皆さんは2000年代に日立や東芝や富士通など多くの企業が、マイクロ燃料電池開発に力を入れていたことをご記憶でしょうか?  今では燃料電池といえば水素燃料の話がメインですが、当時はメタノールを使った燃料電池もその将来を有望視され、ヤマハが燃料電池試作車を作ったことも話題になりました・・・。

21世紀に入って、ガジェットの世界で"マイクロ燃料電池"が注目を集める

化学反応で水素などの燃料から電気を取り出す「燃料電池」は、100年以上前・・・19世紀からその可能性が追求されていた技術です。1932年には、英国のフランシス・トーマス・ベーコンが水素と酸素を使った燃料電池を発明。この燃料電池技術は1960年代にアメリカNASAのアポロ計画などにも活用され、注目を集めました。

蒸気機関や内燃機関のような「熱機関」よりも高効率で、熱や騒音などを発しない燃料電池ですが、2000年代には日立、東芝、富士通、NEC、カシオ、ソニーなどの電機メーカーがこぞって「マイクロ燃料電池」開発に励んだことが、当時話題になりました。

その目的は、当時急速に需要が高まっていた携帯電話などノートPCなどのモバイル端末の次世代電源の開発です。モバイル端末電源の主流であるリチウムイオン電池などよりも、長時間の使用を可能とする電源として、各メーカーはマイクロ燃料電池に注目したわけです。

2004年に富士通研究所が公表した、試作マイクロ燃料電池システム。30%濃度メタノール水溶液を注入しての発電が可能で、厚さ15mmと極めて薄型ながら15Wクラスの高い出力を実現しています。燃料300ミリリットルで、ノートPCを8~10時間駆動することができました。

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マイクロ燃料電池には水素を燃料とするものと、メタノールを直接燃料として使うDMFC=直接メタノール型燃料電池に大別されますが、多くの電機メーカーに注目されたのは燃料の入手が比較的容易な後者の方でした。

2009年には東芝が、DMFC方式を採用したモバイル燃料電池「Dynario(ディナリオ)」をいよいよ発売。しかし2010年代のモバイル機器の省電力化や制御技術の進化、そしてリチウムイオン電池の性能向上などもあって、あえてマイクロ燃料電池をモバイル機器の電源に使わなくてもいいという考え方がすっかり主流となったため、電機メーカーのマイクロ燃料電池開発ブームは退潮することになり今に至っています。

東芝が2009年10月29日に、3,000台限定で発売したモバイル燃料電池「Dynario(ディナリオ)」。専用の燃料カートリッジから高濃度メタノールを注入し、1回燃料の注入で携帯電話を約2回充電することができました。価格は本体が29,800円、燃料カートリッジ・5本セットが3,150円でした。

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ヤマハが試作したDMFC車・・・FC06は売るとなると1,000万円!?!?!?

2・4輪メーカーの世界でも、2000年代は燃料電池の開発が環境問題対策の一環で話題となっていました。2001年9月にホンダは、米スタンフォード大学との共同研究により水素を使った超小型燃料電池の作製および発電に成功と公表。当時多くのテック系メディアは、将来ホンダの人間型ロボット「ASIMO」の電源に水素燃料電池を搭載するのでは? と書き立てました。

画像: 2000年型のASIMO(アシモ)。長時間駆動が可能な燃料電池は、リチウムイオン電池よりもロボット用の電源として将来性があると考えられています。 www.honda.co.jp

2000年型のASIMO(アシモ)。長時間駆動が可能な燃料電池は、リチウムイオン電池よりもロボット用の電源として将来性があると考えられています。

www.honda.co.jp

(今のところ?)ASIMOは水素燃料電池を搭載して商品化されていませんが、ホンダは水素燃料電池の技術を使って4輪FCV(燃料電池車)を今現在も販売しています。ホンダのFCXやクラリティ FUEL CELLのほか、トヨタ、BMWなどが手がける4輪乗用FCVは水素を燃料にしていますが、2000年頃からヤマハは多くの電気メーカーが研究開発していた、DMFC方式・・・メタノールを使った燃料電池2輪車の試作にトライしています。

画像: 2003年の第37回東京モーターショーに展示されたヤマハFC06(参考出品)。 global.yamaha-motor.com

2003年の第37回東京モーターショーに展示されたヤマハFC06(参考出品)。

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2003年の第37回東京モーターショーに登場した「FC06」は、電池メーカーのYUASAと共同開発したメタノール水溶液を燃料とする出力500W級のDMFCユニットを搭載。燃料電池で発電した電気をバッテリーに貯めて、既に市販していたヤマハの電動コミューター「Passol」用をベースにしたモーターを駆動する仕組みでした。

またGPSナビゲーション、カメラによる後方確認機能など、次世代のアクセサリーも採用。300WのAC(交流)アウトレットも備え、アウトドアや災害時の電源供給にも対応するのも特徴でした。

参考出品なので価格は設定されていませんが、2004年出版の「図解入門よくわかる最新燃料電池の基本と動向」(著者: 燃料電池NPO法人PEM‐DREAM 版元:秀和システム)によると、FC06は売るとなると1台1,000万円!! とのこと! いくら当時の技術の粋を集めたモデルの開発費含みの値段といえど、原付クラスの乗り物にこの高価格では市販は難しいというより、無理でしょう・・・。

2004年9月に、公道走行用ナンバーを取得したヤマハFC06 PROT

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画像: 第二世代のヤマハ製FCV、FC-me(エフシーミー)。気液分離器&ラジエターの下に、セルスタックを搭載。市販された電気コミューターのPassol用をベースにした電気モーターは、後輪に一体化したYIPU(ヤマハ・インテグレイテッド・パワー・ユニット)です。FC-meは車重69kg、最高速40km/h、約100kmの航続距離というスペックでした。 global.yamaha-motor.com

第二世代のヤマハ製FCV、FC-me(エフシーミー)。気液分離器&ラジエターの下に、セルスタックを搭載。市販された電気コミューターのPassol用をベースにした電気モーターは、後輪に一体化したYIPU(ヤマハ・インテグレイテッド・パワー・ユニット)です。FC-meは車重69kg、最高速40km/h、約100kmの航続距離というスペックでした。

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2005年の第39回東京モーターショーにも、ヤマハはFCVのプロトタイプを展示しています。ヤマハは2004年9月、試作車「FC06 PROT」に公道走行用のナンバーを取得。2005年の9月にはより性能を向上させた「FC-me」を静岡県に1台リースする契約(2005年9月16日〜2006年3月末、月額105,000円)を結んでいます。なお2輪FCVのリース販売は、国内初のことでした。

2輪燃料電池車の将来は・・・?

さらにヤマハは、水素燃料電池車の「DC-AQEL」とともに第3世代DMFC車の「FC-Dii」を2007年の第40回東京モーターショーに出展。「FC-Dii」は1kWクラスで最高レベルの電力密度を特徴とするヤマハ独自のコンパクトセルスタック、簡単に取り外し可能なリチウムイオン充電池を採用。DMFCのシステム効率は、FC-meより30%も向上していました。

2010年代に入って、電機メーカーの「マイクロ燃料電池ブーム」が退潮したのと同じように、ヤマハも電動の「EC」シリーズの流れをくむ試作車や製品は作り続けるものの、燃料電池車の「FC」シリーズについてはさっぱり話を聞かなくなりました。

モバイル機器用のマイクロ燃料電池が市場を築くことに成功し、DMFC用のメタノール燃料をどこでも気軽に入手できる時代に2010年代がなっていたら、ヤマハのDMFC技術を活かしたFCシリーズの製品版が世の中に普及していたのかもしれません。

画像: 2007年の第40回東京モーターショーでの、ヤマハブースの展示。右がFC-Dii、左が水素燃料電池車のFC-AQELです。 global.yamaha-motor.com

2007年の第40回東京モーターショーでの、ヤマハブースの展示。右がFC-Dii、左が水素燃料電池車のFC-AQELです。

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モバイル機器用の電源としては普及しなかったDMFCですが、据え置きの非常用電源や無停電電源としてのDMFCは静かでクリーンな電源として現在も販売されています。長期的な視野に立てばメタノールよりも、多くの自動車メーカーやエネルギー企業が力を入れている水素燃料の燃料電池が将来有望なのでしょう。ただ、EVとFCVの各勢力が世界市場を巡ってケンカ? している昨今、「水素エネルギー社会」の到来がいつになるのかはまだ予測不能です。

DMFCの燃料・・・例えば三菱ガス化学の「メタミックス」はメタノール含有量54%で、危険物や毒劇物に該当しないので取り扱いに資格など必要なく、貯蔵・輸送も官公庁への届け出不要で扱いが容易です。またガソリンのように時間経過による劣化もなく、長期保存が可能という優れた特徴もあります。

水素よりも扱いが簡単なメタノールを使った、環境に優しいDMFCの2輪車・・・。水素エネルギー社会の到来までの、つなぎのFCVの一つとしてはアリなのかも・・・? FCシリーズで市販化が可能なレベルまで研究開発を進めたヤマハに、期待したいです! もっとも2003年のFC06のように、1,000万円では手が出ないですけど(苦笑)。

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