エンターテイメントの中で、最も女好きで、そして同時に女をリスペクトしているヒーローといえば、やはりこの人、ルパン三世ではないだろうか。
フランスの推理小説「アルセーヌ・ルパン」シリーズから着想され、そのルパンの孫、という設定で生まれたルパンは、いまでは日本中で知らぬ者はいないほどの人気者だ。週刊誌に初めて登場したのが1967年、テレビシリーズでさえ1971年のスタートだから、すでに40年以上前になるのに、その人気に翳りはない。
熱くてクールなスタンス
僕たちがルパンを愛してやまない理由はなんだろうか。
まずは恐ろしく義理堅いということが挙げられるだろう。盟友の次元大介や石川五右衛門らの間にある強い友情は、一見クールを装いながらも固く結ばれているし、自分を追うインターポールの銭形警部に対しても憎悪の念を向けることがない。むしろ敵と味方の間にしかありえない、互いに相手を必要とするかのような尊敬心が存在している。
その関係性は、力強いが、反面非常にさらりとしている。
ルパンと次元は互いのピンチには、命を惜しまず手を貸すが、常に”本当は嫌々やってんだぜ”とでも言いたげなムードで、自らの熱い友情を隠す。そういう熱をあらわにすることを照れ臭く思うし、かっこ悪いと思っているからだ。
最近の漫画、例えば『ワンピース』なども仲間同士の強い友情をテーマにしているが、ルフィ一家のそれがあからさまでむき出しな表現であることに対して、ルパンたちのそれは、あくまで都会的でクールだ。十分に成熟した大人たちなのである。
肉食系男子の日本代表
さらに、成熟した大人であるがゆえに、ルパンは自分が女好きであることを隠さない。
草食系男子(あまり女性に興味がない男子)という言葉は、やがて絶食系男子(女性に全く興味がない男子)という言葉に進化し、恋愛にもSEXにも興味を持てないという、若者が増えているようだが、ルパンはどんな場合でもいい女には目がない。
下心が見え隠れするのではなく、そこはあからさまなのだ。だから隠微のかけらもなく、女性の側も、自分に強い関心を寄せるオスに対して不快に思うことがない。
なぜなら、ルパンは無類の女好きでありながら、誰よりも女性に対して紳士であるとからだ。そこが男女問わず皆に好かれる理由であろうと思う。ストレートに君はいい女だと言い寄れる男は、自信家だ。たとえ恋愛の対象にならなかったとしても、余裕と自信を持つオトコに口説かれて嫌な気分になるオンナはいないはずだ。少なくとも、NOと突っぱねたとしても、肩をすくめて引き下がってくれるからだ。決して逆上したりして、見苦しい姿を見せたりしない。
女をリスペクトする男
数多く登場する美女たちの中でも、ルパンが最も恋い焦がれる相手である峰不二子は、女殺し屋で、時としてルパンの敵にさえ回る。味方のふりをして土壇場でルパンたちを裏切り、窮地に追い込んだことは二度や三度ではない。
しかし、ルパンにとって「裏切りは女のアクセサリー」だ。
だからルパンは不二子の背信を責めることはしない。そのリスクを承知で追いかけた相手に、やっぱり裏切られたとしても自業自得だし、容易に自分の手に入らないいい女だからこそ、彼はその心を盗みたくなるからだ。
「オレはな、3つの条件のそろった女を見ると、どうしても欲しくなる。ひとつは美人であること。次にプロポーションがいいこと。そして、もうひとつはオレのテキであること」こんなセリフを粋に口にできるのは、ルパン以外にはなかなか見当たらない。そこには欲望と同じくらいの強さで、女性に対する尊敬の念がある。
だから不二子もまた、ルパンを振り回しながらも「アタシを盗みに来てくれたの、ルパンさん!?」と、これまた強い男の心をくすぐるような言葉を与えるのだ。
アニメ「ルパン三世」は、泥棒が主人公であるということに加えて、エロティックなシーンも多いので、イスラム教徒や仏教徒が多いアジア圏内ではあまり放映されていない。漫画やアニメーションといえば、子供向けのチャンネルでしか放映しない欧米でも、対象年齢が比較的高い「ルパン三世」は需要が少ないのだろう。
しかし、イタリアでは「ルパン三世」はかなり前から放映されていて、しかも非常に人気が高いらしい。多くのイタリア人は、ルパンがイタリア国産のアニメであると思っている人も多いそうだ。
女性に対する態度や、洒脱な趣味を持つルパン一家の魅力は、同じように女性大好きで人生の達人が多いイタリアには受けた、ということだろうか。