日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。最終回となる第38回は、人力飛行機で数々の記録を持つ日本大学理工学部の製作現場を訪ねた。(今回の記事は、2018年12月当時の内容です)

人力飛行機を支えるものは学生たちの職人気質だった

画像: タイトル画像:33m以上、アスペクト比36前後の細長い主翼は、大きな揚力を得ながら空気抵抗の軽減に貢献し、1.3Gまで耐える。現在、製作中のメーヴェは36号機となる伝統を継承している。

タイトル画像:33m以上、アスペクト比36前後の細長い主翼は、大きな揚力を得ながら空気抵抗の軽減に貢献し、1.3Gまで耐える。現在、製作中のメーヴェは36号機となる伝統を継承している。

人力飛行機というと、日本では夏のTV特別番組「鳥人間コンテスト」(以下、鳥コン)が有名だ。しかし、番組では機体に関する紹介はまったくない。そこで今回は鳥コンだけでなく、数々の人力飛行機国内記録を持つ、日本大学理工学部 航空研究会のメーヴェを取材した。

人力飛行機の特徴は、たった200Wプラスアルファの人力で、1時間あたり20km以上の距離を飛行できる能力だ。これはどのような機体から生まれるのだろう。(国際規格による日本記録は、メーヴェ21による49.172km。所要時間は1時間48分12秒)

人力飛行機は、メーヴェに限らず一定の条件によって成立している。距離や飛行時間を競う人力飛行機の出力は200Wプラスアルファが限界。対して機体+パイロットの総重量約100kgを浮上させる推進力が必須となる。機体を浮かせる揚力は約100kgで、さらに前方からの空気抵抗の数kgをプロペラの推進力で負かすのが飛行の原理だ。

画像: ゴンドラ型のコクピット。外殻は卵型で、発泡スチロールを究極まで薄く削ってある。開口部に遮熱フィルムを貼り、空気抵抗とパイロットの疲労を避ける。これも長年の経験がものを言う。

ゴンドラ型のコクピット。外殻は卵型で、発泡スチロールを究極まで薄く削ってある。開口部に遮熱フィルムを貼り、空気抵抗とパイロットの疲労を避ける。これも長年の経験がものを言う。

大きな揚力を得るために、大きな主翼=翼面積は約30平方メートル超が必要となり、主翼長は左右両端までが33~35mもある。翼の前後幅は最大でも約1mという極めて細長い形状をしている。主翼に補助翼は一切なく、垂直尾翼で方向、水平尾翼で高度を調整するだけの構造だ。

各翼はカーボンファイバーのパイプ=桁が主骨格として1本あり、主桁に魚の小骨のような翼断面形リブが数十本も差し込まれ、その骨格の上にフィルムを張っている。各翼のおびただしい数のリブは、設計形状に切り出したスタイロフォーム(発泡プラスチック材)にバルサ材を貼り合わせた3層構造。両者の特長を活かしネジレや機械的強度に強く、加工性も良くなっている。さらに1枚のリブにも肉抜き穴が施され、0.1グラムでも軽量化を追求している。翼の外皮は、10ミクロンの熱収縮フィルムを張ってある。強度の必要な部分はスタイロフォームのシートを張った上にフィルムを張るので、外観はブルーに見える。

胴体は強靭な4層カーボンパイプを主骨格に、その前端にプロペラ、続いてコクピットが吊り下がり、上部に主翼、後部に水平尾翼・垂直尾翼の順に配置されている。プロペラはパイロットの脚質とパワーに応じて最適な回転数と回転半径、ネジレ(ピッチ)を決めている。繊細で重要な部分だが、長年の経験を生かした手計算で形状を決め、翼と同じ方法で製作している。驚くのは可変ピッチ式で、飛行中のパイロットの調子により、回転数が変わった場合でも推力を最適にできることだ。

画像: ペダルとクランクはロードレース自転車の最軽量パーツから。98rpmのクランク回転は、垂直に付くシャフトドライブでメインパイプ先端のプロペラハブに伝達され、141rpmで約27Nの推力を発生する。

ペダルとクランクはロードレース自転車の最軽量パーツから。98rpmのクランク回転は、垂直に付くシャフトドライブでメインパイプ先端のプロペラハブに伝達され、141rpmで約27Nの推力を発生する。

コクピットは200Wプラスアルファのパワーを逃さず受け止める、カーボンパイプフレームに座面・操縦ハンドルとクランク+ペダル、絶対に必要な計器類だけの単純なもので、卵型のフェアリングに覆われている。外皮は発泡スチロールと樹脂製で、発泡スチロールの裏面は透けるほどギリギリまで肉抜きしてある。形状は風洞実験ではなく、試験飛行とコンピュータ シミュレーションで最適化している。

動力となるパイロットは、1年生のときに志願し、志願者をエルゴメーターでテストし選出する。すべてがパイロットありきで、毎年7月の鳥コンが終わると、翌年のパイロットに合わせた翼/プロペラ/コクピットの設計が始まる。パイロットの日常は自転車ロードレース選手のようなもので、200Wプラスアルファはロード選手的にいうと、8%の坂をクランク回転98rpmで上るような感じだという。他にも、グライダーで飛行体験を行ったり、練習機で試験飛行を繰り返し、3年生の7月に備える。

人類の夢ともいえる人力飛行機は、ハイテクの世になっても、とても職人気質な世界なのだった。なお、この取材の半年後、メーヴェ36は2019年 鳥コンテストで38km超を飛び、人力プロペラ機ディスタンス部門 2位(歴代3位)の快挙を遂げた。(文 & Photo CG:MazKen、取材協力:日本大学理工学部 航空研究会<NASG>)

※「モンスターマシンに昂ぶる」は今回で終了します。

画像: カーボンパイプの主桁に整然と組まれた、ハンドメイドの主翼リブ。ひとつが3層構造で、肉抜きも施された超軽量構造。尾翼も同じ構造で作られる。根気のいる作業だ。

カーボンパイプの主桁に整然と組まれた、ハンドメイドの主翼リブ。ひとつが3層構造で、肉抜きも施された超軽量構造。尾翼も同じ構造で作られる。根気のいる作業だ。

■メーヴェ33 諸元(鳥コン2016 優勝機)

●全長×全幅×全高:8.43×35×3.96m
●機体重量:38.5kg
●乗員重量:67kg
●プロペラ回転半径:1.54m
●回転数:141rpm
●必要パワー:242W
●推力:28N
●巡航速度:27km/h

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