ひとくちに "フラット" な "ダート" の "トラック" と言っても、そのサイズや土質など、ライダーとマシンを取り巻く条件は千差万別です。ひとつのトラックでも温度や湿度、あるいは路面の仕上がりにより、刻々とその表情は変わります。路面と常に触れている唯一の要素、前後タイヤそれぞれの接地面をどのように調整してレースに挑むのか、本日はそんな、テクニカルでヒストリカルなお話です。

タイヤ彫るもの減らすもの?"グルーバー" は必携のハンドツールです!

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。読者の皆さんは "タイヤグルーバー" という工具をご存知でしょうか?ダートトラックライダーで、知らない・使ったことない・持ってない、という方はおそらくいない・・・はず?かと?思いますが、電気で熱せられた彫刻刀の刃みたいな形状のもので、ザクザクとタイヤゴムに溝を彫って追加することのできる、単純で便利なツールです。

画像: 日本ではあまり知られていない本国アメリカ最新バージョンのIDEAL式タイヤグルーバー。本体バレル部がステンレス製になってサビ知らず。真鍮製の先端部分は幅違いの刃を同時装着できる画期的な新デザイン?らしい。110V仕様なので、厳密に言えば日本では "昇圧機" を接続したほうがカンカンに温度が上がって切りやすい。

日本ではあまり知られていない本国アメリカ最新バージョンのIDEAL式タイヤグルーバー。本体バレル部がステンレス製になってサビ知らず。真鍮製の先端部分は幅違いの刃を同時装着できる画期的な新デザイン?らしい。110V仕様なので、厳密に言えば日本では "昇圧機" を接続したほうがカンカンに温度が上がって切りやすい。

我が国でタイヤグルーバーというと、本日テーマのダートトラックレーシングでのタイヤ加工のほか、二輪ではスーパーモト (モタード) やロードレースで、ドライ用スリックタイヤとウェット用レインタイヤの中間を狙っていわゆる "カットスリック・タイヤ" をこしらえたりするくらい?

あるいは四輪のクロカン (クロスカントリー) 競技のジムニー愛好家が市販タイヤに溝を追加するなど、かなり限られた場でしか登場しない、なかなかマイナーな小道具ですが、欧米ではミシュランなどの大型トラック用タイヤで当初からリ・グルーブ・・・残り溝が数ミリになった時点でタイヤライフを伸ばすため、トレッド面に改めて溝を刻むこと・・・を念頭に設計された製品もあり、またATVやスプリントカーなど土のトラックで戦う四輪スピード競技の世界でも、ライバルに対して優位に立つべく、タイヤトレッドをそれぞれの思惑に応じてカットするのは当たり前の技術のようです。

画像: タイヤ彫るもの減らすもの?"グルーバー" は必携のハンドツールです!

公平性?タイヤ消費量 = 予算を抑制する策?現在プロは彫れませんが・・

遡れば1960年代、全米プロ・ダートトラック選手権がクラスC = 公道市販車改造、を厳密な基本ルールとして争われていた時代、市販タイヤのブロックの一部をカミソリの刃で削ぐなどして、各ライダーがトラックコンディションに対応する姿は日常のものでした。その様子は懐かしきピレリMT53 "ユニバーサル" タイヤと共に、名作ドキュメンタリー映画 "ON ANY SUNDAY" にも登場します。

画像: 上半分は市販ストック状態。下半分側にはライダーかメカニックの手によって細やかな加工が施されている。

上半分は市販ストック状態。下半分側にはライダーかメカニックの手によって細やかな加工が施されている。

今から10年ほど前までは、GNC: グランドナショナルチャンピオンシップのパドックでは、決勝レースの出走直前までチューナーやメカニック、あるいはライダー自身がタイヤグルーバーを握りしめ、その日のトラックを攻略し、他のライダーたち全員を出し抜くための "秘密のグルービング" に頭を悩ませながら勤しむ姿を目にすることができました。

浅くなった溝を深く彫りなおし、ブロックを分割し新たにシャープなエッジを与えられたタイヤは、路面を捉える力も増すため、なにも手を加えない新品に比べ速いスピードで摩耗します。それだけ良い仕事をしている、とも言えますが、レースへの参戦費用が際限なく膨らみ、資金力に余裕のないエントラントの "プロ選手権離れ" を折から懸念した主催者のAMA (当時) は、グルービングを含めたタイヤトレッド面への加工を禁止し、1レースを前後タイヤ1セットで戦うようルールを改訂します。

より良いパフォーマンスの追求と、門戸を狭めない経済性。それぞれのバランスを保つことは非常に難しい判断だったはずですが・・・少なくともトップ・ノッチのプロの現場から、"ダートトラックらしさ" を象徴するひとつの風物詩が失われたことは間違いないでしょう。

画像: 公平性?タイヤ消費量 = 予算を抑制する策?現在プロは彫れませんが・・

"専用レーシングタイヤ以外" を用途向けに生まれ変わらせるにも必須!

19インチ / 17インチ (ミニサイズマシン向け) のダートトラック競技専用タイヤを履かせることなく、オーバル走行にチャレンジしたい、という要求へのひとつの答えは、オンロード用ハイグリップタイヤに溝を追加して流用することです。ダンロップTT900GPやブリジストンBT39が最有力候補。

画像: オンロード用ハイグリップタイヤをオーバルトラック用グルービングする基本パターンがこちら。サイド部にグルっと縦溝を2列→特に端部1周はフルバンク時の安定を生むためとても重要。中央部にはハシゴ状の横溝を。スマートなタイヤグルービングの準備としては、白のダーマトグラフでの下書きがわりと有効だったりします。

オンロード用ハイグリップタイヤをオーバルトラック用グルービングする基本パターンがこちら。サイド部にグルっと縦溝を2列→特に端部1周はフルバンク時の安定を生むためとても重要。中央部にはハシゴ状の横溝を。スマートなタイヤグルービングの準備としては、白のダーマトグラフでの下書きがわりと有効だったりします。

体験走行的ビギナーはもちろんのこと、トレーニング目的などでホイールサイズを変更することなしに走らせたい、という御仁にもお勧めで、本場アメリカで最も歴史あるダートトラックライディングスクール "American Super Camp" でも採用する手法です。路面状況や走らせ方によっては専用タイヤ以上に摩耗が進むこともありますが・・・そこは (ホイール製作など) 初期投資とランニングコストのバランスで、ケースバイケースにてご判断いただくのが良いでしょう。

エントリーレベルのダートトラックライディング体験用タイヤとしては、柔らかなキャラメルパターンのブロックが整然と並ぶトライアル競技用タイヤという選択肢もありますが、硬めの路面でタイヤトレッド全体を面的に用いてグリップ / スライドさせて走る、ダートトラック競技特有の走法をいち早く体感するためには、このロード用タイヤ + グルービングはよりベターなチョイスと言えます。

画像: 走ってささくれてきたタイヤトレッド面に慎重にハンドサンダーを当てて整えるあちらのプロライダー。我々の思う、なんとなくざっくりとしたラフなイメージを裏切るデリケートで細やかな人たちがそこには大勢います。

走ってささくれてきたタイヤトレッド面に慎重にハンドサンダーを当てて整えるあちらのプロライダー。我々の思う、なんとなくざっくりとしたラフなイメージを裏切るデリケートで細やかな人たちがそこには大勢います。

これからダートトラックライディングを始めたい貴方、もう走ってるけど実は持ってない御仁、タイヤグルーバーなど各種アイテムがお入り用でしたら、個別の輸入なんかもお手伝いできますのでご相談ください。現場で集うのがまだ難しい分、道具を揃えて準備を整えるよい機会かもしれませんよ。

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

画像: "専用レーシングタイヤ以外" を用途向けに生まれ変わらせるにも必須!
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