2006年1月のデトロイトモーターショーでワールドプレミアされて話題となっていたレクサスIS Fが2007年10月に日本でデビュー、12月から発売が開始された。レクサスのFモデルは、BMWのMモデル、メルセデスのAMGモデル、アウディのRSモデルに真っ向勝負を挑む意欲作。Motor Magazine誌ではその真の実力を探るべく、BMW M3クーぺを連れ出して取材を行った。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年3月号より)

IS開発当初は「F」の影はまだなかった

「回転の上昇に伴うメリハリの効いたトルクを体感してもらうために、むしろきっちりと『山型トルクカーブ』が欲しかった」。3年目を迎えた日本のレクサスからリリースされたIS Fの開発責任者である矢口幸彦氏が、搭載するエンジンに関して開口一番そう語るこのモデルは、それゆえ絶対的なスピード性能よりも、むしろ操縦をする人へと訴えかける「感性性能」へと重きを置いた開発が行われてきたことを示唆させられる1台でもある。

月産計画台数およそ400台。その大半が北米地区で販売され、日本での月販目標はわずかに40台というこのモデルの価格は766万円。巷で話題の「あのクルマ(GT-R)」が「777万円から」とほぼ同様の価格帯を掲げはするものの、圧倒的なスピード性能こそを極めるべく最先端の技術を惜しげもなく投入し、さながら『テクノロジーフラッグシップ』の様相を見せるあちらのモデルとは、見方によっては対極に位置するとも言えそうなのが、このレクサスIS Fなるニューカマーでもある。

キャビン部分から後方には既存のIS用骨格を流用し、フロントセクションのみにGS用を移植するカタチで、V8エンジンの搭載に対応したというこのモデルの開発が正式にスタートしたのは2003年とのこと。すなわち、ベースとなったISの企画当初には『F』の影はまだ存在していなかった計算だ。

一方、そうして開発の「正規ルート」には乗らなかったクルマづくりのプロセスが、トヨタの作品としては例外的なまでの色濃い個性をこのモデルに許す結果になったとも言えそう。開発チームも既存のISとは分かれていて、それゆえベースであるISシリーズの開発トップ(チーフエンジニア)も、このIS Fについては口出しを許されなかったという。

画像: レクサスIS Fの「F」は、トヨタのホームサーキットでもある富士スピードウェイ、開発拠点である東富士研究所に由来するという。

レクサスIS Fの「F」は、トヨタのホームサーキットでもある富士スピードウェイ、開発拠点である東富士研究所に由来するという。

レクサスらしい上質さとFモデルらしい演出

ホイールベースはそのままに、フロントのオーバーハング延長でより大きなエンジンコンパートメントを稼ぎ出したIS Fのルックスは、そんな長さ感よりもむしろ厚いフードとワイドなフロントフェンダーの造形で「特別なIS」の雰囲気を醸し出す。さながら「パワードーム」とでも表現するのが似合いそうなフード形状が独特の存在感を放つフロントセクションは、なるほどオリジナルのISとは別モノの力強さをアピールする。

ISゆえの特徴として相変わらず室内空間は比較的タイトだが、「サイドサポート強化のためにフレームを加えた」という骨格を持つ専用の本革スポーツシートは、ゆったりとしたサイズ感と高いサポート性を両立。レッドマイカに彩られたテスト車には、ホワイト&ブラック仕様のインテリアが採用されていた。いかにも上質な見栄えのホワイト地のシートは経年使用による汚れ具合がちょっと気がかりだが、単なるスポーツ性のみに留まらないレクサスというブランドゆえの気配りも感じられる仕上がりぶりだ。

ただし、ダッシュボードそのものにはベース車両から手が加えられていないし、ATレバーも多くの車種で見慣れたゲート方式で、このあたりはプレミアムスポーツモデルらしい上質さと個性には少々欠ける印象。美しく発光する青色LED指針が採用されたメーターは、スピードが300km/hスケール、タコが9000rpmスケールで6800rpm以上がレッドゾーンの丸型2眼式。そんな両メーターの中間上部にレイアウトされたインフォメーションディスプレイには、トランスミッションのマニュアルモードをチョイスすると、ホームサーキットでもある富士スピードウェイ/東富士研究所に由来する『F』の文字が浮かび上がるという演出付きだ。

2本の青指針が左から右へスイープ動作をした後、文字盤にも明かりが灯るのを見届けて、いよいよエンジンに火を入れる。冒頭述べたように「山型カーブ」のトルク特性を備えつつ、「低回転域ではLS460用エンジン同等のトルク値が欲しいという点から5Lという排気量に決定した」というV8ユニットは、もちろん瞬時に目を覚ます。軽くアクセルペダルを煽る程度であれば音量は控えめだが、その音質は明らかに念入りのチューニングが感じられるもの。重低音の効いた迫力あるビートは、大排気量の多気筒ユニットならではだ。

画像: IS Fのインテリアは派手なホワイト内装と黒内装の2種類。スパルタンというよりラグジュアリーな雰囲気。

IS Fのインテリアは派手なホワイト内装と黒内装の2種類。スパルタンというよりラグジュアリーな雰囲気。

ライバル視されるM3に対する強み、そして弱みとは

最高420psを発生するV8エンジンを搭載したFRモデルというこの時点ですでに、世界の市場から「IS Fのライバル」と見られるであろうことが避けられないのが、やはり矢口氏の口からも名前の挙がったBMWのM3というモデル。0→100km/h加速タイムは、IS Fとまったくの同一値である4.8秒。ただし、最高速は「紳士協定」によるリミッター採用で250km/hどまりとなる。

IS Fは、日本では「サーキット等、然るべき場所では専用ツールによって人的解除が可能」という180km/hリミッターが課せられるものの、「リミッターがなければ実力は290km/h級」とのこと。ただし、そこまでの速度対応のタイヤを採用すると、今度はそのコンフォート性への悪影響が見込まれるため、日本以外に向けては270km/hリミッターを装着して、タイヤチョイスもそれをベースに行ったという。

一方、8000rpmオーバーという高回転型とすることで、3999ccながら4968ccのIS Fとほぼ同等の最高出力をマークするM3のエンジン。ただし、1リッター近い排気量の差はそれでも埋め難く、最大トルク値では100Nm以上もの大差を付けられるのがこの心臓でもある。

比較すれば車両重量はやや軽いものの、「よーいドン」でアクセルヘダルを床まで踏みつけると、率直なところ、多くのシーンでIS Fの後塵を浴びることが避けられなかった。こと「速さ」という点では、シフト時のパワーフローの断絶が避けられないオーソドックスなMTの宿命の克服や、残念ながら期待値には少々届いていないシフト時の操作剛性感などのフィーリング面改善も含め、今や少々旧態依然としてきたトランスミッションに何らかのテコ入れの時期が迫っているというのが、現状のM3の置かれた立場でもあるだろう。

ただし、絶対的な速さではなくドライビングプレジャーの演出という面では、3ペダル式の生きる道もこの先残されていると個人的には考えたい。いずれにせよ、今のM3にとって「6速MT一本のみ」というのは、明らかにウイークポイントとなりつつある。すでに色々な噂も耳に入りつつあるタイミングだが、この先、M社はココにどのような解決策を見せてくれるのだろうか?

そんなM3が明確に「一矢」を報いたのが足まわりのセッティングだ。というのも、IS Fのフットワークは昨今のハイパフォーマンスカーの中にあっても、ボディに伝わる無用な上下Gが明らかに強過ぎるのだ。

東京湾岸の高速道路を中心に、およそ200kmという距離をM3を伴って走ったIS Fには、残念ながら常にそうしたコンプレインを意識せざるを得なかった。とくに、トンネル内など継ぎ目の続くコンクリート路面を走るとそんな印象は顕著で、ヘッドライトが照らし出す光跡を見比べるだけでも、M3のボディの動きのフラットさが高いことは明らかだった。

今、最高速の実力が250km/hを越える多くのモデルのサスペンションは、電子制御技術の助けを借りている。それは「超高速域の安定性と低速域の快適性を両立させるには必要」という判断に基づいたもので、今回テストのM3にもオプション設定の電子制御式可変減衰力ダンパーEDCが装着されていた。

もちろん、「そうした中でこそ、コンベンショナルなサスペンションでのセットアップを極めたい」というIS F開発陣の思いも理解できないではない。が、一方で結果論からすれば「やはり何らかの補助デバイスが必要なのでは」という解を導くに至ったのが、今回のIS Fの脚の仕上がりぶりであるようにも自分には思えている。

もっとも、今回のテストは時間的制約から高速クルージングというシーンが大半だった。平滑な完全舗装の路面を完備する富士スピードウェイ本コースで行われたプレイベントでは、そのダイナミックなハンドリング性能に賞賛の声が集まったのがIS Fでもある。

いずれにしても、そんなこのクルマはまだまだこの先へと続いていくレクサスFシリーズの第一弾。それが、こうして予想を超えるほどに「尖ったモデル」であったという事実に、また今後への期待も高まってくるものだ。(文:河村康彦/Motor Magazine 2008年3月号より)

画像: レクサスIS Fに搭載されるエンジンはV8DOHC 排気量4968ccの2UR-GSE。LS600hの2UR-FSEとボア×ストロークは同じだがシリンダーヘッドまわりを専用開発している。

レクサスIS Fに搭載されるエンジンはV8DOHC 排気量4968ccの2UR-GSE。LS600hの2UR-FSEとボア×ストロークは同じだがシリンダーヘッドまわりを専用開発している。

ヒットの法則

レクサス IS F 主要諸元

●全長×全幅×全高:4660×1815×1415mm
●ホイールベース:2730mm
●車両重量:1690kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4968cc
●最高出力:423ps/6600rpm
●最大トルク:505Nm/5200rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:8速AT
●車両価格:766万円(2008年)

BMW M3クーペ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4620×1805×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1630kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:3999cc
●最高出力:420ps/8300rpm
●最大トルク:400Nm/3900rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速MT
●車両価格:996万円(2008年)

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.