2007年、本国でV70が3代目へとフルモデルチェンジしているが、当時、ボルボは日本市場で大きな動きを見せていた。それはクーぺ、カブリオレ、プレミアムセダンの積極的な投入だ。Motor Magazine誌はエステートやSUVだけでないボルボの新しい魅力に着目して特別企画を組んでいる。ここではその模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年10月号より)

新しいジャンルへの挑戦“C30”

フォードの業績不振に伴い、同社の高級ブランドの集合体であるPAGの今後に関しても様々な噂が囁かれているが、その中核を担うボルボが今やろうとしていることは、新たな顧客層の開拓である。

セダンとエステートの基本形に関してはすでにガッチリと固めた感の強いボルボだが、これらの主たるユーザーが高年齢層、あるいはファミリー層となるのは致し方のないところ。顧客層の拡大を目指す上では、これらとは異なる、ボルボがこれまで挑んで来なかったカテゴリーのクルマが必要となる。

そうした責務を最初に担っていたのは、XC90。このクルマは北米のSUV人気に巧くミートし最量販車種となる成功を収めた。勢いづいたボルボはXCラインをさらに拡大するためボトムレンジにも新型を展開する意向を持っているようだ。

それとは別に同社が新たな期待を寄せているのがクーぺ&カブリオレのCラインである。昨年2006年暮れに日本デビューを果たしたC70は、以前からあるモデルのフルチェンジ版だが、その内容は3分割のリトラクタブルハードトップでクーぺ時もカブリオレ時でも極めて魅力的なスタイリングを実現してみせた上に、シャシもS40/V50系のスモールプラットフォームをベースに変える(先代は850の初代FF系)という大胆な変身ぶり。大小2つのプラットフォームをベースに様々なモデルを展開するボルボが、これまで以上の柔軟性を身につけたことが知れたことでも印象深い新型車だ。

そしてこれに続き、Cラインを強化すべく2007年6月に登場したのがC30だ。これはラインアップ中、最もコンパクトな2ドア+ガラスハッチバック。スモールプラットフォームをベースとするため敢えてクラス分けすればCセグメントになるが、実用性よりもスポーティさ/パーソナル性を際立たせた、ボルボにとっては新しいジャンル/顧客層に挑んだモデルである。狙いは若年層。と同時にこれまで同社に存在しなかったエントリーモデルの役目も担う。

まずはこの2台のインプレッションから始めよう。ともにフロントシート優先のパッケージングなのは当然だが、それでいて後席にも可能な限りの居住性を与えようとしているあたりにボルボの生真面目さが漂う。C30/C70ともフロントシートに大柄な人が座れば後席の足元空間はそれなりに狭くなるが、シート自体は左右2名分と割り切っているため横方向にたっぷりとしている。また、シートバックにも十分な高さがあり、大型の常設式ヘッドレストが備わるのも安全にこだわるボルボらしい。さらに、後部の2脚のシートはセンターにややオフセットして取り付けられるため前方が開けており圧迫感も少ない。

フロントシートは当然のごとく余裕があるが、ショルダーラインを張り出させた安心感の強いスタイリングのせいか、車幅から想像する以上にセンターコンソールがスリムで、左右席の親密度が高い。まあ、この種のクルマはデートカーとしての素養も求められるはずだから、これは一概に否定はできないが。

気になったのは内外装である。リトラクタブルハードトップを持つC70はルーフのセット次第でかなり豊かな表情を楽しめるし、C30の特に後方からの眺めは軽快で新鮮味も非常に強い。が、そのC70にせよ、C30にせよ、新しい顧客層に向けるモデルとしてはやや顔つきが似過ぎてはいないだろうか。これは同じシャシを使うS40/V50にも共通することだ。メーカーの顔に統一性を持たせるという考え方もわかるが、コンサバなセダン&ワゴンと、乗る人のエモーションに訴えるCラインがこうも似ているのは疑問だ。

インテリアも同様。C30とC70はフローティングセンタースタックを中心とする極めて似た内装なのだ。C30は2トーンや複数のシート色を用意して変化を出してはいるものの、それで雰囲気が大きく変わるわけもない。実用車を中心に少数精鋭のラインアップだった頃のボルボならそれでも良いだろうが、これだけラインアップが増えて来ると、モデルごとに際立った個性が欲しい。

走りもまた、同じプラットフォームに同じ5気筒系エンジンということで両車に際立った違いは感じない。ともにこのクラスとしては異例にどっしりとしたステアフィールを持ち、乗り味もタイヤサイズなどにより若干の違いはあるものの、基本的には穏やか。それでいてハンドリングは意外にキビキビとしていて、C30はベースモデルにもかかわらずワインディングでかなり軽快なフットワークを楽しめた。

画像: コンパクトな2ドア+ガラスハッチバックのC30はボルボにとっては新しいジャンルに挑むべく開発されたモデル。取材時の燃費は約10.68km/Lと10・15モード燃費よりもいい数値を記録した。

コンパクトな2ドア+ガラスハッチバックのC30はボルボにとっては新しいジャンルに挑むべく開発されたモデル。取材時の燃費は約10.68km/Lと10・15モード燃費よりもいい数値を記録した。

自然吸気エンジンのマッチングがいいC70

一方、C70はオープンボディゆえの剛性の低さが若干感じられた。特にカブリオレのときはコーナリング中のスキール音が荷重とともに変わる。今回の試乗車がトルクフルな5気筒ターボを積むT-5だったこともあり、パワーのオンオフに伴うスナッチも大きめだ。屋根を閉めたクーぺ状態ではハードトップがストレスを受け持つようで、かなりキリッとした乗り味に変わるのだが。

C70は雰囲気を楽しむクーぺ&カブリオレなので、個人的にはエンジンは5気筒自然吸気で十分だと思う。以前、双方のモデルを試したときも、マイルドながら十分なパワーを持ち、タイヤサイズもワンランク低いことから入力の穏やかなスタンダードのC70の方が総じて好印象であった。

C30もエンジンラインは同じだが、こちらはターボのT-5を選んでみても面白いと思う。コンパクトな2ドアボディは剛性もかなり高く230psを十分にこなしているし、オプションの17インチタイヤとハーダーサスを履いてなおシャキッとした乗り味を維持していた。多少突き上げは強いが、それもスポーツ派にとっては許容できるレベルだろう。そんな骨太な部分もC30は備えている。

画像: リトラクタブルハードトップを備えるC70。ミドルサイズのクーぺ&カブリオレの中でも、そのスタイリングはまとまりが良い。開けても閉めてもスタイリッシュなのは3分割ル−フの賜。

リトラクタブルハードトップを備えるC70。ミドルサイズのクーぺ&カブリオレの中でも、そのスタイリングはまとまりが良い。開けても閉めてもスタイリッシュなのは3分割ル−フの賜。

BLISは全モデルに標準装備してほしい

ところで、今回試乗に連れ出したニューモデルはもう一台ある。昨年2006年11月に日本上陸を果たしたフラッグシップセダンのS80だ。C30がスモールエンドで、S80がビッグエンド。奇しくもそんな構図ができ上がったわけだが、この2台はベースとなる基本骨格からまったく異なるし、搭載エンジンも違うので、共通性を見出せる部分はほとんどない。

V8と直6が揃うS80の中から、今回試乗したのは直6の3.2。4WDではなくFFでアダプティブクルーズコントロールを備える。

S80で注目すべきは、ボルボの持つ最先端技術が細大漏らさず積まれている点。キーユニットをインパネスロットに差し込みボタンを押すエンジンスタートシステムを採用し、足踏み式パーキングブレーキは電動式となった。ベースモデル以外は全車標準となったアダプティブクルーズコントロールは、レーダーで前車との距離を監視し追従走行を行うほか、レーダーを利用して車間距離警報から急制動準備まで行う。自動ブレーキまでは行わないが、それはボルボの安全思想によるもの。最後のコントロールは人間の手に委ねる考え方だ。

その他、隣の車線の後方から接近するクルマの存在をドアミラー付近のライトの点灯で警告するBLIS(ブラインドスポットインフォメーションシステム)も装備するが、これはV8モデルに標準で直6にはオプション。実はBLISはC30にも設定はあるが、これもオプションだ。

その効能は海外で味わっており、かなり有用なことを確認している。ただ、終日豪雨に祟られた新型V70の試乗会では、雨滴による誤作動も多かった。この辺の問題が解決された暁には、全車標準装備となることを願って止まない。コストが掛かるのだろうが、安全を大きな柱とするだけに特色のひとつになりうる。

S80の乗り味だが、九州で行われた試乗会ではまだ足まわりが馴染んでいなかったのか、直6のFFモデルは特に路面の当たりの硬さを感じさせたが、今回の取材車は非常にスムーズかつしなやかな乗り心地となっていた。コーナリングの回頭性もフロント荷重の強い大型FF車としてはかなり軽快な方。エンジンも直6の滑らかさと硬質な回転フィールが心地良い。出力特性自体は低速トルク型で高回転の伸びはもうひとつだが、この上にかなり積極的に回りたがるV8も用意されている。パワー指向の場合はこれを選ぶとして、実用には扱いやすさと好ましいフィールを備えたこの直6が最良のチョイスとなるはずだ。

S80とC30の共通項はほとんど見出せないと述べたが、敢えて探すとすれば、双方とも新しい顧客に語りかけているというところだろうか。フラッグシップのS80は、必要以上に大きく見えない(見せない?)エクステリアデザインを持ち、ドイツ車の手法とはまったく異なる。北欧調の趣味の良いインテリアにも同じことが言える。

C30がこれまでボルボにはいなかった顧客の開拓に向けたクルマなら、S80はドイツ車偏重の高級車市場に新しい魅力を提示し、これまた新しいユーザーの開発に注力したモデルとは言えないだろうか。いずれにせよ、ステアリングを握ったときにどこか「ホッとできる」優しさがある。これこそボルボが昔から育ててきた魅力だと僕は捉えている。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2007年10月号より)

画像: 北欧調の高級セダンという実像を完成させた2代目S80。ドイツ車偏重の高級車市場に一石を投じる。

北欧調の高級セダンという実像を完成させた2代目S80。ドイツ車偏重の高級車市場に一石を投じる。

ヒットの法則

ボルボC30 2.4i Aktiv 主要諸元

●全長×全幅×全高:4250×1780×1430mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1420kg
●エンジン:直5DOHC
●排気量:2434cc
●最高出力:170ps/6000rpm
●最大トルク:230Nm/4400rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:285万円(2007年)

ボルボC70 T-5 主要諸元

●全長×全幅×全高:4580×1835×1405mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1730kg
●エンジン:直5DOHCターボ
●排気量:2521cc
●最高出力:230ps/5000rpm
●最大トルク:320Nm/1500-5000rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:545万円(2007年)

ボルボS80 3.2 主要諸元

●全長×全幅×全高:4850×1860×1495mm
●ホイールベース:2835mm
●車両重量:1700kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:3192cc
●最高出力:238ps/6200rpm
●最大トルク:320Nm/3200rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:640万円(2007年)

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