2007年秋、フランクフルトショーには新型A4やRS6アバントが登場した。そんな中、待たれていた初代R8がついに上陸、日本でもアウディに大きな注目が集まっていた。そこでMotor Magazine誌は2007年11月号でアウディ大特集を企画、今回は上陸早々にツインリンクもてぎで行われたR8国内試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年11月号より)

理想的なバランス、どこにも無駄や無理がない

アウディはツインリンクもてぎに8台ものR8を持ち込んで試乗会を開催した。我々プレスだけではなく、アウディのオーナーやゲストも多く招待された。アウディにとってR8は重要なモデルであり、テクノロジーの象徴、アイデンティティの象徴なのだろう。

ル・マン24時間レースで5度の優勝経験を持つレーシングカーと同じ名前で市販されたアウディR8であるが、このミッドシップ2シータースポーツカーのルーツは1991年に発表されたクワトロ スパイダーやアヴス クワトロにまで遡る。そのコンセプトは2000年のローゼンマイヤー、2003年のル・マン クワトロに引き継がれ、このR8で見事に結実する。つまりアウディは長期にわたってスタディを重ねてきたというわけだ。

R8は誰もが理解しやすいミッドシップスポーツのデザインを持っている。ル・マンで大活躍したレーシングカーのR8のイメージを重ねつつも、嫌みな部分はなく、きれいに仕上げられている。そこが革新技術やパフォーマンスを誇示しないクールなアウディらしいところでもある。それでもドアの後ろのサイドパネルやLEDのポジショニングライトなど、市販車としてR8は強い個性を出しているが。

ダウンフォースを得ることを優先させたデザインでありながら、空気抵抗係数はわずか0.345。派手なウイグやスポイラーに頼らず、ボディ上面と床下の空気の流れを巧みにコントロールしている。アウディの空力テクノロジーの成果というわけだ。

ボディはアルミ製のアウディスペースフレーム(ASF)。初代A8、日本では発売されなかったコンパクトサイズのA2、2代目A8で実績を重ね、このR8に引き継がれた。ネッカーズウルムにあるアウディアルミ研究所から生み出されたものだ。ASFによりR8のボディシェルの重量は210kgと超軽量だ。同じ強度のスチール製と比べると、実に140kgも軽く仕上がっているという。

エンジンはV型8気筒4.2Lで、420ps/7800rpm、430Nm/4500-6000rpmという最高パワーと最大トルクを誇る。このエンジンはRS4のものと基本的に同じだがチューンは変更されている。R8では低い位置にエンジンをマウントさせるため、パワーの取り出しを工夫し、邪魔なオイルパンを取り去ってドライサンプに変更している。これによりサーキット走行などで大きなGが長く続いてもエンジン潤滑には問題が出ないというメリットも生まれている。またストレートインテークポート、全シリンダー等長エキゾーストマニホールドなど、レーシングテクノロジーを満載している。

トランスミッションはエンジンの後方にレイアウトされる。Rトロニックと呼ばれる2ペダルのシーケンシャルマニュアルトランスミッションで、オートモードも備える。

R8はクワトロシステムを採用し、フロントへも駆動力を伝える。ル・マン クワトロではトランスミッションをエンジンの前に置いたが、R8では後方のトランスミッションから右側にアウトプットしエンジンのオイルサンプを通って前輪のデファレンシャルに向かう。後輪はギアボックスを介し機械的につなげられ、前輪はビスカスカップリングを介して駆動される。

ミッドシップによって44対56という前後重量配分を実現しているが、前輪に10%程度のイニシャル駆動力を配分し、後輪の滑りを感知すると最大35%の駆動力を前輪に伝えるというシステムをとる。後輪にはLSDが装備されるが、加速時25%、コースティング時45%のロッキング比を設定。アクセルオンとオフでLSDの効きを変え、ハンドリング性能をチューニングしている。

サスペンションはレーシングカーと同じように前後ダブルウイッシュボーン。サスペンションの構成パーツは鍛造アルミでできている。

ブレーキは前輪が380mm径のローターと8ピストン、後輪は356mm径のローターと4ピストンが装備される。ボディバランスが良いこともあって、ブレーキング時に4輪がうまく制動されていることがわかった。

画像: フロントとリアに対照的に設けられたエアアパーチャー、印象的なサイドパネル、エンジンの搭載位置を強調するサイドブレード、LEDをふんだんに使った光の演出など、存在感のあるデザインだが、よく見ると、派手なスポイラーなどはなく、意外にも全体のシルエットはエレガント。

フロントとリアに対照的に設けられたエアアパーチャー、印象的なサイドパネル、エンジンの搭載位置を強調するサイドブレード、LEDをふんだんに使った光の演出など、存在感のあるデザインだが、よく見ると、派手なスポイラーなどはなく、意外にも全体のシルエットはエレガント。

長距離ドライブも楽にこなしそう

それでは、ツインリンクもてぎロードコースでのインプレッションをお伝えしよう。

ピットに低い姿勢で待つR8に乗り込む。久しぶりの本格的なミッドシップスポーツカーだけに、うまく操作できるかちょっと心配になる。その一方で難しいほど操るのも楽しくなる、という矛盾した期待もある。

しかしコクピットドリルを必要としないR8の発進までの儀式は拍子抜けするほどごく普通で、エクステリアデザインと同様に奇をてらったところはない。メーター類やスイッチ類もいつものアウディそのものだ。

違うのはRトロニックのシフトレバー操作。Nでエンジンを掛け、そのまま左にシフトすると前進モードになる。シフトレバーをもう一度左に動かすと、オートモードとマニュアルモードが切り替わる。ハンドルに付いたパドルシフトを引くか(右手がアップ、左手がダウン)、シフトレバーを前後に動かす(前がアップ、後ろがダウン)ことによってオートモードでもマニュアルシフトができる。ロケットスタートを実現するローンチコントロールもプログラムされている。

シートは完全バケットタイプではないが、さまざまな体型のドライバーがフィットしやすい形状になっている。シートを含めアウディらしくインテリアの質感は高い。キャビンも意外と広く長距離ドライブも楽にできそうだ。

さていよいよコースイン。第1コーナーまでは手応えを確かめながらゆっくりと走る。路面はセミウエット状態だ。水溜りはないものの、レコードラインも濡れた状態。第2コーナーの立ち上がりからアクセルペダルを深く踏み込んでみると、エンジン音の高まりとともにシートバックに押さえつけられる鋭い加速が始まる。5000、6000、7000、8000rpmと回転が上がるごとに気持ちのいいエキゾーストノートを聞かせる。

アクセルペダルの踏み込み具合で音質が変わるが、これは吸気音のチューニングがうまくできているということだ。8000rpmを越えて2速が吹け切ったところで瞬時に3速に入れても、なお鋭い加速が続く。アイポイントが低く路面がどんどん迫ってくるのでスピード感もある。しかし非常に安定感が高く、もっとパワーがあってもいいと思ったくらいだ。

画像: ハンドルを切りながらブレーキングという状況でも、リアタイヤはしっかりと路面に食いついて安定しているので、サーキット走行でも正確なライントレースを見せた。

ハンドルを切りながらブレーキングという状況でも、リアタイヤはしっかりと路面に食いついて安定しているので、サーキット走行でも正確なライントレースを見せた。

基本に忠実に動くのでドライビングが愉しくなる

路面はセミウエットだったが、せっかくのサーキット走行なのでESPをカットして走ってみることにした。

このR8のESPは2段階になっている。通常の一回押しは少し滑るところまではドライバーに任せてくれる。大きく滑ってスピンしそうな状態になると、それを抑えてくれるように作動する。つまりエンジン制御はせず、ブレーキが通常より少し遅れて介入するモードだ。

ESPスイッチを長押しするとエンジンもブレーキもすべてドライバー任せのモードとなる。つまりESPなしになる。セミウエット路面をESPなしで走るとそれなりのリスクがある。少し滑ってドライバーが操っていられるうちはいいが、ミッドシップの特性が出てスピンモードに入ってしまうと、立ち直れなくなりスピンすることになる。

最後はどんな挙動になるのか、少し試してみたくなった。ホームストレッチに出る最後の右コーナーでハンドルを右に切り込みながら素早く床まで踏み込むと、リアが少し滑り出したところで踏みとどまり、そのまま耐えてくれるかと思ったら、次の瞬間にツルンとリアが滑り出しスピンしてしまった。

V字コーナーでもブレーキを残しながらハンドルを切り始めると、リアが滑り出してターンインを助けてくれる。これをやり過ぎてリアの滑りが大きくなると、パワーオンで後輪荷重を増やしても追いつかずスピンしてしまう。

雨が上がり徐々に路面が乾いてきたら、グリップにも粘りが出てきてスピンモードに入る限界が高くなった。ミッドシップのクセが薄れてきたということだ。こうなると、大きめの滑りやドリフトアングルが大きくなってもスピンモードに入らない。

セミウエット路面の時にはESPは一回切りがちょうど良かった。スピンモードに入る手前でブレーキ制御が介入してくれるからだ。ドライビングに失敗した時だけESPのお世話になるということで、安全を確保しつつ自分のドライビングを楽しめ、走りのチェックもできるというわけだ。

ASFのボディがしっかりしているということは、S字カーブでクルマの向きを反転させる時や、210km/hのハイスピードから一気にスピードダウンさせるブレーキング、滑った時の立て直しなどで感じられた。ボディが緩いと応答遅れが出たり、ドライバーが意図しない急な動きが出てドライビングが難しくなったりするが、R8はその点でとても扱いやすかった。

初めて乗って、いきなりサーキットを走っても、さほど難しくなくドライビングを楽しめる。これはドライビングの基本に忠実に動いてくれるからだ。フロントがグリップしていない時にアクセルペダルを踏み込めばアンダーステア傾向が出るものの、フロントが逃げないように走るのは難しくない。コーナリング中にアクセルペダルを戻せばゆっくりとタックインしてくれるし、ブレーキを残せばターンインを強調してくれる。アクセルコントロールが適度に効いて楽しめるのだ。

R8は大きなパワーを搭載する余裕がまだまだあると感じた。きっとR8には続きがあるということだろう。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2007年11月号より)

画像: スポーツカーならではの雰囲気を持ちながら、日常的にも使いやすいことをモットーとしているというだけあって、室内の仕上げは一級品。スポーツカーというより、むしろラグジャリーカーのようだ。

スポーツカーならではの雰囲気を持ちながら、日常的にも使いやすいことをモットーとしているというだけあって、室内の仕上げは一級品。スポーツカーというより、むしろラグジャリーカーのようだ。

ヒットの法則

アウディ R8 主要諸元

●全長×全幅×全高:4435×1905×1250mm
●ホイールベース:2650mm
●車両重量:1630kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4163cc
●最高出力:420ps/7800rpm
●最大トルク:430Nm/4500-6000rpm
●トランスミッション:6速AMT
●駆動方式:4WD
●車両価格:1670万円(2007年)

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