2022シーズン開幕から2戦を終えたAFT: アメリカンフラットトラック。ふたつの2気筒クラス + 450cc単気筒クラスという3カテゴリーでの構成は今年まで、来期2気筒戦は公道用市販エンジン車とレース専用マシンが同一クラスで競う、よりシンプルなフォーマットに回帰しますが、独創性の求められる前者・出力規制のより厳しくなる後者それぞれにはどのような未来が待ち受けるのでしょうか?

歴史的快挙?市販エンジン車が専用マシンを破った "波乱の2016シーズン"

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。1970年の登場から半世紀あまり、本場アメリカのダートトラックレースシーンを第一線で牽引した唯一無二の名エンジン・ハーレーダビッドソンXR750に対してこれまで明確に土をつけたのは、1980年代のいわゆる "ゴールデン・エラ" (黄金期)にその好敵手であったホンダ・RS750D、2016シーズンに"プライベーター" ブライアン・スミスが駆ったカワサキ・ニンジャ (ER650) 、その年最終戦でデビューし翌シーズン以降完全に話題の中心となって、結果的にはXRを退役→世代交代へと追い込んだインディアン・FTR750の3機種のみです。

画像: 歴史的快挙?市販エンジン車が専用マシンを破った "波乱の2016シーズン"

ホンダRS750D・インディアンFTR750はいずれも、打倒XR750という明確なコンセプトに基づいてゼロから設計された生粋のレーシングマシン (エンジン) であるものの、2016シーズンの全米王者となったカワサキの "ブライアン・スペシャル" は、(やや奇天烈な外観にばかり目を奪われがちですが) 公道用市販車ニンジャ650・日本名ER-6のエンジンを、排気量拡大その他さまざまな手法で徹底的に磨き上げ、往年のファクトリーRS750D譲りのいくつかの特徴を備えたスペシャルメイドのフレームに搭載し、長年XR750の独壇場だったGNCシーンに新風を吹き込んだ、真にエポックメイキングな1台だと言えます。

ちなみにブライアンとカワサキのカップリングは、かつてスコット・パーカーとコンビを組んだ名チューナー、ビル・ワーナーが2,000ドルで拾ってきた事故車をドナー (ベース車両) として、地下室で独自に作り始めたマシンがその第一歩、と言われていますが、実際はその数年前からスキップ・イークン (ホンダファクトリーでババ・ショバートを担当したチューナー) が注目してチューニングに取り組み始め、オーストラリア人GNCライダー、ルーク・ゴウを乗せ、のちにブライアンと恊働することになる車体エンジニアのリック・ハワートンの支援のもとでのチャレンジを始めていました。

いずれにせよ、この2016年という節目に公道用エンジンベースのニンジャ650がXR750の牙城を崩したのは、少なくとも7年の歳月と、才能あるライダー・チューナー・エンジニアという "ライトスタッフ" の結集があってこそ、ということだったのです(その証左に彼らのプロジェクトを除けば、ここまで天下取りに近づいたカワサキ・ブランドのマシンは今日に至るまでまだ他にありません)。

プレイバック2016最終戦!XR750 vs ニンジャ650 vs インディアンFTR750

本場プロダートトラックシーンがインディアン一色に染められる直前、ブライアン・スミスがカワサキ650を年間王者の座へと導いた2016年の最終戦サンタ・ローザ・マイル決勝では、彼のニンジャと現AFTチャンピオン、ジャレッド・ミースの駆るXR750とが、ラスト数周フィニッシュラインまで手に汗握る2位争いの激闘を繰り広げました。決勝レース自体は当時ハーレーファクトリーチームだったブラッド・ベイカー (XR750) が大差をつけて優勝しています。

翌シーズンからのファクトリーチーム始動を前に、ベテランのジョー・コップのライドによってたった1度のテスト参戦を果たしたFTR750の初陣でもあった、ある種のターニングポイントとも言えるこの1戦からは、様々なデータを基に各車の特徴と可能性を探ることができます。

画像: Smith vs. Mees: 2016 Season Finale Last 3 Laps youtu.be

Smith vs. Mees: 2016 Season Finale Last 3 Laps

youtu.be

砂塵の多く舞うダスティなトラックで、インサイドのタイトに踏み固められたグルーヴラインと、荒れた大外ラインとが交錯する複雑なコンディションは、攻略難易度が非常に高い反面、様々なライディングスタイルとライン取りを可能にします。

25周で争われた決勝レース中のファステストラップは、ベイカー (XR) の38.664秒で、23周をリード。シリーズポイントを賭けて動画のとおりのドッグファイトを繰り返した結果、10秒強のビハインドとなった2位スミス (カワサキ・39.021秒) 、3位ミース (XR・40.344秒) 、初登場7位の結果となったコップ (FTR・39.819秒) とのマシン差はそこまで希望のないものとは感じられません。

一方マイル戦に長け、"Mr. コンシステンシー = アベレージの高い安定感のある走りが特徴" とも評されたスミスですが、この日のサンタ・ローザ・マイルの荒々しいトラックコンディションではその利を活かし切ることが難しく、ラップチャートからは終日苦心して他車とやりあう様子が伺われます。

初登場から名車XRに迫るピーク性能を見せたFTR750はその後、各チューナーによってよりフラットな特性を得ますが、ベースの設計ギリギリまでチューニングを進め、その後を追うかたちとなったニンジャ650は、スミス以外にはトップ3を常に争う安定した成果を引き出せるライダーとは今日に至るまで巡り会えていないようです。

FTR ↓ ・公道用市販エンジン ↑ ルール変更で圧倒的な力の差は埋まるのか?

スーパーツインズ (レース専用マシン) とプロダクションツインズ (市販エンジンベース車) 両クラスの来シーズンからの再統合を目前に控え、昨年来インディアンFTR750はルール改訂によって大幅なパフォーマンスダウンを強いられています。

開幕から2戦のリザルトを見る限り、マシン差を埋めるこのような調整の方針は功を奏しているようですが・・・公平性とか自由な競争という側面からは、オールクリーンとはほど遠い現状があるのも間違いありません。2気筒クラスの統合、また近い将来さすがのAFTも全く避けては通らなそうな電動化?の動きなど、今後も注意深く見守っていきたいところです。

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.