兵となったパット・ヘネンと、スズキGT750ダートトラッカー。 i250.photobucket.com

世界GPロードレースの"アメリカン・インベーション"の先兵となったパット・ヘネンと、スズキGT750ダートトラッカー。

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ヤマハ、カワサキ・・・ときたら、やはり国産2ストロークメーカーの雄としてスズキも外せませんね。サクっと調べたところ、1970年代に世界ロードレースGPで活躍したパット・ヘネンも、スズキの2ストローク水冷750cc3気筒、GT750ベースのダートトラッカーに乗っていたみたいです。彼のスポンサーであるロン・グラントがパットのために製作したマシン・・・くらいしか現時点ではわからないのですが、おそらくヤマハやカワサキほどは活躍していないと思います。詳しいことがわかったら、改めて紹介させていただきます。

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