去る1月19日、北米ドゥカティCEOのジェイソン・チノックは米Yahoo!ファイナンスライブに参加し、過去最高の販売台数をドゥカティが記録したことの理由や、2023年からMotoEへの単一車両プロバイダーになるドゥカティの電動モデル市販化の可能性・・・などについて語りました。

昨年、世界市場で最もドゥカティが売れたのは北米市場でした!!

2021年度にドゥカティは、これまでの歴史で最高となる59,447台の販売台数を記録しました。グローバル市場では2020年比で24%アップしており、市場別ではアメリカが前年比32%増の9,007台で首位。続いてイタリア8,707台(同23%アップ)、ドイツ6,107台(同11%アップ)、中国4,901台(同21%アップ)、フランス4,352台(同12%アップ)、英国2,941台(30%アップ)・・・と、世界の主要市場で軒並み2ケタ%のアップを記録しています。

画像: デスモ(弁強制開閉機構)をあえて採用しないことで、メンテナンス期間を大幅に伸ばしたムルティストラーダV4は、昨年度ドゥカティで最も売れたモデル(9,957台)となりました。レーダー採用によりライダーの利便性と快適性を向上させ、さらに死角検出による安全性の向上を実現したことも、多くのユーザーに高く評価されたようです。 www.ducati.com

デスモ(弁強制開閉機構)をあえて採用しないことで、メンテナンス期間を大幅に伸ばしたムルティストラーダV4は、昨年度ドゥカティで最も売れたモデル(9,957台)となりました。レーダー採用によりライダーの利便性と快適性を向上させ、さらに死角検出による安全性の向上を実現したことも、多くのユーザーに高く評価されたようです。

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トップ市場の座を奪還した北米ドゥカティCEOのジェイソン・チノックにとっては、Yahoo!ファイナンスライブへの出演は、きっと鼻高々だったのではないでしょうか? チノックはドゥカティ好調の理由を、COVID-19パンデミックにより高まった「モヤモヤ感」を解消する手段として、多くの人がモーターサイクルを選んだこと。続いて、不振市場や良い代理店のないエリアを特定し、新しいディーラーネットワークを再整備したこと。そして最後に、ドゥカティ販売台数1位のムルティストラーダV4など、魅力的な製品開発への投資と技術革新が奏功したと、3つの理由をあげました。

またチノックは、米国のライダー数の増加はポスト・パンデミック期にも続くだろうと見解を述べています。昨年度アメリカではモーターサイクルに"戻る"・・・いわゆるカムバックライダーが19%増加し、さらに初心者ライダーも増加しているとのこと。ちなみにドゥカティは現状で2022年の半ばまでの分の、未処理の注文を抱えているそうです。

続いて注目の、電動のドゥカティについて・・・話は及びました

ライブの司会者はドゥカティのセールス好調ぶりに続き、電動ロードレースシリーズ「MotoE」用の車両開発・・・どうして長年ドゥカティは"電動化"に沈黙していたのに、急にこのプロジェクトをスタートしたのか・・・と、チノックに話題をふりました。

ジェイソン・チノック(北米ドゥカティCEO)
 ブランドとして本当に重要なことのひとつは、動力の形態に関係なく、ドゥカティのバッジを付けるにふさわしいモーターサイクルの体験を提供し、それを確実に実現することです。人々は、ブランドとしての私たちにそれを期待するようになったのです。
 ですから、私たちの考えは・・・先に何かを伝えるのは時期尚早でした。私たちは、可能な限り最善の方法を探していたのです。そして、このテクノロジーを証明するのに、レーストラックほど適した場所はありません。レーストラックは、私たちのストリート用モーターサイクルのすべてに採用されているテクノロジーを証明する場所でもあるのです。なぜなら、モーターサイクルの世界では電動プラットフォームに関して、重量と航続距離という4輪自動車産業が何年も前に経験したのと同じような課題に直面することがあるからです。
 しかし、私たちはより小さなプラットフォームを持っています。そして、バッテリーの方向性はただひとつ。それは"向上させる"ことです。だから、そのための解決策を見出す必要がありました。このモーターサイクルはこのシリーズに多くの人々の注目を集めるだけでなく、将来的に製品を市場に送り出すためのプラットフォームにもなると信じています。

画像: 昨秋、テストの模様が公開されたドゥカティのMotoEプロトタイプ、V21L。 www.ducati.com

昨秋、テストの模様が公開されたドゥカティのMotoEプロトタイプ、V21L。

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またチノックは、開発中のMotoEプロトタイプのV21Lの技術について、自身が深掘りして語るのは時期尚早ではあるけれど・・・と前置きしつつ、「MotoEのレースシリーズで培ったノウハウと技術が、将来の"ストリートバイク"に活かされることは間違いないでしょう」と語っています。

そして電動バイクの公道版に、"自動運転"技術を盛り込む予定か?という質問に対してチノックは、「現時点では候補リストに入っていません。つまり非常に率直に言えば、モーターサイクリストはモーターサイクルを運転することが好きだからです」と否定。しかし、すでにドゥカティが製品に採用しているレーダーなどの安全技術については、その採用の可能性を否定することはありませんでした。

重量減を達成するためには、バッテリーの革新が必要ですが・・・

チノックのコメントにもあるとおり、現在の2輪EV開発の最大の課題といえるのは"バッテリー"のことでしょう。2023年にドゥカティがMotoEへの単一車両プロバイダになるまで、MotoEマシンを供給するイタリアのエネルジカの「エゴ コルサ」は、バッテリーに由来するであろうその"重さ"が問題視されていました。

画像: 2019年から2022年まで、MotoEのワンメイク車両として供給されるエネルジカ エゴ コルサ。最高速160mph≒257km/h、最高出力約120kW(160.9hp)、最大トルク215Nm(0~5,000rpm)というスペックと、信頼性には高評価が与えられましたが、約258.5kgという車重はロードレーサーとしては重すぎるという意見が大半でした。 www.energicamotor.com

2019年から2022年まで、MotoEのワンメイク車両として供給されるエネルジカ エゴ コルサ。最高速160mph≒257km/h、最高出力約120kW(160.9hp)、最大トルク215Nm(0~5,000rpm)というスペックと、信頼性には高評価が与えられましたが、約258.5kgという車重はロードレーサーとしては重すぎるという意見が大半でした。

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エゴ コルサの公称バッテリー容量は20kWh・・・リチウムイオンバッテリーには複数の種類がありますが、エゴ コルサのNCM(ニッケルコバルトマンガン酸化物)系の場合、この容量であればバッテリー重量は91〜133kgくらいになりますので、バッテリーの重さがいかに車重の大部分を占めるかがわかります。

コースにもよりますが、ICE(内燃機関)搭載車によるMotoGPクラス、Moto2、Moto3に比べると、はるかに短い距離(6〜8周)で競われるのがMotoEの現状です。ドゥカティとMotoGPを運営するドルナの話し合いにより、2023年度もMotoEはMotoGPクラスなどよりも周回数が少ないルールが維持されることになるようですが、それも周回数を増やす=車両重量が増えるという現実を考慮しているためです。

画像: ドゥカティV21Lは、ボディワークやスイングアームに軽量なカーボンファイバーを採用し、車重増を抑制することを意図した設計がうかがえます。なお、現時点での車重に関しては不明です。 www.ducati.com

ドゥカティV21Lは、ボディワークやスイングアームに軽量なカーボンファイバーを採用し、車重増を抑制することを意図した設計がうかがえます。なお、現時点での車重に関しては不明です。

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昨年10月末のCYCLE WORLDによるクラウディオ・ドメニカリ(ドゥカティCEO)のインタビューによると、MotoEプロジェクトの目標は軽量で、競争力のあるマシンを作ること、とのことでした。またドメニカリは、ドゥカティがVW(フォルクスワーゲン)グループに属し、EV技術の最先端にアクセスすることができることは大きなメリットである、とも語っています。

SSB(全固体電池)を搭載したら・・・大幅なパフォーマンスアップを狙えるでしょう

VWグループは、次世代EVの本命バッテリー・・・と目されているSSB(全固体電池)の開発にあたり、アメリカの新興企業であるクワンタムスケープと合弁事業を設立しています。そしてクワンタムスケープはVWグループとの合弁により、2024年にはSSB生産を開始する計画を進めていますが、昨年9月のロイターの報道によると、クアンタムスケープは社名こそ伏せたものの、大手自動車メーカー(おそらくVWグループ)と組んでSSBの試作品試験を行うことを明らかにしました。

画像: V21Lは、バッテリーケースを車体のストレスメンバーとしても活用することで、車重の軽量化を図っていると思われます。しかしバッテリーが既製品レベルで重いままでは、軽量なMotoE車両を作る目的を達成するのは難しいことと思われます。 www.ducati.com

V21Lは、バッテリーケースを車体のストレスメンバーとしても活用することで、車重の軽量化を図っていると思われます。しかしバッテリーが既製品レベルで重いままでは、軽量なMotoE車両を作る目的を達成するのは難しいことと思われます。

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仮にVWグループとクワンタムスケープの合弁により開発されたSSBが、ドゥカティV21Lにも使われることになれば・・・? バッテリーのダウンサイジング、軽量化、容量アップ、安全性向上、急速充電対応など、既存のリチウムイオンバッテリーに対しての大きなアドバンテージから、かなり高性能化したMotoEレーサーを作れるのではないか、と思われます。

ただ、リチウムイオンバッテリーの性能も日進月歩で向上しており、これまで多くのEVに使われることで得たノウハウや技術の蓄積を考慮すると、おそらく2023年にグリッドに並ぶことになるV21Lは、適度な重さとサイズのリチウムイオンバッテリーを、手堅い設計で搭載することになるのでしょう・・・。

ともあれ、2017年ころにはVWグループの「ディーゼル不正事件」の余波で、ドゥカティブランド売却の話題で持ち切りでした。その話はVWグループの業績回復により立消えになりましたが、もしドゥカティが売却の憂き目に遭っていたら・・・ドゥカティのMotoE参入はおろか、ドゥカティの電動バイク計画自体がおじゃんになっていたのかもしれません。そんな運の良さ、そして昨年の業績の好調ぶりなど、今のドゥカティは追い風に乗っている状態といえるのでしょう。

ドメニカリが語る、将来のドゥカティのラインアップ

昨年秋のC.ドメニカリのインタビューで、彼はドゥカティ初の公道用2輪EVの登場は、MotoEで得た経験を反映させるとして、あと数年待つ必要があると語っています。また必ずしも、V21Lのレーサーレプリカを作るということではなく、ネイキッドを作る可能性もある、と語り、あくまで技術とノウハウを開発することが、MotoEに関わることの目標と述べています。

画像: ドゥカティCEOのC.ドメニカリ。 www.ducati.com

ドゥカティCEOのC.ドメニカリ。

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またドメニカリは、未来は電動化にあるか? という問いに対し、決してドゥカティが電動化だけに前のめりになっているわけではなく、カーボンニュートラルには様々な「道」があるという考えを示しました。

クラウディオ・ドメニカリ(ドゥカティCEO)
 (電気には)可能性がありますが、燃料エンジンに未来がないとは言い切れません。どちらのソリューションも、異なる分野で共存する可能性があります。また、私は合成燃料の可能性を信じています。カーボンニュートラルは未来の話であり、私たちはCO2排出量削減に貢献しなければならないので、その解決策を見つけるべきです。電動化はある種のニーズやある種のクルマには有効ですが、すべてのクルマに有効とは限りません。
 ポルシェのロードマップを見ると、80パーセントが電気自動車で、20パーセントが合成燃料を使用する予定です。トラックは水素を研究しています。バイクはどうなるでしょうか。スポーツバイクは1種類の燃料で、ツーリングバイクはハイブリッドになる可能性があります。

今後10年の技術の進歩、そして今後10年の環境問題・経済の変化については、科学者やアナリストが予想を立てることこそできますが、実際にどうなるのかは未確定の未来の話です。不確かな事象に対して"集中と選択"という愚策に陥ることなく、あらゆる可能性に備えることは企業のトップの考え方としては正しいと言えるのでしょう。

ともあれ、ドゥカティ電動化の大事なプロジェクトであるV21Lの"2023年型"は、遅くても来年の今頃にはその仕様が私たちに明らかになっているでしょう。どのような仕上がりになっているのかと知る瞬間を、楽しみに待ちたいです!

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