ようやく走り終えた2020年シーズン

F1やスーパーフォーミュラはまだラウンドが残っていますが、2輪レースはほぼレーススケジュールを消化。2020年シーズンはコロナ禍でエラい目に遭いましたが、主催者、選手、チーム、そしてファンのみんながんばって、なんとかかんとかシリーズを成立させられました。
と、そんな折、日本の2輪モータースポーツを統括するMFJからある発表ごとがありました。それは、これまで認められてきた「希望ゼッケン制」の廃止です。

画像: MotoGPはもう、ほとんどが希望ゼッケンです 20=クアルタラロ、42=リンス、30=中上、36=ミルといった具合です これを覚えるのもファンの楽しみのひとつだと思います

MotoGPはもう、ほとんどが希望ゼッケンです 20=クアルタラロ、42=リンス、30=中上、36=ミルといった具合です これを覚えるのもファンの楽しみのひとつだと思います

バレンティーノ・ロッシなら「46」、マルク・マルケスなら「93」、中上貴晶なら「30」と、本来は前年のランキング順によって与えられるゼッケン番号を、自分の好きな番号にしていいよ、というのが「希望ゼッケン制」です。

全日本選手権でも、ロードレースならTeamKAGAYAMA加賀山就臣が「71」、TeamTARO関口太郎が「44」、will raise racing RS-ITOHの柳川明が「87」、モトクロスならHonda Dream Racing Bellsの山本鯨が「400」、同じくBells Racingの小島庸平が「44」、bLU cRUレーシングチーム鷹の星野優位が「166」とかね。
加賀山ユッキーといえば「71」とか、ハルクプロの選手なら「634」とかね。ゼッケンナンバー=その選手ってパターン、定着してきたレース文化のひとつだと考えています。

画像: TeamKAGAYAMAを率いる加賀山就臣 全日本JSBのゼッケン71=加賀山、はレースファンにはお馴染みです

TeamKAGAYAMAを率いる加賀山就臣 全日本JSBのゼッケン71=加賀山、はレースファンにはお馴染みです

MFJの「希望ゼッケン制」の廃止理由は以下のとおりです。
「オートバイのレースを知らない新規ファン獲得のため、スポーツとして誰が速いライダーなのかをわかりやすく訴求し、ライダーにスポットライトが当たるように、メディア媒体とWEB放送を中心にSNS連携を含め発信強化を図ります」
さらに各クラスとも「前年のランキング1~10位のライダーのゼッケンプレートカラーを変更」。これは「赤字に白文字のナンバープレートカラー」となることも合わせて発表されました。

画像: 2020年の全日本モトクロスIA1クラスチャンピオン、山本鯨 ゼッケン400番は代名詞ですね

2020年の全日本モトクロスIA1クラスチャンピオン、山本鯨 ゼッケン400番は代名詞ですね

画像: 全日本モトクロスIA2クラスの2020年チャンピオンは横山遥希 2019年もチャンピオンでしたからゼッケン1です 上写真の山本とも、ナンバーのベース色が赤なのは、全日本モトクロスで運用されている「このレースにランキングトップで参加している」というルールです

全日本モトクロスIA2クラスの2020年チャンピオンは横山遥希 2019年もチャンピオンでしたからゼッケン1です 上写真の山本とも、ナンバーのベース色が赤なのは、全日本モトクロスで運用されている「このレースにランキングトップで参加している」というルールです

たまたま私、中村浩史はMFJのお知らせを見て「へぇ、なんかもったいないなぁ」と感じたのです。だって、ハルクプロホンダの「634」はメインスポンサー武蔵精機工業の「ムサシ」をもじって「634」としたものだし、加賀山ユッキーの「71」は、彼がイギリススーパーバイクに参戦を開始した2003年から、もう17年も愛用している番号。ゼッケンの番号を見ただけでその選手がわかる、っていうわかりやすさがありましたからね。

これは「パーソナルナンバー」といって、世界グランプリでは古くバリー・シーンが「7」つけていました。フレディ・スペンサーといえば「19」、ケビン・シュワンツといえば「34」とか、グランプリに出る以前に、自国のナショナルレースに出ていた時のナンバーをゼッケンにする、ってスタイルが多かったんですね。ちなみにMotoGPの公式リザルトにゼッケンナンバーが残るようになったのは意外と新しく、2005年からです。

画像: 水野涼は、所属するハルクプロのメインスポンサー「武蔵精機工業」のムサシをもじってゼッケン634です

水野涼は、所属するハルクプロのメインスポンサー「武蔵精機工業」のムサシをもじってゼッケン634です

他のスポーツでも、2020年F1チャンピオンのルイス・ハミルトンは近年「44」をパーソナルナンバーとしてマシンにつけているし、スポーツレジェンドでいうと、例外はあっても、イチローといえば「51」、マイケル・ジョーダンは「23」、つい先日亡くなったサッカー界のスーパースター、ディエゴ・マラドーナは「10」。葬儀の国際映像では背番号「10」のユニフォームで棺をくるんでいました。そういえばマラドーナはAマッチでも、バルセロナでもナポリでもセビリアでも背番号「10」をつけていたし、現代のスーパースター、リオナル・メッシも「ディエゴのゼッケンに憧れていた」と背番号「10」を好んでつけていますね。
さだまさしが所属していたグレープの「朝刊」では、「♪ねぇ、また巨人が負けたってさ、って 高田の背番号も知らないくせに♪」なんて歌詞があります。きっと当時は「8」=高田繁だったんですね。グレープも高田も古くてすみません。

すぐに「反対!」としてはならない現状

さて、その「希望ゼッケン制」の廃止にライダーたちが反応しました。せっかくこの「××」番がオレの代名詞になって来たのに、なんて声もあったし、スポンサーさんの希望ゼッケンなのに、なんてライダーやチームオーナーの声もありました。

そこで、少しライダーに話を聞いてみると、この決定は事前に知らされておらず、もちろん前々から議題に登っていた案件でもなくMFJが発表したものだ、ということでした。
それはないよなぁ――そう思った私は、おせっかいに少し意見をまとめてみました。ライダー個々も動いていて、ライダー選手会専用のグループラインへ、半日で約8割がたの反応があったようです。もちろん、SNSをやっていないライダーもいるので100%ではありませんでしたが、返って来た返事のうち約7割がた強は「反対」だったようです。

そこで、選手以外、観る人たちの声も聞きたいな、とWebオートバイのFacebookで「コレコレこんな動きがあるんだけどどう思う?」って投稿を投げました。
タイトルに<ご意見頂戴>と投げたこともあって、読者のみなさんの反応もものすごく、ひと晩で100件オーバーの意見をいただきました。なんだ100件か、と思うなかれ、Webオートバイに1日100件コメントをいただくなんてめったにないこと。コメントはその後も伸び続け、投稿約30時間で180件まで伸びています。反応、すごく有り難いです。ありがとうございます。
Webオートバイを見てくれている人は「当事者」ではありませんから、無責任な意見でもOKなんです。一般のネット記事よりもマナーはいいのですが、中には感情的な、ばかあほ何考えてんだ、的なヒステリックな意見もありました。いいのいいの、全然おっけー!
もちろん、冷やかしの意見もありました。でもそれはごく少数で、みなさん、自分なりの意見をぶつけてくれました。

すぐに反応をくださった130件の意見を集計してみました。130件のうち、希望ゼッケン廃止に賛成は8人、反対は106、どちらでもいいが9、無関係の投票が7、でした。反対が81%、ってことですね。これは選手会の反応にかなり近いですね。
とはいえ、ランキング順のゼッケンに賛成という表の中には「チャンピオンは1をつけよう」ってだけの意見もありました。これはもう「ほとんど反対」と言ってもいい結果だと思います。

画像: 12/2に出されたプレスリリース 突然の感は否めません

12/2に出されたプレスリリース 突然の感は否めません

MFJへの追加取材で分かった「2021年からの変革」

思い余ってMFJに連絡をしてみました。電話口に出ていただいたのは、MFJ会長の鈴木哲夫さん。ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、鈴木会長は元HRCの代表で、2019年7月からMFJ会長の任に就かれています。
――希望ゼッケン廃止の発表リリースを拝見しました。もう少し詳しく、廃止の理由を教えていただけますか?
「MFJでは現在『新しいモータースポーツファンの獲得』を目指しています。ランキング順ゼッケンは初めてバイクレースを観る人が、ひと目で誰が速いライダーなのか、分かりやすくするためです」
--まずはそのための改革、ってことですね。
「まず言っておきたいのは、いま日本の2輪モータースポーツはギリギリの状態にある、ってことです。観客動員も伸びません、新規ライセンス獲得者、つまり将来のレーシングライダーの数も減っています。これでは、私たちの次の世代に、この2輪モータースポーツを健全な形で残していけない」
--そこは理解しているつもりです。
「みんな、なんとなく知っている、ってレベルです。でも、本当にギリギリの状態が続いてるんです。MFJの役割っていうのは、あくまでレースの統括であって、各レースを開催しているわけじゃない。レース主催は各サーキットで、その各サーキットが採算をとれない状態が続いているんです。そんな状態でレースを開催していると、まずはオフィシャル=これは非常勤のコースマーシャルさんたちを指しますが、彼らが集まらない。ひとつのサーキットでいくつものコースポストがあって、そこに複数人のオフィシャルさんが詰めてくれています。これが、金、土、日の3日間で、非常に安い報酬で引き受けてもらっている。これが集まらなくなると、レースが開催できません」
--レースの安全装備もそうですね。
「そうです。クラッシュパッドひとつとっても、ひとつ数十万円のコストがかかる。けれど、安全性の観点から数を減らすわけにはいかない。そういうギリギリの状態が続いているんです」
--その現状を打破するのが、今回の「希望ゼッケン制廃止」につながるのがよくわかりません。
「全日本選手権は2021年からガラッと変わっていきます。希望ゼッケン廃止は、あくまでもその変更点のひとつなんです。プレスリリースでも触れましたが、レースを『見せる』というところから変えていきます。現在レースファンでいてくださっている方々にはもちろん、我々はもっと『レースを観たこともない』という人たちに2輪モータースポーツの面白さを伝えたい。そういう『新しいレースファン予備軍』の方々が、ひとケタ、ふたケタ、三ケタのオートバイが順位争いをしているシーンを見てどう思うでしょう。これをわかりにくい、と考えているんです」

――それでも、現在JSBクラスを中心に希望ナンバーをゼッケンにしているライダーはたくさんいます。ある特定の数字がライダーの代名詞がわりになっているという現実があります。
「承知しています。それでも、それはレースファン側からの見方にしか過ぎないと思うんです」
――MotoGPはいかがですか? 集客も桁違いで、初めてレースを観るというファンの割合も、日本とは比較にならないほど多いと思うのですが。
「MotoGPにしろF1にしろ、希望ゼッケンは少なくありません。バレンティーノの46、マルクの93という数字が、そのまま個人を想起させるということに異論はありません。けれど、それはすでにメジャーになっているプロスポーツだからであって、もうショービジネスとして完成されているからなんです。野球、サッカー、バスケットボール然り。残念ですが、日本のモータースポーツはそこまで達していません」
――それならば、逆に初めて見るファンが「××選手はゼッケン××なんだ」と明確に記号化されていることになりませんか? こちらの方が分かりやすい、とはなりませんか? オートバイ誌の読者のみんなの反応も、そういう意見が大半でした。
「それは中村さん、オートバイ誌の読者の皆さんがレースをご存知だからです。初めて見る方は、どうして大きい数字の人と小さい数字の人がランダムにいるのか、理解できません。わかりにくいということは、新しい世界への参入障害でしかないんです」
――では、初めて見る人が、全日本モトクロスIA1クラスの2020年チャンピオン、山本鯨選手がゼッケン400番をつけているのを見て「どうして400番なんだろう」と疑問を持って、知っている人に聞いたり大会パンフレットを観たりという「興味を持って一歩踏み込む」ことにつながりませんか?ロードレースではハルクプロのライダーが「634」をつけていて、私も実際に友人と「なんで634なの? そーなんだ、へぇぇぇ」というやり取りをしたことがあります。
「それもレースを知っている人の意見です。初めてレースを観に来る人は、近くによく知っているファンの人なんていませんし、大会パンフレットを見る人も少数派です。そういう前提で考えなきゃいけない」
――それでは、スポンサー活動にゼッケン番号を使ったり、個人の思い入れのある数字をゼッケンに使うことについてはどうお考えですか? MFJは希望ナンバーをゼッケンにする際には登録手数料を徴収していますよね?
「スポンサー企業さんは、こういったルール変更には反対しないものです。個人の思い入れについては、私は思い入れよりも新規ファンの『わかりやすさ』をとったということです。現に私は固定ゼッケンですぐに思い浮かぶライダー、チーム代表にいくつか内諾を得ています」
――それにしても、こういった決して小さくないルール変更を、事前にチームやライダーに知らせずに発表するという手法はいいことだとは思いません。
「発表の順序ややり方に問題はあったかもしれませんが、2021年のエントリー受付けも始まります。その時に混乱が起きないように、いま発表したんです。この変更が効果をなさなかったら、また戻せばいいと思います。もちろんこういうルール変更はMFJが独断で決めているわけではありません。MFJとその周辺、有識者会議、メーカーのモータースポーツ担当の方々も含んでいます」
――ランキング順のゼッケンが、初めてレースを観る人にわかりやすいというのは理解できます。けれど、ライダーやチームの希望ナンバーもわかりやすさがあると思います。たとえば、全日本ロードレース/モトクロス/トライアルが大々的に一般のファンの目につくような露出、プロモーションがあるのならば効果はさらに大きいと思いますが、そういった計画があるんですか?
「今はお話しできません。そういったことも計画中だということです。とにかく今回のルール改正は、将来への第一歩のひとつでしかありません。危機的状況が続いているとみんな知っていて、なんの手も打たない、または小さな変更ばかりを積み重ねてきましたが、それがもう限界なんだということをご理解下さい。できることは何でも、何かしなきゃならない。その思いです」

レース人気を上向きにしたいという思いはみんなが持っている

鈴木会長とのお話はこんなやり取りでした。
私は「賛成はしませんが理解はしました」と電話を切りましたが、雑誌のレース担当者の立場としては、その方がいいならばそうした方がいい、個人的には反対というスタンスです。なにより、大きな改革をしたいという会長の意気込みは理解しますし、初めてのファンを取り込むために効果は少なくない、ということは理解します。この変更が効果を上げたら、私の読みが甘かったという反省はします。効果を上げなかったら、戻せばいいよ、だけなのかな……。それは朝令暮改という、悪いことなのではないのかな。

画像: オートバイレースでパーソナルゼッケンと言えばこの人、バレンティーノ・ロッシと46番

オートバイレースでパーソナルゼッケンと言えばこの人、バレンティーノ・ロッシと46番

チーム、ライダーに断りなく決定事項として発表したことも意見したんですが、これについてはある関係者の方が、チーム、ライダー側の体制の責任もある、と言います。
つまり、こういった変更や決定事項を、MFJがすぐに連絡を取り、ミーティングする体制がチーム、ライダー側にできていない、ということでした。たとえば、全日本ロードレースにある「選手会」が、いつでもMFJとレギュレーションや環境整備について会談できる体制があったならば、こういった事後報告もなかったはずだ、と。

それも一理あるのでしょうが、こういうルール変更は決して小さくないことだけに、決定までに時間をかけて、面倒でも各チームに招集をかけて相互理解を重ねるべきだ、と思うんです。ルールを決めるのはMFJ、そしてその周辺です。でもレースをする側の意見を無視していいものではありません。
結局、希望ゼッケン廃止は、すでに発表されてしまった決定事項です。もう、よほどのことがない限り、2021年シーズンに覆ることはないのでしょう。

それでも、私は今回すごく残念だったのは「結局、なにを言っても無駄なのか」って、チームやライダーに少なからず思わせてしまったこと。
レースは、モータースポーツは、ファンあってのものです。けれど、選手ファーストであるべきだと思います。それが、こんな「発表してしまったから決定ね!」という流れになってしまったことが残念でならないのです。

私のように関係者のはじっこにいる人間でも、モータースポーツに魅力があるから、2輪のレースが起こす化学反応に可能性があるから、レース界には元気になってほしいと思います。それはMFJも4メーカーも、チームもライダーも、すべての関係者も持っていてほしい共通認識のはず。
そのための変革期が始まったのが、この2020年のシーズンオフなのです。

写真/MICHELIN motogp.com 中村浩史 文責/中村浩史

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.