19世紀末に誕生したICE(内燃機関)搭載のモーターサイクルは20世紀に急速に発展し、人々の暮らしに大貢献しました。一方、近年環境問題から世界の人々に注目されるようになった電動モーターを搭載するモーターサイクルは、いつごろ発明されたのでしょうか・・・?  実はその興りも19世紀末で、結構その歴史は古いのです。

電動モーターと電池の発明・発展により、EV実現の可能性は高まりました

ニコラス・アウグスト・オットーが、オットー・サイクルと呼ばれる4ストロークICEの特許を取得したのは1877年・・・。そしてゴットリープ・ダイムラーとウィルヘルム・マイバッハが熱管点火方式のICEを1883年に完成させ、それを木製の車体に搭載した2輪車・・・それがリートワーゲン(ライディング・カー)、またはアインシュプール(シングル・トラック)と呼ばれる、初のICE搭載モーターサイクルでした。

画像: ドイツ・シュトゥットガルトのメルセデス-ベンツ博物館所蔵の、リートワーゲンのレプリカ。1885年に完成したリートワーゲンに搭載される空冷4ストローク単気筒264cc(58×100mm)の最高出力は0.5 hp (0.37 kW)/600rpmで、その最高速は11km/h・・・でした。 en.wikipedia.org

ドイツ・シュトゥットガルトのメルセデス-ベンツ博物館所蔵の、リートワーゲンのレプリカ。1885年に完成したリートワーゲンに搭載される空冷4ストローク単気筒264cc(58×100mm)の最高出力は0.5 hp (0.37 kW)/600rpmで、その最高速は11km/h・・・でした。

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画像: Gottlieb Daimler│automobile inventor youtu.be

Gottlieb Daimler│automobile inventor

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オットーサイクル完成からリートワーゲン完成までには8年の歳月を要しました。そして電動2輪車の誕生の前にも、当然ながら必要不可欠な電気モーターと電池の発明が先にありました。ただ、実用的な電動の乗り物用の電気モーター&電池の開発には、かなり長い時間がかかっています。そもそも近代永久磁石が開発されるのは20世紀に入ってからですので、19世紀は永久磁石型モーターが存在しない時代だったのです・・・。

米国のベンジャミン・フランクリンや英国のアンドリュー・ゴードンなどの研究者が、静電モーターを発明したのが1740年ころのこと・・・。そしてロシアのモーリッツ・フォン・ヤコビは1830年代にさまざまな直流モーターを発明しましたが、乗り物に使える電気モーター実用化には、ベルギー人のゼノブ・グラムの"偶然の発見"まで、そのキッカケがおとずれるのを待つことになりました。

画像: 1871年のグラム・ダイナモ。いわゆる発電機ですが、1873年にオーストリア・ウィーンでの博覧会展示中に、助手の配線接続ミスという偶然からダイナモに直流を流すと電動モーターとして機能することが発見されました。 en.wikipedia.org

1871年のグラム・ダイナモ。いわゆる発電機ですが、1873年にオーストリア・ウィーンでの博覧会展示中に、助手の配線接続ミスという偶然からダイナモに直流を流すと電動モーターとして機能することが発見されました。

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電動モーターよりも先行して実用化開発が進んでいた発電機(ダイナモ)ですが、グラム・ダイナモの配線接続ミスからダイナモは発電だけでなく電気モーターとしても使えることがわかり、電気モーターの実用化が加速することになります。

みなさんも学校の授業で、英国のジョン・アンブローズ・フレミングが教育のために考案した「フレミングの手の法則」を学ばれたと思いますが、奇しくもフレミングが手の法則を考案したのは、ダイムラー1号車のリートワーゲンが完成した1885年のことでした。

画像: フレミングの手の法則・・・右手は発電機、左手はモーターの作動原理を3本の指で説明しています。なおフレミングは、真空管の発明者としても知られています。 ja.wikipedia.org

フレミングの手の法則・・・右手は発電機、左手はモーターの作動原理を3本の指で説明しています。なおフレミングは、真空管の発明者としても知られています。

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電動モーター搭載2輪車の初号機はどれ? 実はハッキリわかっていません・・・

1882年に英国のジェームズ・エドワード・ヘンリー・ゴードンは、画期的な2相交流発電機を発明。そしてオーストリア帝国(現在はクロアチア)生まれのニコラ・テスラはグラーツ工科大学時代に見たグラム・ダイナモから着想を得て、1883年に2相交流のモーターを試作。1887年には初の実用的交流モーターを完成させています・・・。

一方・・・電動モーターとともにEVに欠かせない電池は、1800年にイタリアのアレッサンドロ・ボルタが発明。そして1859年に、フランスの物理学者であるガストン・プランテが鉛蓄電池を発明。人間の移動手段として十分な電力を供給できる鉛蓄電池の登場により、一気にEV実用化の可能性は広がることになりました。

1881年には、フランスのギュスターヴ・トルーヴェが史上初の実用的EVと言われる電動3輪車を発表。その1年後には、英国のウィリアム・アリトンとアイルランドのジョン・ペリーが「電動馬車」が製作されるなど、黎明期のEVが生み出されることになります。

画像: G.トルーヴェの電動3輪車。ドイツのシーメンス社から購入した電動モーターを、英国のジェームズ・スターレー製3輪車にバッテリーとともに搭載。1881年4月19日にフランス・パリのヴァロワ通りでテスト走行を行ったと記録されています。ICEを搭載するリートワーゲンより、ちょっと早くEVは完成していたわけです。 en.wikipedia.org

G.トルーヴェの電動3輪車。ドイツのシーメンス社から購入した電動モーターを、英国のジェームズ・スターレー製3輪車にバッテリーとともに搭載。1881年4月19日にフランス・パリのヴァロワ通りでテスト走行を行ったと記録されています。ICEを搭載するリートワーゲンより、ちょっと早くEVは完成していたわけです。

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では初の電動2輪車はいつ、誰に発明されたのでしょうか? 残念ながらそれは定かではありません。しかし、記録に残っている最古の特許として、1895年に米国の発明家であるオグデン・ボルトンJr.が、「エレクトリカル・バイシクル」の名で2輪EVを出願しております。

画像: O.ボルトン Jr.考案のエレクトリカル・バイシクルの図。フレームに10Vバッテリーを吊り下げ、後輪のハブモーターを駆動するレイアウトでした。乗り手の脚力に頼ることは考えなかったようで、自転車でおなじみのペダル、クランク、BB、ギア、そして駆動チェーンは採用していません。 patents.google.com

O.ボルトン Jr.考案のエレクトリカル・バイシクルの図。フレームに10Vバッテリーを吊り下げ、後輪のハブモーターを駆動するレイアウトでした。乗り手の脚力に頼ることは考えなかったようで、自転車でおなじみのペダル、クランク、BB、ギア、そして駆動チェーンは採用していません。

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画像: ハブモーターは6極の直流式。最大100Ahの電流をバッテリーから供給する・・・ということです。 patents.google.com

ハブモーターは6極の直流式。最大100Ahの電流をバッテリーから供給する・・・ということです。

patents.google.com

O.ボルトン Jr.のエレクトリカル・バイシクルが果たして何台作られたのか? などは残念ながら不明であり、同時代に特許出願はしなかったものの、他の誰かが2輪EV開発を手がけていた可能性もあるでしょう・・・。

ともあれ、4輪EVだけではなく2輪EVの可能性もすでに19世紀末から追及されていたことは確かなことではあります。ICEと電動ともに1880年代には、実用的な乗り物が生み出されていたワケですが・・・次回 [電動2輪車の歴史 その2] ではICE搭載車との比較をまじえつつ、第一次世界大戦ころまでの時代の2輪EVを紹介する予定です。

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